紺屋小町

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11/29/2022, 2:57:36 PM



冷え性のわたしは冬になると指の先から冷たくなる。
恋人はわたしの手を握ると

「うわ、冷たいなぁ〜大丈夫か?」

と言って、手を握ったままコートのポケットにふたつの手を入れる。わたしの冷たい手のせいで恋人の手まで冷えてしまうのではないかと不安になり

「冷たいやろ、ごめんな」

と謝ると

「まかしとき」

と言ってポケットの中の手をいっそう強く握ってくれた。

恋人の体温がわたしに溶け込むようにうつり、いつの間にかわたしの手は恋人の手と同じあたたかさになっていた。

なんだかもうこのまま一生冷え性でいたいと思った。
あたためてくれたのは手だけじゃなかった。


「冬のはじまり」

11/21/2022, 1:40:41 PM

"どうすればいいの"

目的地が決まっていることに対して、
どうすればそこに辿り着けるかを考えて、
出来ることはすべてやる。

けれど、そんなにすぐに結果が出るものではない。
毎日できること。
毎週やれること。
1年かけてやること。
3年計画でやること。


目標は10年でその目的地に辿り着くことだ。
今、1年経過して、まずは第一目標を通過した。

行動にうつしながらも
その次はどうすればいいか、常に考えている。

まだまだやれることはある。

11/19/2022, 12:55:56 PM

クリスマスの時期に、かわいいサンタクロースとスノーマンのキャンドルを買った。
もったいなくて、なかなか火を灯すことが出来ず、玄関に飾っていた。

クリスマスが過ぎても、お正月が過ぎても、そのキャンドルは玄関で笑っていた。
蝋というのはホコリがつくとなかなか取れにくい。
サンタクロースの顔の髭の隙間とか、スノーマンのくびれのあたりにホコリがたまっている。

来年のクリスマスまで置いておくことも考えたが、彼らに夏を越させるのはあまりにも酷だと思い、1月の終わりに火を灯すことにした。

火の灯された二人はとても輝いていた。ずっとこうなることを待ち望んでいたように見えた。
しかし、時間が経つとともにサンタクロースの顔はゆがみ、スノーマンは文字通り溶けていった。
かわいさのカケラもない。
時々、たまったホコリがパチっと鳴ってまるで断末魔の叫びのようだ。
もはや罪悪感しかない。

あれから一度も、キャンドルは買っていない。

11/19/2022, 1:54:57 AM

たくさんの思い出があるはずだけど
全部は思い出せない。
思い出せないからもう忘れてしまったのかもしれないと
思っていたけれど、例えば匂いとか、音とか、空気とか
五感がちゃんと覚えていてくれて、時々突然に思い出を
呼び醒ましてくれる。

ぼくときみの場合でいうとね、
匂いは、やっぱり金木犀かな。ぼくたちが暮らしたあのアパートの角を曲がる時の匂い。少しずつ寒くなってきてさ、冷え性のきみの手が冷えはじめてさ、つないだ手のままぼくのポケットにつっこんでたよね。
音はさ、カエルの鳴き声だよ。笑っちゃうだろ。まだぼくたちが知り合ったばかりの頃、電話で話しててさ、ぼくの話し声の向こうから変な音が聞こえるってきみが言ってさ、「カエルの鳴き声だよ」ってぼくが言ったらさ、きみビックリしてたよね。あれからすぐにきみはそのカエルの鳴き声が響く町に引っ越してきてくれたね。
あとは、場所。空港とかさ、駅とかさ、ここに行くと絶対君のこと思い出すよーって場所がある。

でもさ、ぼくの五感の記憶だけじゃ足りないよ。
きみの五感のちからも貸してほしいよ。

きみがもう一回、この世界に帰ってきてくれないかな。
そしたらさ、絶対忘れないように全部ノートに書くのにさ。


“たくさんの思い出"

11/16/2022, 10:16:57 PM




電話を待っていた。
わたしからはかけることのできない電話。

待っている時間が楽しかった。
そろそろかかってくるかも知れないと思って
トイレにもお風呂にも電話を持っていった。

でも

待っていることがだんだん苦しくなっていた。

わたしは自分を忙しくした。
あなたの電話を待っている余裕もないほど。


気がつけばわたしの気持ちはあなたから離れていた。


なかなか言い出せずに、電話に出ない日が続いた。
こちらが出ないと分かると急に着信が増えた。
そういうのもイライラした。


きのう、ようやく終わりを告げた。
うっかり目を合わせたら、気持ちが揺らぎそうで
ずっと景色を見ていた。


さようなら。

はなればなれになったら
わたしたちはしあわせになれる。




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