もんぷ

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11/1/2025, 10:00:58 AM

光と影

 光があるからこそ影は生まれる。光に満ちた世界に囲まれて笑うあの人の背に隠された自分がうまく笑えていなかろうが誰も気にしない。
「あんな良い人と付き合えて幸せだね。」
彼の光に惑わされた人たちが幾度となく自分にかける譫言。そんな人たちに曖昧に返していると、決まって彼が自分の肩に腕を回し、何を話しているのかと笑顔で尋ねる。はじめは嬉しかったスキンシップに徐々に怖さを覚えてしまったのはいつからだろうか。彼はいつだって光で、綺麗で、優しくて、あたたかい。だからこそ、その光を間近で浴び続けた自分の視界は色を無くす。

10/30/2025, 12:54:34 PM

そして、

 月さえも寒色に染まり、身震いしそうな外の空気に冷たく息を吐く。ほとんど寒いしか言い合わないような中身の無い会話の最中、どちらともなく手袋越しに手を重ねる。こんなことで暖はとれないと知っているのに、少し乱暴に前後に動かして身体を温める。彼はいつもみたいに、まるで子どものようだと笑いながら自分の動きに付き合う。彼よりも少し遅く生まれただけで、もう子どもなんていう年齢じゃないのに。きっと自分の方が体力はあるのに相変わらず重いものは持たせてくれないし、ブラックだって飲めるのにミルクをつけてくるし、お酒を飲んでいると心配そうな顔をする。今だって二人分の夕食の野菜が入ったカバンは、繋いでるのとは反対側の彼の手が握っている。おしゃれな服には似つかない大きめのネギがカバンから飛び出しているのが見えた。
 彼と出会ったころの自分は確かに子どもだった。自分にとって彼が優しいお兄さんから違った認識になっても、彼の中でいつまでもかわいい子どもという意識は消えないらしい。その甘やかす行為はもはや手のつけようがない。仕方がないから、普段は仕事にかかりきりで食事さえも疎かにする彼に、お鍋がおいしい季節を教えてあげよう。そして、願わくば、これからどれだけ歳を重ねようとも、彼にかわいがられながら冬を越せますように。

10/30/2025, 1:23:32 AM

tiny love

 この関係がいつからか、いつまでか、なんて知る術はない。そこはかとなく鼻をつく甘い匂いは、自分ではない人のもの。きっと昨日まではとびきりの美人が横たわっていたそこに自分がいることがいつまでも不思議だ。

 自分たちは付き合っているわけではない、というのはきっと彼との共通認識。だって、付き合っているのなら他の人の影にもっと怒ってもいいはずで、確かに良い気持ちはしていないけど、不明瞭な自分たちの関係だからこそ何も言えないのが事実で。そもそもなぜ彼の隣にいるのかが分からない。彼の周りによくいるような女性達のように容姿が整っているわけでもなく、彼のように人を虜にする色気や、財産、秀でた話術があるわけでもない。何もかもが見合わない。ただ、少し古くからの幼なじみというだけで何かと家に呼びつけ、同じところで眠る。そっと唇をつけるだけで満足そうに彼は眠りにつく。他の女性と嫌というほどしているような行為は一切無く、ただそれだけ。

 多分小学校に入るよりも前、記憶の奥底の小さな手は優しく自分の頬を撫でて、そのまま顔を近づけて柔らかく口を合わせた。結婚も、恋人も、恋愛も、その存在の名前だけ知っていたぐらいの幼い自分と彼が、その行為の意味を知るよりも早く、軽い気持ちで始めてしまったのがきっかけ。この子どものお遊びのような関係が、終わりもなく今でも続いているなんて笑えないだろう。それでも続けてしまうのはなぜだろうか。今日もその柔らかさに触れながらそっと目を閉じる。外側だけ大人になってしまった自分たちが、あの日のように何も考えずに息をつけるのがその布団の中なんて、すごく馬鹿馬鹿しい。

10/27/2025, 11:14:11 PM

消えない焔

 いつの間にか導火線についていた火は、もう燃やすものなんて何も無いはずなのにいつまでも消えてくれない。恋焦がれるなんて比喩だと思っていたのが、どうやら自分よりも賢い先人がこの感情に名前をつけていただけだったらしい。薄暗い部屋には二人の影しか動いていない。自分に被さる彼の目は、ドライヤー終わりのサラサラの髪で見えない。その目にかかるほどの前髪の奥はこちらを捉えているのだろうか。自信が無くて目を逸らす。下手したら自分よりも軽そうな彼の重みを全身で受け止め、今日も夜が更けていく。この行為だけ切り取って見ていたらまるで恋人かのようだと錯覚してしまうのに。恋人とする行為のはずだけど、恋人とでなくてもできてしまうのが世の大人らしい。それに疑問を持つ自分だって、大人の枠組みにはいるはずなのに。
「かわいい。」
自分とは違う地のイントネーションで発されるそれを、素直に受け止められるほど自分は子どもじゃない。だってかわいくないから。誰よりも信じたい人の言葉でさえ信じられない自分なのだから、そりゃ彼にだって愛されないよなぁ。涙が落ちても、そのふかふかの布団の上ではいつものことだから、彼は優しくそれを拾ってからまた続きを進める。消火なんてできない。させてくれない。自分にはもう燃えるものなんて無いはずなのに。ただ燃やされ続けるのをどこか他人事のように思いながら、目の前の愛おしい人の頬に手をやる。その人もいつもより熱を持っていることにホッとしながら目を閉じ、優しい感覚を待つ。いつもどこか危うい関係なのに、続いてしまうのは、続けてしまうのは、確かに消えない火が灯っているから。彼が雑に水を振り撒いて火をつけるのをやめるようになるまで、それはきっと続くだろう。気まぐれでも、遊びでも、本能でも、どんな理由であれ火をつけ続ける彼に傷つけられながら過ごす夜を何度も超えた先にある夢を見ていたい。繋いだ手からも分け合う火を愛おしみながら、明けゆく夜に思考を放棄した。

