春泥の上を君と僕とで走り抜ける。
「どこに行くの!?」
『え!?わかんない!!』
『どっか遠いところまで連れてって!!』
ガタガタと激しく揺れる。
君は落ちないように強く僕を掴む。
この鼓動、君に伝わらないよな。
…違う違う。
自転車を漕いでいるから心拍数が上がってるんだ。
別に………違う、はず。
………それに
君だってドキドキしてる。
これはただ叫んで楽しいからだよね。
……きっと。
ー自転車に乗ってー
「今日は、どうされましたか」
《…この子、最近ぼーっとしてて…上の空なんです》
『別になんでも無いって……』
「……学校には通われて?」
《はい…。休んだことは無いんですけど…》
「………」
「………趣味とかある?」
『………絵を描くことが…好きで…す』
「一緒だね。僕も絵をよく描くんだよ」
『そうなんですか……』
「…絵を描くの…楽しい?」
『はい。毎日描いてます』
「じゃあさ、明日から毎日ここに絵を描きにおいで」
『………え、いいんです…か?』
《ちょっと待ってください。学校を休めってことですか?》
《そんな急に………》
「今はこの子と話しているんで、ちょっと待ってくれますか?」
「………一緒に描かない?」
《…………描きたい》
ここは心の相談屋。相談者心の健康を第一に。
ー心の健康ー
そろそろかな。
午後5時。街が夕日に包まれる頃、あの音は響く。
ポロン……ポロン……ポロン……ポロン……
ド…ド…ソ…ソ……。今日はきらきら星かな。
向かいのアパート。そこには小さい女の子がいる。
まだピアノを始めたばっかりらしく、
弾くペースはゆっくり、一音一音ずつだ。
けど………。
毎日少しずつメロディっぽくなってきている音に
私は魅了されている。
一生懸命弾いているんだろうな
誰の為に弾いているんだろう
隣に誰かいるのかな
なんて、想像をする。
どんな子かわからないけど
きっとピアノが好きな子なんだろうな。
想像し、期待している。
将来、その子が弾く様を。
ー君の奏でる音楽ー
「あっち〜……」
白く光る太陽に照らされ、陽炎が見える。
『こっちだよ』
「…ん?」
声のする方に顔を向ける。
広いひまわり畑だ。
その中で麦わら帽子が動いている。
ひまわりの背が高いので、帽子から下は見えない。
『早く早く!!捕まえてみてよ』
声からして女の子だろう。畑を走り回っている。
「あ、ちょっと待って!」
ガサガサとひまわりを掻き分けながら進む。
「はぁ、はぁ、」
「……捕まえてたっ!!!!!」
女の子の手首をガシッと掴んだ。
「…………あれ」
感触が、変だ。なんだか…ガサガサしている。
しかも、捕まえた瞬間から………動いていない。
ひまわりをゆっくり掻き分ける。
そこには麦わら帽子をかぶった、古びた一体のカカシが立っていた。
ー麦わら帽子ー
まもなく〜、終点、終点〜。
運転手の声で目が覚めた。
周りにバレないように小さく伸びをする。
夜遅いからか俺以外にこの車両に乗っているのは2人。
男性と女性。男性は眠っているようだった。
終点〜、終点〜。お忘れ物の無いようーーーー。
さて、降りるか。
座席を立った時、
「あの…大丈夫ですか?」
女性が眠っている男性に声をかけていた。
しかし、あまりにも声掛けに応じないため身体を揺さぶる。
ドサッ
男性はその場に倒れた。動かない。呼吸をしていない。
「キャアアア!!だ、誰か!!」
女性は車両を飛び出した。
…なんで俺に助けを求めないんだ……?
ふと、倒れた男性の顔を見る。
呼吸が、鼓動が徐々に速くなっていく。
『………こいつ…俺じゃねーか』
ー終点ー