『土曜日、何時集合する?』
通知音と共にやってきたメッセージは、スマホのロック画面に映し出されたままだった。
秋(あき)は作業を中断し、スマホを手にとってメッセージを開こうとする。が、途中でそれを止めた。
「はぁ...」
本来であれば嬉しいはずのメッセージが、どうにか憂鬱で開けそうもない。
それもそう、昨日送り主の拓也(たくや)が見知らぬ花屋の店員と楽しそうに会話していたのを見てしまったからだ。
秋はその光景が忘れられなかった。
自分ではない人とはあんな風に笑うんだなとか、相当仲の良い関係なんだなとか。
(もしかして彼女だったりするのかな)
トーク画面を開こうとする。
昨日会ってた人って誰?もしかして彼女いるの?聞けば彼は答えてくれるだろう。
でもその聞いた事が原因で遊びに行かなくなったら?
その店員のことが気になってしまったら?
「......はぁ」
本日二度目の溜め息を流す。
スマホの操作を止め、机にコトリ、と置く。椅子に深く腰かけて空を仰いだ。
(私ってこんな面倒だったかな...)
秋は拓也からのメッセージを、とりあえず保留しておくことにした。
お題 「開けないLINE」
出演 秋 拓也
俺が少し回想に頭を使うと、ここの人物達は時が止まったように動かなくなる。
(俺の思考から色づいてくのは、俺がこの世界の中心になって......きっとこの子達の会話だって俺が......世界観を考えろ俺...)
「...本当にゼンマイがついてんのかな」
俺の放った一言は、誰にも拾われることなく床に落ちていった。
「よし、次行くか」
ぺちっ、と膝を叩き「よっこらせ」と年老いた掛け声をつけて立ち上がった。
一番後ろの席まで向かい、閉ざされた扉の前に立つ。
扉には黄色いテープが一つ。そこに黒色で『きーぷ あうと!』と書かれていた。
(キープアウト...?立ち入り禁止、だっけ確か。まぁいいでしょ)
俺は扉に手をかける。
「お客様」
すぐ後ろで声がして、俺はびっくりして肩を震わせた。
「この先は立ち入り禁止です。お戻り下さい」
「...す、みません」
ぱっ、と手を離す。
「......この先ってなんで立ち入り禁止なんですか?」
俺は聞いてみた。
「............」
深く帽子を被って、何も話さない。俺は返事を待つようにつられて黙った。
「...この先は不十分な空間です。立ち入るのは危険です」
不十分な空間。
(そうだ、俺はこの以前を覚えてない。何があるのか......)
「......わかりました」
俺は奥に向かうことを止めた。
「それでは、ごゆっくり…」
「ちょっと待ってよ」
「はい、なんでしょう」
「俺、君の話が聞きたいな。それに、俺の話にまだ出てない。どうかな」
帽子から覗く目と合う。
これは、良いという事なのだろうか?
お題 「不完全な僕」
「もしかして、香水つけてる?」
雪(ゆき)は葉瀬(ようせ)にプリを渡しながら尋ねる。
「ん?つけてないけど?」
「マジ?さっきプリ撮った時いつもと違う香りしたから、今日だけ香水つけてたのかと思った。違うのかよ」
葉瀬は何故雪がそう言うのか分からなかった。何か生活が劇的に変わらない限り、匂いなど変化しないはずだが...
