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遠くの空に

教室の窓から見えた空は、昨日より少しだけ高くて、でも、なんだか遠かった。
まるで、手紙の返事が来ない日曜日みたいに、取り残されたみたいな青。

今日も私は、うまく笑えなかった。
みんなの笑い声に混ざれない私の声は、泡みたいに浮いて消えた。
既読スルーみたいな空気が、肌の奥までしみてくる。
「大丈夫」って言葉は、ほんとうは誰かに言ってほしい言葉だって、ずっと前から気づいてた。

午後の空は、ぼんやりとグラデーションで、誰かの心みたいだった。
オレンジに沈む雲が、あの子のくちびるの色と似ていた。
私が一番好きだったあの子。
優しくて、静かで、よく目をそらすくせに、夢だけはちゃんと見てる子。

あの子は春に転校して、わたしの世界からログアウトした。
「また会おうね」って言ったのに、それっきり。
言葉って、何かを約束するためじゃなくて、傷つかないためのバリアだったのかな。

部屋に帰って、スマホの画面をぼんやり見てたら、
どこかの知らない人が「#空は心のスクリーン」って書いてて、
なんだかちょっと、泣きたくなった。

わたしの心にも空があるなら、
いまは曇ってる。
でも、きっと――遠くの空は、晴れている。

痛みも、孤独も、傷跡も、
たぶん全部、通り雨みたいに流れてく。

だって空は、誰の上にもあるんだもん。
見上げたらそこにあって、
届かなくても、ちゃんとそこにある。

遠くの空に、いま、祈る。
あの子が笑ってますように。
わたしが少し、強くなれますように。
そしてこの詩が、誰かの心に、
そっと届きますように。

8/16/2025, 12:47:52 PM