「.........」
「真人(まひと)クンは今でもカレー🍛好きなんだネ!」
ふんふん、とテーブルを挟んで向かいに座り、顔に両手を添えてこちらを見るのは高校の時に事故で死んだはずの陽太(ひなた)。なんでこうなってるか?俺も知らん。
確実に言えることは、陽太はこの大学に入学してない。
俺はカレーを食べる手を止め、目の前に座るやつに話しかける。
「...俺の知る陽太は、高校の時に死んだ。ボロが出る前に止めておくのがいいと思う」
「んー、俺は真人の知ってる陽太なんだけどなー......あ!俺の知ってる真人の話すればいいのか!」
「は?」
なんか凄い目を輝かせている。
...嫌な予感が。
「んーとね、真人は全然モテなかったよね。俺が告白された時断るーって話してたら『半分俺にわけろ』って言ってたよね!あと適当に彼女作れって言ってたのも覚えてるよ~あとは」
そこまで言って俺は陽太の口を塞いだ。これ以上いい話が聞ける気がしない。そしてコイツは陽太だ。
「もういい。陽太なのはわかった」
「ふふ!むふふもふもも!」
「でも陽太は死んだだろ」
ぴたり、と陽太は動きを止める。
俺だって考えたくはなかった。あの夏の、交差点の、血飛沫を。
「陽太は......死んだんだ」
俺に夢を見せないでくれ。
「.........真人!」
いつの間にか俺の手は退かされ、陽太が何かを誇るように話す。
「この陽太クンは期間限定で蘇ったのだ!これから一年間しかないけど...よろしくな真人!」
そう言って彼は笑っていた。
おい、情報少なすぎるだろ。
お題 「向かい合わせ」
出演 真人 陽太
どうもこんにちは皆さん!陽太(ひなた)です!
そして目の前にいるのは堕天使のブロック...なんだっけ、あんこくん?あ、アンノウン。です!どうしてそうなってるかって?
それは数年前に遡る...
俺は高二?高三?の時に事故に巻き込まれて人生に幕引きをした。した、と言ってるけど別に望んでやったんじゃない。
本当は、もっと色んな事をしたかった。
真人(まひと)とだって、あんなおしまいの仕方したくなかった。
悲しませたくなかった。
俺が居なくなってから、真人はちょっとおかしくなったんだ。
誰も居ない席を見つめたり、アイスを間違えて二個買ったり、電車に気づかず線路を渡ろうとしたり...挙げるとキリがないよ!
でも俺は何も出来なかった。見えてないんだ。
家に遊びに行っても、勝手にベッドに寝転がっても、真人専用の机に座っても、ずっと無反応だった。
俺が出来る真人の為って、なんだろうって。
俺の名前呼んでるから返事してるのに、何も返してくれないし...俺結構色んな返事したんだよ?最初は『何?』だったけど最近は『なんだい天才学生👨🎓真人クン❗』とか『はぁーい!陽太クンのお出ましよっ😏』ってバージョン変えてるのに!それでも無視!
それに最近真人は大学生になって、よくない友達とつるんでいるのをよく見かけている。
駄目だよあの野郎は!!人の弱みにつけこんで!!真人までそうなっちゃったらどうするの!!真人真面目なのに!!
ねぇ、俺はどうしたらいい?
ねぇ、真人。
......ねぇ!!
「そこの若いやつ、私と契約する気はないか?」
そう。俺の目の前にはいつの間にか、黒い翼を纏った人?がいた。
そして冒頭に戻る!!
「私と契約して、貴方の願いを叶えよう」
願い?
「富でも名声でも。友とも会話でも」
え、いいの!?
「あぁ、いいとも。ただし契約は守ってもらおう」
「はよ真人」
「ん」
「おはよう真人!」
「......は?」
席に荷物を置こうとしていた真人は隣を見て固まる。
「また会ったね!改めましてよろしくね!真人クン!😆」
お題 「やるせない気持ち」
出演 陽太 真人 ブロック・アンノウン 実
「ハッピーバースデー葉瀬(ようせ)」
上を見上げると黒髪の少年がこちらを覗き込んでいる。
何、ハッピーバースデー?
「誕生日おめでとう、もう君✕✕歳だよね」
結構年取ったよねぇ?と笑いながら話しかけてくる。
「まぁ俺の中ではまだ10にもなってないけど。まだまだ赤ちゃんだねぇ」
目が笑ってない。よしよし、と頭を撫でられる。
何急に。
「君に誕生日プレゼントを渡そうと思って」
はいこれ、と顔の前に出されたのは片手に収まる程度の小さな箱。
「鏡だよ」
鏡?
