「…あいつ……一体何処まで……」
「…うっ……風が……」
「きゃあああっっ」
「……いっ…た……」
「…あんな上から落ちたんだ……」
「どうしよ…と、とりあえず、そこの洞穴に……」
「いった、い………これじゃあ嵐が止んでも集落まで歩けない…」
「……暗いし…どうしたら……うぅ…」
「………………」
「…………あ…れ」
「私…眠って……。ここは……」
『あ、起きたか?』
「えっ!?…な、なん……いっ!…………」
『おいおい、あんまり動くなって!怪我してんだから』
「……なんで分かったの…嵐は…!?」
『嵐はさっき止んだ。もうすぐで着くから大人しくしてろって』
「……………」
(ずっと私の事探してくれていたんだ)
(冷たいけどあったかい……)
「ありがとう」
ー澄んだ瞳ー
「…嵐が来る」
『…お前何言ってんだ。こんな良い天気なのに』
「だからだよ。嵐の前の静けさっていうでしょ」
「それに…匂いがする。雨と風の匂い」
『はいはい。お前の鼻がいいのはわかったからさ』
『さっさとウサギ採りに行こうぜ。俺腹が減ってよ』
「あ、まって。今日はもう帰ろう」
『危ないってか?俺は狼だぜ?』
『嵐が来たって、この爪と牙があるから大丈夫だ』
『お前だって、俺が集落一強いって事はわかるだろ?』
「そうだけど……」
『心配すんなって。夜までには帰るからさ』
『お前は早く家に帰って俺を待ってな』
「あ…………」
ー嵐が来ようともー
ピピピピッ ピピピピッ
ん…?なんでこんな時間に目覚ましかけたんだ…。
…あ、そうか。今日の夜、祭りあるんだった。
重い身体を無理矢理起こして、準備をする。
徐々に賑やかになっている通り。
楽しそうに金魚すくいをする子供。
ほのかに香る焼きそばとカステラの匂い。
友達に誘われて来たけど、来なきゃよかったか。
そう思いながら、友達について行く。
「あ、あれ。かえでじゃね?」
指差す方向を向く。
赤い光に包まれた彼女がそこにはいた。
水色の浴衣を着て、いつもとは違う髪型で。
あいつ…教室ではいつもおとなしいのに…。
彼女以外、僕には見えなくなった。
ーお祭りー
白日のような髪の神様がそこにはいた。
「僕を旅に連れて行ってくれ」
目を輝かせながら私に言うその姿は、
神だとは思えないぐらいに小さく、幼かった。
『あれが一等星。そしてあれが月』
「……すごいな」
神様なのに、こんな事も知らないのか。
「人間の見る世界が見たかったのだ」
「少年のお陰でこんなにも素晴らしい世界を知れた。感謝する」
言葉遣いだけは、一丁前だな。
「少年よ。僕は次の世界を見たくなった」
「私欲と好奇心で私自身を満たしたいのだ」
『…神様ってのは、気まぐれだな』
次の日、神様は消えた。
ー神様が舞い降りてきて、こう言った。ー
昔、『最大多数の最大幸福』という考え方があった。
最も多くの人に最大の幸福をもたらすのが善と考える事だ。
聞いてみると良いものと捉えられる。
じゃあ、こういう状況はどうだ?
5人の子供がいる。
その子達はそれぞれ体に悪いところがあり、移植してもらう事を望んでいる。
そんな時、貴方の臓器が適切だと判断された。
つまり、貴方が5人分の臓器を提供し、死ねば
5人の子供が助かる。
その逆に、提供しなければ5人の子供が死ぬ。
…君は1人の幸せと5人の幸せ、
どっちを重くみるかな。
ー誰かのためになるならばー