不特定多数

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7/29/2024, 3:30:12 PM

嵐が来ようとも

ざわざわと風が樹葉を揺らし、空は重く沈んでいる。今朝見た天気予報を思い出す。明日は予報通りの台風だろう。
公園で遊んでいる子供はいつもより少なく、がらんとしていた。
なんというか、台風の前のこういう非日常感が好きだった。翌日を思って最悪と落ち込む人も多かろう。それに、幼い頃は不謹慎と怒られたりもした。だが成長してからも思ってしまうのだから、もう仕方がない。
「ちょっと、わくわくする」
横を歩く君がふいに呟く。別に誰に当てたというわけでも、私に向けて言ったようでもあったそれは、同じようなことを思っていてなんだか面白い。
「コロッケでも買いに行く?」
笑いながら言えば君はふっと吹き出して頷く。
そのまま帰路を外れて一緒に歩いていたら、嵐が来ても、しわくちゃになっても、君のことを考えていたいと思った。

7/26/2024, 5:08:43 PM

誰かのためになるならば

なんて綺麗事だ、と思った。よく顔も知らない人間のために献身できるものだ。これは私が斜に構えているからなのだろうか。ため息をつき本を閉じた。
休憩がてら、コンビニに飲み物でも買いに行くことにする。財布だけ持って家を出た。
家すぐ近くのコンビニは小さいが妙にラインナップが豊富で、店長の趣味じゃないのかと思わされる。小さい頃は、ドリンクコーナーになんだかワクワクしたものだが、もう見慣れてしまったよな。適当にジンジャーエールを取りレジに向かう。
ふと、レジ横の募金箱が目に入り、先程の本のセリフを思い出す。
誰かのためになるならば……
私は、誰かのために自己犠牲を払うなんて、してやらない。ただ、これが誰かのためになっていたらと願うだけだ。
500円を入れておいた。

7/22/2024, 5:35:17 PM

もしもタイムマシンがあったなら 二次創作

もしタイムマシンがあったなら。
もしあったなら、過去に戻れたなら、きっとぼくはあの日の自分を止めるだろう。そうしたなら、ぼくはただの人間のままで、帰るべき家があって、きみに出会うこともなかった。

ぼくを見つけたきみが駆け寄ってくる。小麦色の髪を靡かせながら、人懐っこい笑顔で。
「こんにちは、ワンタタン!」
その優しさがぼくを焦がしていることをきみは知らない。太陽のように、じりじりと、胸が締め付けられる。この身体には心臓なんてないのに。

怖い

そう、ぼくは怖いんだ。
ぼくのことを知られるのが。きみがぼくと一緒にいて好奇の目に晒されるのが。ぼくがきみのことを想ってしまうのが。
もういっそ、避けてくれればいいのに。
ああ、苦しいよ。

7/22/2024, 8:27:05 AM

今一番欲しいもの

たまには掃除でもしようか。そう意識すると、急に部屋が埃っぽい気がしてくる。
それによく見ると、前と比べて使用頻度は変わっていないというのに、本棚やスツールやらが薄く埃を被っている。
雑巾を取り出して、部屋全体に乾拭きをかける。一つずつ多い家具はまだ捨てられず、使う人もいないのに丁寧に掃除をする。
不意にハッとして窓を見る。きっちり閉まっている。換気をしないといけないのだった。
いつも開けるのを忘れて注意されていたのに、もう気付くことのできる人は私しかいない。
少し肌寒くなってきたこの季節では気が進まないが、仕方ないので窓を開けた。
木枯らしが私の髪を揺らし、頬を撫ぜ、通り過ぎる。人ひとり分の温度がないこの部屋には、残滓だけが残っている。
ああ、あなたの温もりが欲しい。そう思った。

7/20/2024, 4:49:13 PM

私の名前

ぼくは村田ゆう。お道具箱にもそう書いてある。教えてもらった。
お母さんはよく「おい」とか「お前」とかぼくを呼ぶ。あまり分からないけど、多分これもぼくの名前。
クラスの人はぼくを「ゲジゲジ」と呼ぶ。何かは知らないけど、これもぼくの名前。
今日は算数のテストがある。先生が名前を忘れずに書くようにと言っている。名前を書こうとした。書こうとした。
どの名前を書けばいいんだろう。分からない。どうやって書くんだろう。分からない。どうしたらいいんだろう。分からなかった。

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