織川ゑトウ

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10/21/2023, 9:04:37 AM

『アン・ドゥ・トロワで初めまして』

今日は寝坊をした。
いつも通り七時ぴったりにかけてあった目覚まし時計を軽く睨む。
時刻は七時五十分だ。
ドタバタドタバタと階段を降り、
フローリングの床を駆け抜けていけばお母さんの第一声。

「早くご飯食べないと遅刻するよ!」

うるさいなぁと頭の中で愚痴りつつ、昼頃には感謝するだろうほかほかの朝食に手をつける。
ものの三十秒でそれらを食いつくし、よれよれの制服に袖を通す。
まだ寝ぼけている髪に軽く櫛を通し、すっきりとした髪型に直す。
今日の分の教科書が全て入っているか定かではないカバンを持ち上げ、玄関へと向かう
使い古してかかとが低く感じるローファーに足を入れ、勢いよく扉を開ける。

瞬間、冬を証明する空っ風が目の前を突っ切った。
冬の寒さはやはり堪えるけれども、そんなの気にしちゃいられない。
風にも追い付くスピードで歩道を走り、運よく来たバスに飛び乗る。
一安心かと思いきや何故かバスに乗ってきたハトに席をとられた。
動物だからと情状酌量をして肩を落とす。
ゆらーんゆらーんと吊革に揺られ、周りの人たちに押され、足元が少し浮く。
そうやって休んでられるのも束の間、次は~というアナウンスと共に到着の合図が僕の目を覚ます。
人生で何度か経験する程の人混みをするりと通り抜け、いつものカードをピッと鳴らす。

さぁ、ここからが本番だ。

バスを飛び降り、左に走る。
道脇の塀を登って、右に走る。
塀から近くの木に飛び移り、反対側のお寺前に出る。
猫の集会を邪魔しないように、寺院の抜け道をそそくさと早歩き。
少し急な階段をホップステップジャンプで大きく下から見下ろし、スタッと着地。
そして着地点から回れ右、大きく開けた商店街を突っ走る。

これから集会に向かう猫、軽いデートのお二人さん、店の準備をする厚着のおっちゃん
キリキリと弱く鳴く虫、寒空を鋭く飛び立つ鷹、ちっこく作られた雪だるま。

まさに千変万化の冬景色だ。
僕のほっぺの赤みも冬ならではの記念品。
そんな赤みもそろそろ落ち着かせてもいい頃だろう。
足のスピードを徐々に落とし、息を整える。
よれよれの制服をきちっと直し、髪を程よくほぐす。
いつも通りのはずだけど、やっぱりスタートは大事だし緊張する。

一歩、二歩、三歩

よしっと意気込んだその時

「桂木さん!おはようございます!」
「へぁっ!?い、委員長!お、おはよう!」

折角死角に隠れていたのに、委員長の目は誤魔化せない。

「まったく…今日も遅刻寸前ですよ!早起きちゃんとしてください」
「僕はしてるつもりなんだけどなぁ…委員長厳しい」
「いつも寝坊じゃないって言ってますけど立派な寝坊ですからね!」
「はいはい。明日から気をつけますよ~」

僕としてはしてるつもりだよ、だって寝坊しないと、ねぇ?

「委員長、いつも挨拶運動来るの遅いじゃん。たまに来ない日もあるし」
「ええまぁ、他の仕事で忙しくて」
「本当に?」
「本当です」
「本当に??」
「本当です」
「本当にぃ~?」
「ほ・ん・と・う・です!!」

あ、怒ってる。いつものポニーテールがなんか凶器に見えてきた。

「第一、貴方が遅くなければ…」
「あーはいはい。もっと早く登校しろってことでしょ。わかってるって」
「わかってないです!だって、だって…」
「だって、何?」
「だ、だって…そうすれば…」
「そうすれば~?」

「貴方ともっと早く、もしかしたら一番最初に会えるかもしれないじゃないですか!」

「…へ?」

腑抜けた声が、誰もいない玄関に響く。

「そ、それってさぁ」
「えぇ、告白ですよ!貴方への!!」

委員長の大声で僕の声の響きも消えるが、鼓動の音だけは僕の中で響き続ける。

「…なんだぁ。じゃあいつも遅刻しなくてもよかったんじゃん」
「どういうことですか?わざと遅刻してたんですか?」

「まぁ、委員長と一番最初に会うために」

参ったなぁ、頬の赤みが戻ってきちゃったや。

へらっと笑った彼の目にはこれまた赤面する委員長が映りましたとさ。


お題『始まりはいつも』


織川より
お久し!ぶり!です!織川です!いや本当に久しぶりですね。最近はお題だけ見て今日もう眠いし寝よう的な感じで書いてませんでした。これからも結構不定期が続きますのでそこはもうご愛敬ということで…スランプ&受験勉強がもうキツくてですね…でも、織川頑張ります。行きたい学校も決まったので後は目標の学校に向けて突っ走ります。ではまた次回のお題で会いましょう!

