不特定多数

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2/8/2025, 4:04:33 PM

遠く…


花壇の脇に咲いた小さな黄色の花が春を主張している。あの人が昔何か言っていた気がするけど、忘れちゃった。ついでだから水をやっておいた。
それにしても、なかなか綺麗に咲かすことができた。あの人と選んだ赤のチューリップ。もしかして私ってば、ガーデニングの才能があるんじゃないかしら。少し嬉しくなった。
なんだか最近は思い出すことばかり。この庭も、家も。
そこの裏山なんて、ふきのとうが採れるんだよ、と教えてくれたことまで覚えてる。あのときの誇らしげな顔はちょっと面白かったこともね。
ねえ、そちらにも春は訪れていますか?それとも、まだ寒いかしら。寒かったら私の編んだセーターを活躍させてやってください。
なんて。届くはずもないんだけど。
遠くの、あなたに。

2/6/2025, 4:16:00 PM

静かな夜明け

その日は眠りたくなかった。
静かな家は知らない場所のようだった。
朝が来るのが嫌だった。
明日、学校に行きたくなかった。
朝焼けは緑色だと知った。

2/5/2025, 2:13:24 PM

heart to heart

せいせいしました。多分。きっと。
あの人はあの日もいつも通りでした。
それが理由です。
食べた後の皿を片さないとか、部屋が汚れてても「汚れてる」と私に言うだけとか、そんなことです。そんなことが、たくさん。
何度言ってもあの人はため息をつくばかりだし、ずっとこうなのかって思ったら耐えられなくなっちゃって。
話し合ってる間も涙が出てきて、結婚生活全部無駄だったのかなあ、とか、本当に。
愛していたんですよ。最近まで。

8/31/2024, 6:00:00 PM

不完全な僕

「ただいま……」
昨日までは宛先のいたその言葉は虚しく響く。
人ひとり分がなくなった部屋では僕だけが取り残された様だった。
妙に疲れて料理する気もなかったので、昨日の残り物を温める。ぼうっと回る皿を見ていると、指先で何かが光っていることに気が付いた。彼女とのペアリング。いつか、薬指にも着けるのかなんて笑っていたことを思い出す。レンジの明かりでシルバーがオレンジになっていた。
冷蔵庫のマグネットは君と出かけたときにお土産で買ったこと。マグカップはお互い好きなデザインにしたのに似たものを選んでしまったこと。クッションやぬいぐるみを選ぶのはいつも君だったこと。
部屋を見れば、僕の半分なんじゃないかってくらい君との思い出ばかりだった。
いや、本当に、僕の心で君は半分を占めていて、君が出ていってしまったときから僕の心は半分なくなっている。
この喪失感は自分自身がなくなってしまったから、そういうことなのだ。
これから僕は不完全になる。

8/7/2024, 3:22:11 AM

太陽

あの人を言葉で表すと、太陽だった。
みんなを平等にあたたかく照らし、その光の下にいれば何からも救われるような気すらする。
誰かが光のあるところには影があると言ったが、私の知る限り、あの人自身にはそんなものはなくただひたすらに、光であった。
そして、太陽は一人でも輝くことができた。私が、誰かがいなくても。
その強い光が眩しくて、耐えられなくて。
私には遮光板越しに見ることしか叶わないのです。

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