10/26/2025, 1:22:57 PM

終わらない問い

 自分がなんで生まれたんか、何がしたいんか、何に向かってるんか。そんな答えの出しようのないことばかり考えるのは飽きた。自分が10年後何をしてるとかなんて想像できひんし、そんなことよりも今を楽しくする方が大事やった。友達と笑ってふざけて、なんとなく楽しい方へ行って、おいしい思いをして、一人の家には帰らずにその日その日を甘く過ごして。毎日ストレスフリーにゆらゆら生きてて、なんとかやれている。けど、行為の後の自然現象のようなものでなくても、ふと虚無感に陥って笑顔が消えることがある。元が考えすぎる人間やから、根本のとこは変わってなくて、でも考えても意味がないって分かったからなるべくやめるようにしてる。大量の酒もそう。何も考えなくて済む。煙草もそう。吸ってると自分の中の消えない何かが薄まる気がする。調子の良い言葉や行動もそう。求められたら満足させる言葉を言って、自分が支配してる気になって随分心が落ち着く。まぁ、そのどれもが自分をすり減らしてるってことは分かってるけど、やめられない。どうせはいつかみんないなくなる。自分のそれが少し早くなろうがなんでもいいじゃないか。そもそも自分に興味を持たないで欲しい。これからもずっと一緒にいてほしいとか、今度はもっとこうしてほしいとか、やめて。本当に面倒くさい。今が楽しければ良いやん。今を満たしてあげてるんやから、それで満足してや。これからなんて無いで。勝手にそっちの未来に俺を入れんな。勝手に詮索すんな。中身が無いってバレるんが怖いねん。

 あぁ、その点、こいつは楽やわ。絶対に踏み込んでこーへん。自分のことで手一杯やから。始まりはいつだっただろうか。一回きりで終わらせることしかしない自分がこんなにも何度も会う相手は相当限られている。こいつは、すぐ塞ぎ込んで、終わりのないような問いに馬鹿みたいに向き合って、何事にも不器用で。昔の自分みたい。生きたいって抗うくせに、取り返しのつかないその決断をいとも簡単にしようとして。本当に昔の自分と似ている。あほやなぁ、ゆっくりすり減らしてく方が楽やのに。急いでどっか行こうとしても痕がつくだけでそう簡単にはいなくなれへんねん。見ない間に痛々しい線の痕が増えてしまったその腕を掴んでベッドへ押し付ける。ほら、こんなに弱々しいのに今だってどくどくと脈は動いている。そんな弱々しい腕を押さえつける自分の腕に、もうすっかり昔のものになったのに綺麗にはなってくれないその部分が見えて嫌になる。何も知らなそうな、幸せそうに生きてきた女の子たちが、いつも長袖で隠していた自分の腕を見るたびに悲痛そうな表情をする。そして、「わかるよ。しんどいよね」とか、「その部分も私が癒すよ」とか、そういう見当違いな言葉を放つ。馬鹿馬鹿しい。俺がどんな思いでこんなんしてんのか分かるわけ無いやろ。お前なんかで傷が癒える訳無いねん。聞きたくもない言葉を放つ口を適当に塞ぎ、諸々を丸め込む。そんな自分の得意技を繰り出さずに済むこいつは愛おしくてたまらない。どこを見ているかさえわからないその目が綺麗で、しっかり動いている鼓動が心地良くて、何も求めてこないのがもどかしくて。
手を弱々しい腕から相手の指へ移動させて絡める。その脆さを分け合って、境目が分からないように溶けていく。繋いだ手は最後までずっと離さない。すぐに自分を傷つけようとするこいつを放っておけないとかいう上から目線の行動ではない。普段の他の人の行為はその支配にも近い、一つ上から主導権を奪うことをしているが、あくまでもこいつとのこれはただの傷の舐め合い。増えた線をただただ慈しみ、それでも生きていることを分かち合い、どこにも行けずに一緒に堕ちていく。運命だとかそれらしい自分の言葉を鵜呑みにして、いつか二人でそこへ行けたらどれだけ幸せやろう。そこまであと何年かかるんか。なんて、終わらない問いを頭からかき消しては、目の前の視界を愛おしい人でいっぱいにする。

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