「身だしなみとか大事でしょ?常に持ち歩いてチェックしなよ」
開ける前にネタバレするやつ居るかよ。
「それがここに居るんだよねぇ。実用性あるからいいでしょ?本当は鏡って題名、違う話書きたかったけど我慢して書いたんだから受け取ってね」
なんでそこまでしてくれたの。
「だって君、誕生日でしょ?」
なんて雑な理由なんだ、と考える。
「君には、俺に叶えられないことを叶えてほしいんだよ」
ぐいっ、と両頬を捕まれて顔を向かせられる。
「君は、俺の鏡なんだから」
「...ん」
目を覚ますと、いつもの天井。
(さっきのは夢......あれ?どんな夢見てたんだっけ)
体を起こすとカタン、と何かが落ちる。
「......?」
片手に収まる程度の小さな箱。その中には綺麗な青い装飾が施された鏡が入っていた。
お題 「鏡」
出演 葉瀬
夏。学校が終わって、がら空きの電車内で椅子に座る真人(まひと)と陽太(ひなた)。
「今日すっごい暑かったよねー」
「うん...」
「暑すぎて体育とか死ぬかと思った~」
「ん......」
「......真人眠い?」
陽太が聞くと「ん......」と静かに返事が来た。
「そっか」
「...ん...」
ん、しか言わなくなった彼は、もうほとんど目が開いていなかった。珍しいな、と陽太はぼんやり考える。
(疲れてたのかな)
なんて事を思っていると、左側に少しだけ圧がかかる。陽太は目だけ動かすと真人が眠っているのが確認できた。
(真人が寝てる......一つ前くらいで起こそうかな)
陽太は向かいの窓の向こう側を眺めて思っていた。
『_____......まもなく終点です』
陽太は、ぱちっと目を開ける。
まずい、やってしまった!
陽太は真人を起こすはずが、自分も一緒に寝てしまったのだった。
「ま、真人起きて!終点!」
「んー…...は゛?終点?」
真人をゆさゆさと揺すり起こす。眠い目を擦り、『終点』という言葉で覚醒し始めた。
「え゛?陽太も寝てたのか」
「ほんとーーーに、ごめーーん」
ぱんっ、と両手を合わせる。はぁ、と溜め息をつく。
「仕方ない。俺だって寝てたからな」
「申し訳なーーい」
数分後、電車が停止して真人と陽太は駅へと降りた。
「次の出発はー......一時間半後か」
「一時間半!!?」
おーまいがー!と陽太は空を仰ぐ。
「歩いて帰ってたらそれ以上かかるし、待つか」
「おーまじかー!!その前に俺達溶けちゃうよぉー!」
「静かにしろ、余計暑くなる」
陽太は頭を抱えて地面に叫ぶ。すると真人は何かを見つけたようだ。
「......お、陽太」
「何真人!」
「このあつーい待ち時間を打破する物があるぞ」
その発言に陽太は顔を上げる。ぴっ、と指差した先には『氷』と書かれた旗が揺れていた。
「.........かき氷っ!!?」
「そ」
暑いし食おう、と真人が言い終わるか終わらないかの内に、陽太はその旗に向かって駆け出していた。
「おまっ...!走るな!!!転ぶぞ!!!」
「真人早く早く!!」
気づいた時には既に陽太は旗の真下に居た。両手を、ぶんぶんと勢いよく振っている。
「はぁ......先頼むなよ!!」
真人は溜め息をつき、駆け足で向かう。
彼の口角は少しだけ上がっていた。
お題 「終点」
出演 陽太 真人
それは、本当に偶然だった。
いつも通り営業していた時のこと。
「いらっしゃいませ」
背が高く、髪色が明るい男性がやって来た。
「あの、友人の誕生日に『いつもありがとう』って花束を渡したいんですけど、オススメの花ってありますか...?」
「ございますよ、少々お待ちください」
言葉(ことは)はカウンターの下から、本を取り出して見せた。
「『感謝』の意味が含まれている花はこの辺りですね。白いダリアはよくブーケの主役などに使用されてるんですよ」
「へぇ.........ん?」
男性は少し目線を上げると、驚いた顔をした。
「...もしかして、言葉ちゃん?」
「えっ、えぇ、そうですけど...」
「やっぱり!俺だよ俺!拓也(たくや)!ほら、高校の時一緒だった!」
「拓也君っ?」
