hot eyes

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それは、本当に偶然だった。

いつも通り営業していた時のこと。
「いらっしゃいませ」
背が高く、髪色が明るい男性がやって来た。
「あの、友人の誕生日に『いつもありがとう』って花束を渡したいんですけど、オススメの花ってありますか...?」
「ございますよ、少々お待ちください」
言葉(ことは)はカウンターの下から、本を取り出して見せた。
「『感謝』の意味が含まれている花はこの辺りですね。白いダリアはよくブーケの主役などに使用されてるんですよ」
「へぇ.........ん?」
男性は少し目線を上げると、驚いた顔をした。

「...もしかして、言葉ちゃん?」
「えっ、えぇ、そうですけど...」
「やっぱり!俺だよ俺!拓也(たくや)!ほら、高校の時一緒だった!」
「拓也君っ?」

言葉も驚いて目を丸くする。なんとその男性は高校時代、同じクラスだった拓也だったのだ。
「久しぶり!元気だった?」
「うん元気だよ、拓也君は?」
「俺も元気だよ。いや、まさかこんな所で会うとは」
「私も驚いたよ」
まさか拓也君が覚えてるなんて、と心の中で思った。
高校時代、彼はクラスの中心的な存在だった。運動が得意で勉強もそこそこ出来る、サッカー部に所属していてファンが居たと聞いていた。そんな彼に憧れていたのも事実だ。

でも私の事なんてすっかり忘れて、いや名前すら知られていないと思っていた。

「そっか、花屋さんなんだ...」
「拓也君は何をしているの?」
「俺は...仕事内容はちょっと言えないけど、まぁ在宅ワーク中ってところかな」
「そうなんだね......あ、花束のことなんだけど」
「あっ、ごめん。花束.........うん、いいね。このダリア?...を使った花束お願いしてもいい?」
「うん、任せてね」
言葉は自信ありげに言って、花を包みに行った。

花を包み終え、花言葉を一通り説明すると拓也は大事そうに花を抱えた。
帰り際に「また来るね」と手を振って去っていった。


それから拓也は言葉がやっている花屋に何度も足を運んだ。

友達のお祝い、母へのプレゼント、とその度に花を買いに来ていた。
「いつもありがとう」
「こっちこそありがとう!俺、言葉ちゃんのおかげで花言葉にちょっと詳しくなったんだよね~」
「そうなの!なんだか誇らしいな」
そう言うとお互い笑顔になった。

たわいもない話をして、二人で笑う。
(拓也君の笑った顔......素敵、太陽みたい)
これが最近の言葉の楽しみになっていた。

そうやって拓也が通い始めて二年が経とうとしていた。花屋は沢山あるのに、わざわざここに来てくれているのは自分と同じく話すのが楽しみになっているからなのかな、と考えたいた。

(今度拓也君が来たら、お茶でも誘ってみようかな)

なんてことをぼんやりと考えていた。

しかし、拓也は突然お店に来なくなった。
今月は仕事が忙しいのかな、などと考えていた。

来る日も来る日も、拓也をお店で待ち続ける言葉。

そうして数ヶ月が過ぎてしまった。
(...もしかして事故にあったのかな...まさか病気に...?もう来てはくれないのかな...)

そう不安に考えていると、軽快にベルが鳴った。

「いらっしゃいませ......あ」

背の高い、見慣れた明るい髪に言葉はパッと顔を明るくする。
「拓也君...!久しぶ、り......」
手を上げて声をかけた時、言葉は拓也の隣にいる女の人に気がついた。

「久しぶり、言葉ちゃん」
「え、えぇ......えっと、隣の方は...」

「俺の彼女なんだ」
拓也はニコッと笑う。

「初めまして、秋(あき)です」

秋は軽く頭を下げる。言葉も連れて頭を下げた。
「可愛いだろ~?料理めっちゃ得意なんだよ」
「ちょ、誰にでもそれ言うの止めてよ...!恥ずかしいじゃん...!」
「えー、だって事実だからさ」
「じっ......だとしても止めてよ...」
「すみません」と秋は言葉に謝る。

「あ、そうだそうだ。言葉ちゃん花束お願いしてもいい?」
「...ぁ、うん。何か希望あるかな?」


「向日葵、お願い出来るかな。出来れば三本」


三本の向日葵。これを知らない花屋はいない。
「わかった、三本ね」
「ありがとう」
「...三本ってなんか意味あるの?」
秋が拓也に聞く。
「ん?内緒!葉瀬(ようせ)に聞くといいんじゃね?」
「......なんか変な意味じゃないよね?」
「違うって!俺はちゃーんと意味知ってて選んでるから!」

言葉は、ちらりと二人の様子を伺う。
(初めて、見たな。拓也君のあんな顔)
「......お待たせしました」
「あ、言葉ちゃんありがとう!また来るね」
「うん、また」

軽快にベルが鳴る。

店を出た二人はなにやら仲良さそうに帰っていく。
(...彼女、いたのね)

カウンターに手をついてしゃがみこむ。


期待しなきゃよかったな、と言葉は一人小さく丸くなっていた。


お題 「太陽」
出演 言葉 拓也 秋

8/7/2024, 9:18:32 AM