谷折ジュゴン

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7/2/2024, 1:41:50 AM

創作「窓越しに見えるのは」

「良くないものは大抵、窓から入ってくる。だけど決して塞いではならない。出て行かなくなるから」

昔、おじいちゃんが話してくれた。窓はお化けが通る道だから、塞いでしまうと家の中がお化けだらけになること。お化けだらけになった家は家具が腐れ、柱が腐れ、心身が弱り、不幸になること。

幼い時は純粋に信じていたが、思春期を迎えた頃の僕には、バカらしく聞こえていた。何がお化けだ。子どもだましも甚だしい。そう、思っていた。

ただ、用事があり、しばらく家を空けることがあった。久しぶりに家へ帰ると、埃っぽく生ぬるい空気が僕を出迎えた。空気を入れ替えるために、家中の窓を開ける。風呂場に入った時、気づいた。

カビが生えている。規模は小さいが確かに根を張っている。僕は問答無用でカビ取り剤を吹きかけた。
家具が腐れ、柱が腐れ、心身が弱る。僕はそういうことかと思った。

ありし日の おじいちゃんが言っていた「お化け」は、「湿気」のことだった。開け放った窓から乾いた心地良い風が吹き込んでくる。埃っぽい空気が一気に外へ出て行く。さようなら、「お化け」。

窓越しに見えるのは真っ白な雲。その向こうには透き通った青空が広がっている。換気の重要さを教えてくれたおじいちゃん、ありがとう。
(終)

6/30/2024, 1:30:26 PM

「赤い糸」

細くて丈夫な赤い糸

下手なあやとりでもつれた糸は

ちょっとやそっとじゃほどけない

糸切りばさみを用意して

絡まる所を切って結べば

少しは間が近くなる

6/29/2024, 1:16:12 PM

「入道雲」

青空を背にそびえる堂々たる雲。

夏の日差しを受け輝かしいまでに白い。

ひとたび入道雲の足元へ入れば辺りは暗く。

割れんばかりの稲光と轟音。

地面にたたきつけられる雨粒。

優美な姿に内包される荒々しい雷雨。

雨が上がれば暑さは鎮まる。

優しさと厳しさを合わせ持つ入道雲。

人々が何を思おうと素知らぬ顔でそこにある。

6/28/2024, 12:29:25 PM

「夏」

陽炎が揺らめく日は異界が似合う。影が短くなる正午、人通りが少ない道をひとり歩くとまるで人ならざる者の世界に足を踏み入れたように感じてわくわくする。

蚊取り線香の煙の匂いが漂うと夏にまつわる怪談が読みたくなる。扇風機の風に当たりながらほんの少し不思議な話を読むと臨場感があって面白い。

猛暑は苦手だ。空調の効いた部屋を一歩外へ出るとねばつくような不快な暑さが全身をつつむ。立っているだけで体力と気力が削れる気温は本当に厄介だと思う。

麦茶と塩飴が私の夏のおともだ。梅味の塩飴を口に含みつつ、夏バテと熱中症を予防する夕飯の献立を考えるのも結構楽しい。ただ、火を使う料理は億劫になるので、冷やしうどんやそうめん、冷やし中華は考えものだ。

(終)

6/28/2024, 4:22:45 AM

「ここではないどこか」

子どもの頃は夢見がちだった。色とりどりの繊細な花が咲き乱れる大空や野山を空想の生き物と共に駆け回る、現実を離れた空想の世界に浸っていた。

ここではないどこかの街を造り、架空の人物に名と役割を与え、この人物たちの1年後はどうなっているだろうかと妄想する。それが私の日常だった。

ある時、妄想を文章に起こそうと思いたった。画力は壊滅的である私でも、言葉ならどうにか表現できるだろうと浅はかな考えで物語を書き始めたのだ。

だが、全くの素人が一から物語を完結させるのは無茶なことだと、この時痛感する。

書きたいことは沢山あるのに描写できない。言い回しが拙い。あれこれ書いてストーリーに一貫性がない。 そもそも、起承転結すらまともに構成できておらず、発想もオリジナリティーがない。展開の意外性がない。

ないないづくしの駄作になった。いまだに完結できずにほったらかしのため、登場人物はひとつの場面で立ち止まっているはずだ。

描き出した理想の君と最後に会った日はいつだったか、造りかけの世界はどこへ行ったのか。もはや覚えていないほど時間が経って今に至る。

そうして、たかが趣味とは言え自分で始めたことだ。挑戦と失敗と成功を繰り返し完結させたい。そう思うようになった。

たとえ下手の横好きだとしても、始めたことを続けることに意味がある気がするから。
私はもう逃げない。

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