言葉も驚いて目を丸くする。なんとその男性は高校時代、同じクラスだった拓也だったのだ。
「久しぶり!元気だった?」
「うん元気だよ、拓也君は?」
「俺も元気だよ。いや、まさかこんな所で会うとは」
「私も驚いたよ」
まさか拓也君が覚えてるなんて、と心の中で思った。
高校時代、彼はクラスの中心的な存在だった。運動が得意で勉強もそこそこ出来る、サッカー部に所属していてファンが居たと聞いていた。そんな彼に憧れていたのも事実だ。
でも私の事なんてすっかり忘れて、いや名前すら知られていないと思っていた。
「そっか、花屋さんなんだ...」
「拓也君は何をしているの?」
「俺は...仕事内容はちょっと言えないけど、まぁ在宅ワーク中ってところかな」
「そうなんだね......あ、花束のことなんだけど」
「あっ、ごめん。花束.........うん、いいね。このダリア?...を使った花束お願いしてもいい?」
「うん、任せてね」
言葉は自信ありげに言って、花を包みに行った。
花を包み終え、花言葉を一通り説明すると拓也は大事そうに花を抱えた。
帰り際に「また来るね」と手を振って去っていった。
それから拓也は言葉がやっている花屋に何度も足を運んだ。
友達のお祝い、母へのプレゼント、とその度に花を買いに来ていた。
「いつもありがとう」
「こっちこそありがとう!俺、言葉ちゃんのおかげで花言葉にちょっと詳しくなったんだよね~」
「そうなの!なんだか誇らしいな」
そう言うとお互い笑顔になった。
たわいもない話をして、二人で笑う。
(拓也君の笑った顔......素敵、太陽みたい)
これが最近の言葉の楽しみになっていた。
そうやって拓也が通い始めて二年が経とうとしていた。花屋は沢山あるのに、わざわざここに来てくれているのは自分と同じく話すのが楽しみになっているからなのかな、と考えたいた。
(今度拓也君が来たら、お茶でも誘ってみようかな)
なんてことをぼんやりと考えていた。
しかし、拓也は突然お店に来なくなった。
今月は仕事が忙しいのかな、などと考えていた。
来る日も来る日も、拓也をお店で待ち続ける言葉。
そうして数ヶ月が過ぎてしまった。
(...もしかして事故にあったのかな...まさか病気に...?もう来てはくれないのかな...)
そう不安に考えていると、軽快にベルが鳴った。
「いらっしゃいませ......あ」
背の高い、見慣れた明るい髪に言葉はパッと顔を明るくする。
「拓也君...!久しぶ、り......」
手を上げて声をかけた時、言葉は拓也の隣にいる女の人に気がついた。
「久しぶり、言葉ちゃん」
「え、えぇ......えっと、隣の方は...」
「俺の彼女なんだ」
拓也はニコッと笑う。
「初めまして、秋(あき)です」
秋は軽く頭を下げる。言葉も連れて頭を下げた。
「可愛いだろ~?料理めっちゃ得意なんだよ」
「ちょ、誰にでもそれ言うの止めてよ...!恥ずかしいじゃん...!」
「えー、だって事実だからさ」
「じっ......だとしても止めてよ...」
「すみません」と秋は言葉に謝る。
「あ、そうだそうだ。言葉ちゃん花束お願いしてもいい?」
「...ぁ、うん。何か希望あるかな?」
「向日葵、お願い出来るかな。出来れば三本」
三本の向日葵。これを知らない花屋はいない。
「わかった、三本ね」
「ありがとう」
「...三本ってなんか意味あるの?」
秋が拓也に聞く。
「ん?内緒!葉瀬(ようせ)に聞くといいんじゃね?」
「......なんか変な意味じゃないよね?」
「違うって!俺はちゃーんと意味知ってて選んでるから!」
言葉は、ちらりと二人の様子を伺う。
(初めて、見たな。拓也君のあんな顔)
「......お待たせしました」
「あ、言葉ちゃんありがとう!また来るね」
「うん、また」
軽快にベルが鳴る。
店を出た二人はなにやら仲良さそうに帰っていく。
(...彼女、いたのね)
カウンターに手をついてしゃがみこむ。
期待しなきゃよかったな、と言葉は一人小さく丸くなっていた。
お題 「太陽」
出演 言葉 拓也 秋