もんぷ

Open App

終わらない問い

 自分がなんで生まれたんか、何がしたいんか、何に向かってるんか。そんな答えの出しようのないことばかり考えるのは飽きた。自分が10年後何をしてるとかなんて想像できひんし、そんなことよりも今を楽しくする方が大事やった。友達と笑ってふざけて、なんとなく楽しい方へ行って、おいしい思いをして、一人の家には帰らずにその日その日を甘く過ごして。毎日ストレスフリーにゆらゆら生きてて、なんとかやれている。けど、行為の後の自然現象のようなものでなくても、ふと虚無感に陥って笑顔が消えることがある。元が考えすぎる人間やから、根本のとこは変わってなくて、でも考えても意味がないって分かったからなるべくやめるようにしてる。大量の酒もそう。何も考えなくて済む。煙草もそう。吸ってると自分の中の消えない何かが薄まる気がする。調子の良い言葉や行動もそう。求められたら満足させる言葉を言って、自分が支配してる気になって随分心が落ち着く。まぁ、そのどれもが自分をすり減らしてるってことは分かってるけど、やめられない。どうせはいつかみんないなくなる。自分のそれが少し早くなろうがなんでもいいじゃないか。そもそも自分に興味を持たないで欲しい。これからもずっと一緒にいてほしいとか、今度はもっとこうしてほしいとか、やめて。本当に面倒くさい。今が楽しければ良いやん。今を満たしてあげてるんやから、それで満足してや。これからなんて無いで。勝手にそっちの未来に俺を入れんな。勝手に詮索すんな。中身が無いってバレるんが怖いねん。

 あぁ、その点、こいつは楽やわ。絶対に踏み込んでこーへん。自分のことで手一杯やから。始まりはいつだっただろうか。一回きりで終わらせることしかしない自分がこんなにも何度も会う相手は相当限られている。こいつは、すぐ塞ぎ込んで、終わりのないような問いに馬鹿みたいに向き合って、何事にも不器用で。昔の自分みたい。生きたいって抗うくせに、取り返しのつかないその決断をいとも簡単にしようとして。本当に昔の自分と似ている。あほやなぁ、ゆっくりすり減らしてく方が楽やのに。急いでどっか行こうとしても痕がつくだけでそう簡単にはいなくなれへんねん。見ない間に痛々しい線の痕が増えてしまったその腕を掴んでベッドへ押し付ける。ほら、こんなに弱々しいのに今だってどくどくと脈は動いている。そんな弱々しい腕を押さえつける自分の腕に、もうすっかり昔のものになったのに綺麗にはなってくれないその部分が見えて嫌になる。何も知らなそうな、幸せそうに生きてきた女の子たちが、いつも長袖で隠していた自分の腕を見るたびに悲痛そうな表情をする。そして、「わかるよ。しんどいよね」とか、「その部分も私が癒すよ」とか、そういう見当違いな言葉を放つ。馬鹿馬鹿しい。俺がどんな思いでこんなんしてんのか分かるわけ無いやろ。お前なんかで傷が癒える訳無いねん。聞きたくもない言葉を放つ口を適当に塞ぎ、諸々を丸め込む。そんな自分の得意技を繰り出さずに済むこいつは愛おしくてたまらない。どこを見ているかさえわからないその目が綺麗で、しっかり動いている鼓動が心地良くて、何も求めてこないのがもどかしくて。
手を弱々しい腕から相手の指へ移動させて絡める。その脆さを分け合って、境目が分からないように溶けていく。繋いだ手は最後までずっと離さない。すぐに自分を傷つけようとするこいつを放っておけないとかいう上から目線の行動ではない。普段の他の人の行為はその支配にも近い、一つ上から主導権を奪うことをしているが、あくまでもこいつとのこれはただの傷の舐め合い。増えた線をただただ慈しみ、それでも生きていることを分かち合い、どこにも行けずに一緒に堕ちていく。運命だとかそれらしい自分の言葉を鵜呑みにして、いつか二人でそこへ行けたらどれだけ幸せやろう。そこまであと何年かかるんか。なんて、終わらない問いを頭からかき消しては、目の前の視界を愛おしい人でいっぱいにする。

10/26/2025, 1:22:57 PM