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8/16/2025, 12:47:52 PM

遠くの空に

教室の窓から見えた空は、昨日より少しだけ高くて、でも、なんだか遠かった。
まるで、手紙の返事が来ない日曜日みたいに、取り残されたみたいな青。

今日も私は、うまく笑えなかった。
みんなの笑い声に混ざれない私の声は、泡みたいに浮いて消えた。
既読スルーみたいな空気が、肌の奥までしみてくる。
「大丈夫」って言葉は、ほんとうは誰かに言ってほしい言葉だって、ずっと前から気づいてた。

午後の空は、ぼんやりとグラデーションで、誰かの心みたいだった。
オレンジに沈む雲が、あの子のくちびるの色と似ていた。
私が一番好きだったあの子。
優しくて、静かで、よく目をそらすくせに、夢だけはちゃんと見てる子。

あの子は春に転校して、わたしの世界からログアウトした。
「また会おうね」って言ったのに、それっきり。
言葉って、何かを約束するためじゃなくて、傷つかないためのバリアだったのかな。

部屋に帰って、スマホの画面をぼんやり見てたら、
どこかの知らない人が「#空は心のスクリーン」って書いてて、
なんだかちょっと、泣きたくなった。

わたしの心にも空があるなら、
いまは曇ってる。
でも、きっと――遠くの空は、晴れている。

痛みも、孤独も、傷跡も、
たぶん全部、通り雨みたいに流れてく。

だって空は、誰の上にもあるんだもん。
見上げたらそこにあって、
届かなくても、ちゃんとそこにある。

遠くの空に、いま、祈る。
あの子が笑ってますように。
わたしが少し、強くなれますように。
そしてこの詩が、誰かの心に、
そっと届きますように。

8/7/2025, 11:58:15 PM

心の羅針盤

ふわり、雲を撫でたみたいに
答えはいつも、指のすきまに。
ひとりの夜、スマホの海で
知らない誰かに触れてみたい。

右か左か、前か裏か
自分の声さえ聞こえなくて
好きって何? 正義ってどれ?
リツの数じゃ測れないね。

涙を隠す、黒のアイライン
でもほんとは、気づいてほしい。
だれかの一言、棘になって
心の奥でチクリ、痛い。

それでもね、羅針盤がある
折れそうなほど細いけど
まっすぐに わたしの方へ
針をふるわせ 夢を指す。

“全部ムリ”って呟いたとき
心の奥が震えていた
ほんとのわたしはどこにいるの?
見つけたくて、詩を書いてる。

闇も、孤独も、やさしさも
ぜんぶ抱いて 生きていくの。
いつかこの傷が星になる
その日まで、針は止めない。

8/6/2025, 7:15:27 AM

泡になりたい

ねぇ、
わたしが泡になっても、
誰か気づいてくれるのかな。

お風呂の中でぶくぶく沈んでく
音のない音に、わたしは今日もまぎれた。
SNSの通知は100件あっても、
本当に誰かとつながってる気がしない。

教室のすみっこで笑ってるふりしてる。
でも心のなかは、泡立って、弾けて、消えてく。

好きってなに?
わかんない。
友達ってなに?
わかんない。
「それな」とか「草」とか、言ってるけど、
本当はぜんぶ泡みたいに、
ふわってして、消えてくの。

鏡の前で笑顔の練習した。
目が笑ってないの、ちゃんと知ってる。
だけどそれでも、笑ってなきゃ、
見捨てられるって、わたしの中の誰かが言う。

ほんとはさ、
透明になりたい。
でも見えなくなるのはこわい。
だったらいっそ、泡になりたい。
きらきら光って、誰かの瞳に一瞬だけ、
残る存在になれたら、
それで、いいと思った。

夜。
スマホのライトだけが、
部屋を照らしてた。
誰かのストーリーに映る幸せが、
うすい膜みたいに胸を覆って、
息ができなくなった。

「いいね」の数がわたしの価値?
加工フィルターのなかでしか
可愛くなれないわたしなんて、
泡以下かもしれない。

だけど。
泡ってきれいじゃん?
一瞬だけど、虹色で、自由で、
誰にも縛られてない。

もし生まれ変われるなら、
わたしは泡になりたい。
形も決まりもない、風のままに生きて、
誰かの肩にそっとふれて、
すっと消える。

それって、
かなしいこと?
それとも、
うつくしいこと?

どっちでもいい。
わたしのこと、知らなくていい。
でもせめて、
泡だったことだけ、覚えてて。

8/4/2025, 12:30:51 PM

ただいま、夏

ねえ、もうすぐ消える金魚の夢
溶けかけた空に、名前つけても
通知は鳴らない、まぶたが重い
#好きだったひと も今じゃ既読スルー

プールサイド、素足のまま
心のざらつき、誰にも言えず
スニーカーじゃ踏めない想いが
コンクリに溶けて、光になった

蝉の声、ひびく午前四時
言葉はいつも遠まわり
「大丈夫?」のスタンプひとつで
泣けるわけないよ、ねえ、わかるでしょ?

鏡の中に、まだ知らない自分
スクロールしても見つかんない
好きとか嫌いのラベルより
ほんとは「わたし」でいたいだけ

あの日、ひとりで泣いた夜も
かき氷みたいに溶けてくのかな
ねえ、夏って、ちょっとさみしい
でもね、今日もちゃんと朝は来たよ

――だから、ただいま、夏
ほんのすこし、背すじをのばして
うまく笑えなくてもいいから
ちゃんと「わたし」で、ここにいる

8/3/2025, 12:32:20 PM

ぬるい炭酸と無口な君

指先で ぷつり 泡が消える音
教室の窓 セピアに染まる午後三時
君は何も言わないまま
カバンの隅に 夢を詰め込んでる

ストロー越しのため息が
私の喉を かすかにくすぐって
もう冷めたサイダーなのに
なぜだろう、少し 甘く感じた

“既読”はつくけど 声は届かない
まるで深海 Wi-Fiも愛も圏外
タイムラインで笑う君は
現実より ちょっと嘘くさくて

だけど、
それでもいい、って思ったんだ
だって私だって 
毎日フィルター三枚越しの 本音しか載せてない

傷つくくらいなら 黙ってていい
泣くくらいなら 笑ってればいい
ねえ、そうだよね? 君もそうだよね?
——ねぇ、なんで黙ってるの

炭酸みたいに はじけたいのに
君といたら 全部がスローで
でもそれが、
たぶん 私の「好き」だった

この夏、言葉にならないことが多すぎる
麦わら帽子も 宿題も ふたりの距離も
全部ぜんぶ ぬるいまま
それでも 飲み干したいって思ってる

泡の一粒に 君の声がまぎれてた
聞こえた気がした、気のせいじゃなければ
——ねぇ、
来年の夏も 一緒に黙っててよ

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