「明日って何か予定ある?」
隣に座っていた葉瀬(ようせ)が突然話しかける。
「明日?...ちょっと用事済ませるくらいかな」
「じゃあ早く終わる?」
「うん、まぁ......え、何?」
「えっとね」
葉瀬は距離を詰めて玲人(れいと)にスマホの中身を見せる。
そこにはページいっぱいに『花火大会~2024~』と書かれていた。
「明日花火大会やるらしくて、良かったら一緒に行きたいなーって。屋台とか出るらしいし」
「...うーん......」
「あ、嫌だったり用事長引きそうだったら無理しなくていいよ。ここからでも十分見えるし」
玲人は返事を迷った。正直、人混みは嫌いだ。あのごった返すような中を歩きたくはない。すごく面倒だ。
それに最近は一歩外へ出ただけで灼熱の暑さに見舞われる。
そう、玲人の脳内には大きく『行きたくない』の文字が表示されていた。しかし。
(...でも、葉瀬が誘ってくれてるしなぁ...たまには行ってみてもいいのかなぁ。夏祭りでーと...とか、そういうのやってこなかったし)
と、二つが葛藤していた。しかしそんな葛藤を壊したのはやはり、葉瀬であった。
「.........玲人、人混み苦手でしょ?無理して行く必要ないよ」
「...いや、それどっちだよ。一緒に行かなくていいの?」
「えぇ~......じゃあ...絶対行こうよ?」
「疑問系かよ」
「うっ...っじゃあもし明日晴れたら、絶対行こうね!!」
はい、約束!と玲人の手を使って半ば強引に指切りをした。
「よし!じゃあ明日絶対ね!」
「晴れたらね」
「うん!私お風呂入ってくるわ。絶対だよ!」
「はいはい、絶対絶対」
脱衣所へ向かう葉瀬を横目に、玲人はスマホを開く。
そして明日の用事と行っていた乾電池の購入を、ネットショッピングで済ませた。
(外出るの嫌だし、人混みも好きじゃないけど......ま、絶対って言われたら仕方ないか)
と一人楽しみにしていた。
お題 「明日、もし晴れたら」
出演 玲人 葉瀬
「書けない...」
パソコンを前に自室で頭を抱えていた。
俺は趣味で小説を書いている。誰かに見て貰おうとかで始めたわけではない。ただの自己満足だった。
しかしある時、この話を誰かに見てほしい。読んで感想が欲しいと思うようになっていた。
そこで俺は、一日一つお題が出るアプリを使って話を投稿し、読んで貰おうと思っていた。
最初は順調だった。毎日、一つ話を書いて満足していた。
しかしそれも最初の内だけだった。それだけでは満足がいかず、もっと読みたいを求めるようになった。
あ、増えてる。もっと増えてる!と。
だが、最近は伸びも悪く、良い話を書けている気がしなかった。
「もっと面白い話にしないと......あれ、こっちの方が反応良いからこういう話の方がいいのかな...」
数字ばかり気にして、純粋に書きたいという気持ちを失いつつあったのだ。
(...駄目だ。これじゃ可笑しい)
俺はどんどん自分を追い込んだ。
(もっと、もっと面白い、良い話を)
だから、
「もう、駄目だ」
一人になったのだ。
「...ん」
そして目を覚ますと、俺は列車の中にいたのだった。
お題 「だから、一人でいたい。」
「雪(ゆき)さんの名字ってなんですか?」
「.........朝岡...」
「朝岡雪さん!素敵なお名前ですね!なんか青っぽい感じがして...」
「.........」
「あ、次です!雪さんの好きな食べ物ってなんですか?」
「......なんでも良いだろ...」
「いえ!やっぱり定番中の定番ですよね、これは聞いておかないと!」
俺は心の中でため息をつく。もう二週間もこれだ。俺がバイトの休憩中、この海斗(かいと)という男に質問責めされる。
最初は、健気だなぁとしか思わなかったが、二週間も続けば嫌気が差してくる。
「次はですね...」
「なぁ」
俺の呼び掛けに反応するようにこちらを向く。
「ちょっとしつこいんだよ。初対面にしては馴れ馴れし過ぎないか」
ぴたり、と彼の動きが止まる。
しばらくしたのち、彼が先に口を開く。
「そう、ですよね…...すみません、一人で盛り上がっちゃって...」
彼は段々とうつむきかげんになる。
「あの......もう来ませんから!!!すみませんでした!!」
「え?は、ちょ」
俺が止める間もなく、彼は店から出ていってしまった。
(...少し、冷たくしすぎたかも)
俺は少しだけ後悔したが、切り替えて店の作業へと戻っていった。
お題 「澄んだ瞳」
出演 雪 海斗
「あ、ねぇ型抜きやってる。しない?」
「珍しいね。うん、やろう」
俺達は一人一枚ずつ、傘模様の型を取っていた。
「.........」
「.........」
やっている間は二人とも集中して無言のままだった。
俺が傘のハンドル部分を取っていた時、ぺき、と音がして割れた。
「あ」
「わっ」
俺が思わず声を出すと隣の肩がビクッ、と動き、ぺき、と音がした。
「......割れちゃった」
「...なんかごめん」
「ん?あぁ!お嬢ちゃん惜しかったね!またやってくれよ!」
ほれ!と屋台の人は飴をくれた。
「うぅ......悔し...」
「あはは…」
俺達は飴を放る。昔ながらの苺味が口の中に広がった。
「お、射的ある。次あれやろ~」
「ん、いいねー」
彼女が指差す屋台に、二人で向かっていった。
お題 「お祭り」
出演 玲人 葉瀬
「おそろいが欲しい?」
お皿を洗いながら、私はお風呂の準備をする彼に聞き返す。
「うん、お揃い良いなーって」
「なんで急に?」
「玲人(れいと)さ、イルカのキーホルダー付けてたんだけどお揃いなんだって。葉瀬(ようせ)と」
ふーん、と軽く聞き流して尋ねる。
「でも私達、もう結構おそろいあるよね?」
ほら、と洗っていたマグカップを見せる。
これは色違いで買ったおそろいのマグカップである。ちなみに私が緑色、彼が赤色。
「うん、そう......そうなんだけどさ...!」
「?」
両手で何か持つようなポーズをとっている。なんのポーズなんだろう?
「なんか身につける物が欲しいの!」
「......見せつけたいの?」
「そう!!」
なんだ、そういうことか、と納得した。
「なら今度の休みに見に行く?」
「見に行く!」
うーん、何が良いかな、ブレスレットとかどうかな、あとで一緒に調べようかな、とぼんやり考える。
おそろいが欲しいと言われた時、私も同じ気持ちになったのは......またあとで言おうかな。
お題 「今一番欲しいもの」
出演 秋 拓也 玲人 葉瀬