「......あ」
「何?なんか心当たりあんの?」
「あー......うん!!!」
「え、何」
葉瀬は何かに気づき、気まずそうに勢いよく返事をした。ただならぬ気配を感じた雪は、焦ってそのまま口から出た言葉を返してしまった。
「......じゅ」
「じゅ?」
「柔軟剤が変わりました!」
「柔軟剤」
相変わらず葉瀬は気まずさ全開の返事をする。雪は不安で思わず復唱した。
「たぶん柔軟剤ですね!」
「へ、ぇ......そ、それは何故...?」
葉瀬は諦めたように笑って、雪を見つめる。そして、深呼吸してこう言った。
「彼氏が出来ました!!!言ってなくてごめんね!!!」
「へぇー......ぇええぇぇ!!?」
てへぺろ、と先程の様に諦めて笑う。
「え、彼氏できたのか!?おめでとう!!って出来たら俺に教えろって言ったよね!?」
「ごめーーんね!!」
「許さん」
「てへぺろ」
「もっと心込めろ。俺の方が可愛く言えるぞ」
「絶対言わないし聞かないよ」
葉瀬は、ちらりと時計を見る。あれから少し話し込んでしまったらしい。
「そろそろカフェ行こうか」
「そうだな。じゃあそこで馴れ初めとか聞かせてもらお。柔軟剤変わったってことはその彼氏と同じ香りなんだぁ~ってことは一緒に住んでるのか!聞くのが楽しみだな~」
「...答えられる範囲の質問でお願いします」
「ええ~どうしようかぁ?」
雪は悪戯っぽく笑っていた。
お題 「香水」
出演 葉瀬 雪
「.........」
「真人(まひと)クンは今でもカレー🍛好きなんだネ!」
ふんふん、とテーブルを挟んで向かいに座り、顔に両手を添えてこちらを見るのは高校の時に事故で死んだはずの陽太(ひなた)。なんでこうなってるか?俺も知らん。
確実に言えることは、陽太はこの大学に入学してない。
俺はカレーを食べる手を止め、目の前に座るやつに話しかける。
「...俺の知る陽太は、高校の時に死んだ。ボロが出る前に止めておくのがいいと思う」
「んー、俺は真人の知ってる陽太なんだけどなー......あ!俺の知ってる真人の話すればいいのか!」
「は?」
なんか凄い目を輝かせている。
...嫌な予感が。
「んーとね、真人は全然モテなかったよね。俺が告白された時断るーって話してたら『半分俺にわけろ』って言ってたよね!あと適当に彼女作れって言ってたのも覚えてるよ~あとは」
そこまで言って俺は陽太の口を塞いだ。これ以上いい話が聞ける気がしない。そしてコイツは陽太だ。
「もういい。陽太なのはわかった」
「ふふ!むふふもふもも!」
「でも陽太は死んだだろ」
ぴたり、と陽太は動きを止める。
俺だって考えたくはなかった。あの夏の、交差点の、血飛沫を。
「陽太は......死んだんだ」
俺に夢を見せないでくれ。
「.........真人!」
いつの間にか俺の手は退かされ、陽太が何かを誇るように話す。
「この陽太クンは期間限定で蘇ったのだ!これから一年間しかないけど...よろしくな真人!」
そう言って彼は笑っていた。
おい、情報少なすぎるだろ。
お題 「向かい合わせ」
出演 真人 陽太
どうもこんにちは皆さん!陽太(ひなた)です!
そして目の前にいるのは堕天使のブロック...なんだっけ、あんこくん?あ、アンノウン。です!どうしてそうなってるかって?
それは数年前に遡る...
俺は高二?高三?の時に事故に巻き込まれて人生に幕引きをした。した、と言ってるけど別に望んでやったんじゃない。
本当は、もっと色んな事をしたかった。
真人(まひと)とだって、あんなおしまいの仕方したくなかった。
悲しませたくなかった。
俺が居なくなってから、真人はちょっとおかしくなったんだ。
誰も居ない席を見つめたり、アイスを間違えて二個買ったり、電車に気づかず線路を渡ろうとしたり...挙げるとキリがないよ!
でも俺は何も出来なかった。見えてないんだ。
家に遊びに行っても、勝手にベッドに寝転がっても、真人専用の机に座っても、ずっと無反応だった。
俺が出来る真人の為って、なんだろうって。
俺の名前呼んでるから返事してるのに、何も返してくれないし...俺結構色んな返事したんだよ?最初は『何?』だったけど最近は『なんだい天才学生👨🎓真人クン❗』とか『はぁーい!陽太クンのお出ましよっ😏』ってバージョン変えてるのに!それでも無視!
それに最近真人は大学生になって、よくない友達とつるんでいるのをよく見かけている。
駄目だよあの野郎は!!人の弱みにつけこんで!!真人までそうなっちゃったらどうするの!!真人真面目なのに!!
ねぇ、俺はどうしたらいい?
ねぇ、真人。
......ねぇ!!
「そこの若いやつ、私と契約する気はないか?」
そう。俺の目の前にはいつの間にか、黒い翼を纏った人?がいた。
そして冒頭に戻る!!
「私と契約して、貴方の願いを叶えよう」
願い?
「富でも名声でも。友とも会話でも」
え、いいの!?
「あぁ、いいとも。ただし契約は守ってもらおう」
「はよ真人」
「ん」
「おはよう真人!」
「......は?」
席に荷物を置こうとしていた真人は隣を見て固まる。
「また会ったね!改めましてよろしくね!真人クン!😆」
お題 「やるせない気持ち」
出演 陽太 真人 ブロック・アンノウン 実