わたあめ

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12/28/2024, 8:18:56 AM

 木枯らしが吹く季節になった。コートの背中を丸めて駅への道を急ぐ人々の波に乗る。子どもの頃、上着のポケットに手を入れて歩くと怒られた。それで大人になった今もまだポケットに手を入れて歩くことに慣れない。家に帰ったら手袋を探そうと心に決めた。
 家について冬物を入れているクローゼットの引き出しを開ける。「確かこの辺にまとめて入れたんだけどなあ」と思いながら、ごそごそと奥に手を入れる。
 部屋で履いていた毛糸の靴下が出てきた。これも出しておこう。続いて、マフラーにニット帽も出てきた。ついに出てきたベージュの手袋。
 手ぶくろに手を入れるとちくりと何かが刺さったような感じがした。慌てて手を出して、何かが刺さった部分を見る。特に問題はなさそうだ。
 手ぶくろをひっくり返して見る。何か動いているものがいる。虫?恐る恐る手ぶくろを目の近くに持ってくる。1センチくらいの…何だろう。人の形をしている。小人?宇宙人?
 私はどうしたらいいかわからず、その生き物の動きを見守ってみることにした。
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お題:手ぶくろ

12/27/2024, 9:33:09 AM

 あるところに美しいものが大好きな王様がおりました。
 王様は国中から美しいものを持って来させました。色とりどりの美しい宝石に、荘厳な装いの美しい衣装。美しい美術品に囲まれて王様は幸せでした。
 ただ、どんなに美しい物でも毎日見ていると飽きてしまうのです。

 王様は日々変化する美しい物を求めるようになりました。
 虹色に輝く美しい花が贈られました。毎日姿を変える花を美しいと思いました。でも、すぐに枯れてしまう花を見てとても悲しくなりました。
 黄金色の翼を持つ美しい鳥が献上されました。王様は美しい鳥に惚れ惚れしました。この鳥が羽ばたいているところを見たいと思いました。庭に放たれた鳥は大空へと飛び立ってしまいました。

 ある日、王様が馬車に乗って街を走っている時、とても美しい女の人を見かけました。
 王様はその女の人をお城に招待しました。女の人は心も美しく王様は女の人と結婚しました。
 王様はもう美しい物を欲しがらなくなりました。
 だって世界で最も美しい人が自分のそばにいてくれるのですから。
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お題:変わらないものはない

「変わらないものはない」と言うけれど、「変わらないものはない」という事は変わらないのかな?そしたら、「変わらないものはない」という事も変わるという事?よくわからないな。

12/26/2024, 6:06:55 AM

 太陽が南の空高くになって、ようやくサンタクロースとトナカイたちは自分たちの村を目にする事ができた。
 陽が登ってからの空の移動はいつもより暑く何度も休憩が必要だったし、人目を避けるために少し遠回りをしなければならなかった。
 自分たちの家に着いた安堵と普段とは違う旅をしてきた事の興奮でトナカイたちはおしゃべりになる。
 「2つ目に立ち寄った湖がよかったな」
 「そうだな。あそこの水を本当に美味かった」
 「飛び立つ俺たちを見た時の水鳥の顔を見たかい?」
 「ああ、目が飛び出しそうになっていたな」

 家の上空まで来ると、家の前でドワーフたちがサンタクロースとトナカイたちに手を振っているのが見える。
 明け方まで呑んだ後、ひと眠りしたのだろう。みんなすっきりした顔をしている。12月に入ってから忙しい日々が続きみんなピリピリした空気を醸し出していたが、今日はいつも通り穏やかな表情をしている。
 
 地上に降りるとドワーフたちが駆け寄ってきた。
 「ずいぶん遅かったじゃないですか」「心配しましたよ」と口々に声をかけてくる。
 「まあまあ、話は中でゆっくりしようじゃないか」と言いながらサンタクロースは家の扉を開けて、みんなを招き入れる。

 暖炉に火を灯し、ソファに腰をかけて話しはじめた。
 クリスマスイブの夜、家を出るのが遅くなってプレゼントを配る時間がなくなった事。
 ドワーフたちはびっくりする。自分たちが丹精込めて作ったプレゼントはどうなったのかと大騒ぎ。
 「まぁ落ち着いて」とサンタクロース。そして、子どもたちへのプレゼントを広場に並べた事を話す。ドワーフたちはそわそわしながらサンタクロースの話を聞く。
 子どもたちが広場に集まってクリスマスのプレゼントを開けた事。「サムエルの作ったぬいぐるみ、小さな女の子が胸に抱きしめておったぞ」
 ドワーフたちから歓声が上がる。
「私の作ったゲームはどうだった?」「私の包んだプレゼントはどうだった?」ドワーフたちは一斉にサンタクロースに質問する。サンタクロースはみんなに子どもたちの喜ぶ姿を語って聞かせる。
 ドワーフたちはその話を聞いて、自分の仕事がそんなに子どもたちを喜ばせていたのかと誇らしい気持ちでいっぱいになった。

 ひとしきり話が終わったところで、ドワーフのパラスがサンタクロースに聞いた。
「毎年、子どもたちからもらうお菓子はどうなった?」
 いつもプレゼントをおいていく場所にお菓子がおいてある。それを全部持って帰ってきてみんなで分けるのがクリスマスの楽しみになっていた。
 「それは…」もごもごと口を濁すサンタクロース。お菓子の事はすっかり忘れていたのだ。
 「チョコレート、楽しみにしていたのになぁ」「クッキーたべたかったなぁ」ドワーフたちから一斉にクレームがあがった。
 「わ、悪かった。よし、わしがクッキーを焼こう」そう言ってサンタクロースはキッチンへ向かう。ドワーフたちもぞろぞろとサンタクロースの後をつける。
 
