窓から見える景色に私は価値を感じない。
外に出て、直接見れば良いじゃないか。
あんな小さい窓からなんてなにも見えやしない。
私の部屋には、縦横30cmの小窓があった。開きもしない小窓だ。見える景色は空色1色。なんとつまらない窓なんだろう。
それに対して、兄の部屋には大きな窓があった。日中は照明がいらないくらい大きな窓。ただ大きいだけで見える景色は私の小窓と大差ない。でもいいなーって。よく分からないけどいいなーって思ったんだ。
生憎その日は雨だった。窓から見えるのは、帰り道と同じ鼠色。いつも通りだった。ただ、今日はちょっと寒い。布団に入ってあったまろうとすると、気持ち良い眠気に襲われた。
肌がひりひりする感覚で、目が覚めた。
小窓から一直線に伸びる太陽の日差し。あぁ、晴れたのか。
部屋いっぱいに広がる光の粒子を私は大きく吸う。
このなんとも言えない高揚感に、私は思わぬ勘違いをしてしまったらしい。
窓って良いな。
真っ赤な顔で呟いた。
いつまでも捨てられないものがある。
それは貴方様への恋心。
貴方様とは小さな頃から御屋敷でそれはよく遊んでいた。
ばあやのつくるプリンを食べたり、お庭にある美しい花を生けたり、何をしても隣に居る大好きな人だった。
いつまでも続くと思っていた。だが、この思考はなんとあささかで、なんと愚弄な考えだったのだろうか。
人生の機転とは俄に来るもので、私はその機転を上手く曲がりきれなかった。
お互いが15の誕生日を迎えた時だった。
貴方様に婚約者ができた。それはそれは美しいお相手だった。
失ってから気づくものは尋常じゃないほどに大きくて当時は息が出来なくなるほど泣いた。どうして私じゃないのか、そう思ってしまう夜を何度明けたことか、。
時の流れは、はやいもので、貴方様には子供ができた。それはそれはお2人に似てすごく可愛らしい赤ん坊。
微笑んでる貴方様と奥様方は悔しいほどにお似合いだった。
けれどこのぬるい感情をいつまでも引きずってては、両親に上げる顔がない。
そして私は望まぬ子を産んだ。望んでなど微塵もしていなかったが悔しいほどに愛らしい。この子がもし貴方様との子だったらどんなに喜べたことか。
あぁ神よどうかこのような感情すら捨てきれない私を見逃してはくれぬだろうか。
街の灯りが消えていく、ひとつふたつ…
この鳳凰の里は新しい命を迎えると自分の化身の炎、生命の灯をつける。
生命の灯は一生を遂げるまで灯り続ける。
鳳凰に祈りを捧げている。煌びやかな舞衣装に、華やかな音楽。踊っている少女はヨーリジア。紅い髪をした舞姫。
「襲撃だ!!」
シドラスの兵だ。
隣国のシドラスは生命の灯の源『鳳凰の泉』を求め鳳凰の里に攻めてきた。
永遠に燃え尽きることの無い炎の泉。永遠と燃え盛る炎の泉。
この泉は鳳凰の死骸と言い伝えられており「泉、翡翠に変わりたるとき鳳凰復活の兆し」という古い言葉もある。
灯がだんだんと消えていく。最近つけたばかりの灯も消えていく。
生き延びなければ。
ヨーリジアは森の暗闇に消えていった。
あの晩から夜が何回開けただろうか。ヨーリジアは帰路をたどった。
ひとつしか残っていない生命の光。
紅い髪の舞姫は踊った。
鳳凰に祈りを捧げた。
涙を流しながら。
鳳凰の泉が揺れ動く、炎が翡翠に染っていく。
1年後それは一瞬で永久の時間だ。
私は1年前に戻る。
そして3日早送り。
その次はもういっかい3日前に戻って、
3日丁寧に過ごす。
そしたら1ヶ月飛ばして、1週間前に戻って、
私は時を自由に飛べる。
嫌なことがあったら戻って、極たまに世界も救っちゃう。
私にとって1年後とは、一瞬で過ぎ去ることも出来れば永久に留まることも出来るひとつのピースに過ぎない。
私は何も失敗しない人、完璧な人、と周りから言われているけれど、本当は何度もやり直してるだけ。
そう思いながら高校3年間をまた繰り返す。
これで53回目。
日常という言葉は受け取り方に天と地ほどの差がある。
まずは天。
明るくなると、小鳥のさえずりが聞こえ
穏やかな声をした召使いが挨拶をしてくる。
ふかふかなパンと採れたての野菜。
勉強を教えてくださる家庭教師が到着。
舞踏会用のドレスを仕立て、ワルツを踊る。
疲れ果てたと飛び込む特注のベット。
そうこれが誰かの日常。
そして地。
明るくなると、誰かの足音が聞こえ
無感動な仕草の商人が冷たくなったトモダチを回収していく。
カビの生えたパン。
買ってくれるという売人達が到着。
オークション用の準備を整え、今日も私は売れ残る。
いい加減にしろと突っ込まれる檻の中。
そうこれが誰かの日常。
言葉の重さは人それぞれで、なにもそうときめつけなくてよいのではないか。
あなたの日常はあなたしか分からないだから。
あなたしか分からないのだから、人生迷うことだってあるだろう。
その時は違う日常に住んでいる人に聞いてみればいじゃないか。
あなたしかいなかった日常に、新しい日常が加わるかもしれない。