お風呂に入ると柑橘系の香りがふわりと鼻先にかかる。
普段の使っている入浴剤では少し薬品の匂いが気になるが今日は違う。入浴剤と比べると匂い自体は弱いが、浴室全体を包み込む優しい香りだ。
湯船に脚を入れる。私の起こした波で丸い果実はが端に移動する。身体をゆっくりお湯に沈める。今日一日溜めてきた重たい感情を吐き出すように、ふぅっと息を吐き出す。
端っこでぷかぷか浮かぶ果実をつかまえて、鼻に近づける。優しい香りがする。
仕事から帰る私を思って買ってきてくれたのか。
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お題:ゆずの香り
人々は空を手に入れるために競うように高い建物を建設していった。人々は高い場所からでしか空を見ることができなくなった。空を見る事は富と権力の象徴となった。
私のような庶民は、ほとんど空を見る事ができない。頭上を見上げてもビルの隙間から僅かに空が覗く程度である。
陽の光が射すこともなく、辺りは一日中薄暗い。
太陽の光が届かない事が人々の肉体と精神を病んでいった。
そのため、階下で暮らす者たちはサンライトランプという人口の光を浴びる。しかし、それを浴びる時間も場所も制限されており快適であるとは言いがたった。
『大空』それを見たのは図書館で見つけた写真集だった。数十年程前に出版されたその書籍には、真っ青な空の下に広がる
私はこの街を出ることにした。
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お題:大空
チリン、チリン。
小さな鈴の音を立てながら僕のそばまでやってくる。
チリリン、チリリン。
急いでいるのかな。いつもより鈴の音が早く鳴ってるよ。
チリーン、チリーン。
おや、何かあったの?鈴の音が寂しそうだよ。
チリン、リリン。
今日はずいぶん楽しそう。スキップのような鈴の音。
いつも僕が先に着く待ち合わせの場所。
君のかばんに着いた小さな鈴の音を今日も楽しみにしている。
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お題:ベルの音
寂しさを感じる時。
それは、仲の良い友人が思い出話に花を咲かせている時。
話についていけないのだ。
写真には確かに若かりし頃の私が写っている。
「一緒に行ったじゃない」と言われれば、確かに行ったような気もする。
こんな話してさ…とか言われるとよくわからない。
その時どんな気持ちだったか…全くわからない。
楽しかったのか、嬉しかったのか、はたまた悲しかったのか。
「昔の事はよく覚えているんだけどね…」という症状ではない。昨日の晩ごはんも明確に覚えているし、仕事を忘れる事もほとんどない。たまにはあるが人並み程度だと思っている。
記憶の容量が少ないのか、記憶の保存期間が短いのか。
なかなかこれという理由が見出せない。
なぜだろう。写真に写る私は本当に私なんだろうか。
どこかで中身が入れ替わってしまったのか。
いつか何かのタイミングで全てを思い出すかもしれない。
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お題:寂しさ
こうさぎのフワリのもとに
こぐまのマリから手紙が届きました。
冬はお外にでかけられません。
ぜひうちに遊びに来てください。
雪がたくさん積もっています。季節はすっかり冬になりました。
フワリは小さな雪だるまを作ります。それを持ってマリの家へ遊びに行きました。
「マリ、遊びに来たよ」
「フワリ、いらっしゃい。まぁ、かわいい雪だるま」
フワリは窓から見える場所に雪だるまを飾りました。
しばらくすると、こりすのスキップがやってきました。
「マリ、遊びにきたよ」
スキップは、クルミのクッキーを焼いてきてくれました。
またしばらくすると、シジュウカラのピピとリリがやってきます。
2人は冬の間に練習した素敵な歌を披露してくれました。
マリははちみつ入りの紅茶を淹れてくれました。
そして、みんなでスキップの焼いたクッキーを食べます。
寒い日だけど、マリのお家はあっかたで、みんなの気持ちもあったかで、とてもとても幸せでした。
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お題:冬は一緒に