 しばらくしてクッキーの焼けるいい香りが家中に漂ってきた。みんなで焼いたクッキーをみんなで食べる。みんな幸せな気分でクリスマスの日を過ごしました。

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お題:クリスマスの過ごし方

クリスマス三部作になりました。一昨日と昨日の作品も読んでみてください。

12/25/2024, 11:07:44 AM


「やっと終わりましたよー」と言いながら暖簾をくぐってきたのは、ラッピングチームのドワーフ達だ。
「やぁ、お疲れ様」「先にはじめちゃってますよー」中で待っていたドワーフたちが赤い顔をして声をかける。

ここはドワーフたちの酒呑場。
今日は納会。プレゼントを無事に作り終えたお祝いだ。
「では、みんな揃ったところで改めまして。お疲れ様でした!かんぱ〜い」みんな酒の入ったグラスを掲げる。
「今年もみんなのおかげで無事にプレゼントを送り出す事ができました。今日は思う存分、飲んで食べて発散させてください」リーダーからの陽気な掛け声と共に、ごちそうがテーブルに並んでいく。
ドワーフたちは近くの仲間たちとわいわいと話出す。

「毎年の事ではありますが、いつも注文がギリギリなんですよね。」
「全く。夏くらいから注文してくれたら、こちらも準備に時間が取れるのに」
「みんな12月に入らないと決めないんですよね」
「今年は突然の注文変更も多かったですしねぇ」
「本当に。こっちの都合も考えてほしいものですよ」

「いや、でも今年も無事に終わってよかった、よかった」
「後はサンタクロースが無事に届けてくれるのを待つばかり」
「サンタクロース、早く帰ってこないかなぁ」
「そうですね。締めのデザートは子どもたちからのおやつに限りますからね」

朝までこうして飲み明かす。それがこのドワーフたちのクリスマスイブ。
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お題:イブの夜

12/24/2024, 10:33:46 AM

「そろそろ起きてください。間に合わなくなりますよ」
トナカイのダーシャがサンタクロースの肩を揺する。
「もう少し寝かせておくれ」と布団を顔にかけるサンタクロース。
「全くうちのサンタクロースはなんでこんなにネボスケなんだ」と呆れたように別のトナカイ、ドミーが言う。
「荷物の準備はできてるかい?」ダーシャはドミーに尋ねる。
「もちろん、キューピたちがしっかりやってくれているよ」

 ダーシャはもう一度サンタクロースを起こしにかかる。
「今日はクリスマスですよ。みんながあなたを待っているんですよ」
 サンタクロースはしぶしぶ布団から起き出し、ノロノロと準備を始める。赤いズボンに脚を入れながら、「おや、ちょっと太ったかな。ズボンがきつくなってるぞ」なんてぼやきながら。

「サンタさん、もう行きますよ」
家の外でトナカイたちはそわそわしている。サンタクロースは上着を着て玄関から外にでる。外はすっかり雪の積もり、冷たい風がサンタクロースの顔にあたる。もう日付が変わる時間になっている。
「おお、寒い。早くプレゼントを配り終えて温かい布団でもうひと眠りしたいものだ」

 トナカイの引くソリに乗り街へ着く頃には、空がうっすらと白み始めている。
「困ったなぁ、一軒ずつ回っていたらみんな起き出してしまうぞ…」とサンタクロース。
「だから、早く起きてくださいって言ったんですよ」ダーシャは呆れたように言う。
「そうだ!みんなにプレゼントを取りに来てもらおう!」サンタクロースは名案だと言うように声をあげる。

 街で一番大きなクリスマスツリーの飾ってある広場へ向かう。そして、そりに積んできたプレゼントひとつひとつに名前を書いていく。それをクリスマスツリーの下に並べていく。
 朝日が顔を出す頃、ようやく全てのプレゼントを並び終える事ができた。

 クリスマスの朝、目が覚めた子どもたち、待ち望んでいたプレゼントは届いていない。落胆の気持ち、不思議な気持ち、悲しい気持ち。みんな元気のない様子でいると街の広場から楽しそうな音楽が聴こえてくる。トナカイたちがベルでクリスマスの音楽を奏でる。誘われるように広場に子どもたちが集まる。

 人が来るのがわかるとトナカイとサンタクロースは広場の奥にある木立の影に身を潜めた。
 子どもたちがプレゼントに気がつく。
 「僕の名前が書いてある!」「私のはこれだわ!」
 次々にプレゼントを開ける。子どもたちの歓喜の声が広場に響き渡る。友達とプレゼントを見せ合う子どもたち。プレゼントを抱きしめる子どもたち。すぐに遊び始める子どもたち。どの子の顔もキラキラと輝いている。しばらくして子どもたちは広場を後にする。

 全てのプレゼントが行き渡った事を確認して、サンタクロースとトナカイも家路に着く。サンタクロースは独り言のように呟く。
「子どもたちはみんな、あんなに喜んでくれていたんだね。いつも運んで終わりだったから、全然知らなかったよ。来年からも頑張らないとな」


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お題:プレゼント

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