10/7/2023, 3:26:40 PM

『並走ラナウェイ』

秋。
銀杏並木の坂道を自転車でシャーっと降りていく。
本当は、いつもは、走って降りていた並木道。
回る車輪がある記憶の扉を叩いた。

その日は、いつも通り放課後部活へ行き大会に向けての練習をするはずだった。
少し遅めの六時間目が終わり、部室で着替え、グラウンドにいつもの調子でタッタッタと赤のバトンを右手に走っていった。
しかし、都合悪く顧問の先生が急に出張ということになり練習は中止となった。
仕方なく部室で制服に着替え直し、他の部活の大会に向けての熱気を感じながら校舎を後にした。

燦々とも言えない太陽の熱が、僕から水分を奪い取る。
最近練習がうまくいっていないせいで、肌にまとわりつく髪がいつもより鬱陶しい。
ぶつくさ文句を垂らしながら、いつもの坂道へとたどり着く。
その瞬間、地平線からの斜陽が僕の魂をうねらせた。

「ねぇ、練習しなくていいの?」

ーまだ蝉時雨とまでいかない微妙な蝉の鳴き声が、僕の焦燥感を煽った。

いつもかけ降りるよりも速いスピードだったと思う。

事故に、あってしまった。

命に別状は無かったけれど、足を骨折して全治三ヶ月。
親は良かったと言ったけれど、僕は全然良くなかった。
何てったって大会は三ヶ月後、しかもその大会は全国大会だ。
練習しないで勝てるはずなどない鉄壁の壁を越えるためには、乗り越えるための階段が必要だ。
しかし、それが作れないと言うのなら終わったも同然だ。

自暴自棄になり、僕は練習を見学するどころか部活に来なくなった。
親には心配されたし顧問にはこっぴどく叱られた。
けれどももう、何も感じることは無かった。
部活に来ない日が続き大会まで一ヶ月を切ったある日のことだった。

放課後、あいつに呼ばれて体育館裏へ行った。

用意周到。品行方正。学業優秀。
まさに、何もかもにおけるライバルであったあいつは僕を見るなりこう放った。

「足掻けよ。もがけよ。
       _リレー選手なら、仲間にバトンを渡すその時まで全力で走りきれよ」

言われることは大体想像はついていた。
だからなのか、僕はそいつを羨ましく見つめるだけだった。
そんな僕の様子を伺い、少し恨めしい顔で考え今度はこう言った。

「お前は走る時の呼吸の使い方が下手だ。
肺活量はあるのにうまく使いこなせていない。」

「_お前、走ることよりも息を吸うことを意識しろ。呼吸に集中を向けるんだ。」

何を言っているのか分からず、戸惑って耳が言語化能力を失いかけた。
しばらくそこで考えこんでいたら、あいつは何処かへ行ってしまった。
その後家に帰り、ご飯を食べている時も、お風呂に入っている時も、
ずっとあいつの言葉を考え続けた。

「”呼吸に集中を向けるんだ”」

その言葉が頭の中をぐるぐると掻き乱し、夜も眠れないまま朝を迎えた。

翌日、学校に着いていつもと同じ時間を過ごし、欠伸のような放課後のチャイムが鳴る

「…部活、行ってみようかな」

何故かは分からないけれど、心が、体が、何かを示した。

本能のままに久しぶりの風が吹くグラウンドに出て、あいつがいるのを確認してベンチに座った。
先生も同じ陸上部の奴らも驚いた顔で話しかけてきたが、その声は僕の耳には一切届いていなかった。
僕はただ、ただあいつの呼吸に集中していた。
息の吸い方、吐き方、呼吸法、
一秒一秒逃さず聞いたあいつの声は、誰よりも潔く、粘り強く勝利を祈願していた。
あいつの肌からポタッと汗が垂れたと同時に僕はグラウンドを後にした。

何かが、分かった気がする。

それからは毎日、あいつが帰るまでグラウンドに残り続け体に呼吸を浸透させていった

_あれももう一ヶ月前のことか、時間は早い。
丁度今日治療が終わった僕は足の包帯を外し、自転車で通学した。
ざっと三ヶ月に起きた出来事を思いだし、明日に向かっての闘争心が湧きはじめる。
ふと、スマホの画面の確認する。

「カレンダー:◯月◯日.全国大会」

改めて大会の名前を目にし、心がより浮き立ってくる。
心が浮き立つまま、一ヶ月間のことをおさらいしながら眠りについた。

_大会、当日。
早起きし、会場へと歩を進める。
会場に着き、ついにかと心を落ち着かせる中一種の違和感。
今までに見たことない大勢の観客が熱狂で湧く中、あいつの声だけが聞こえなかった。
いつもの呼吸が、僕の耳には焼き付いている。忘れるはずがない。
各々の選手に挨拶をしながら、目だけでもとあいつを探す。
すると、ぽん、と肩を叩かれ瞬発的に体を後ろに向ける。

世界が、ひっくり返ったかと思った。

あいつの足が、いつもの強そうな足が、白い薄汚れたよく知る布に覆われていた。
僕の目が壊れたのかと思い何度も目を擦るが事実は揺るがない。
ただ、行き場の無くなった闘争心だけが今何をすべきかを模索する。
何をすれば、あいつと戦えるんだ。何をすれば、あいつを助けられるんだ。
何をすれば、あいつに感謝を伝えれるんだ。何をすれば、何をすれば…

「お前は、走るだけでいい」

ぶ暑い濃霧の中、あいつの声がいつもと変わらなく、いや、いつも以上に凛と響いた。
ふっとやる気しか感じられない笑みを漏らすあいつはまるで”俺は負けない”と言うライバルかのように強い後ろ姿を残し去っていった。

試合が始まるまでの時間が過ぎていく。

三十分、十五分、十分、五分、一分、一秒。

選手がぞろぞろとスタートラインに立ち、クラウチングスタートの姿勢をとる。
スッ、スッ、スッ…僕の順番が回ってきた。

「”呼吸に集中を向けるんだ”」

スッ

フゥー

スゥッ

力を込めて、息を吸った。



お題『力を込めて』

※ラナウェイ=逃げる。逃亡者。大勝、楽勝。

今回大分長い作品になりましたね。
ここまで読んで下さったお方々、誠に感謝申し上げます。






10/5/2023, 3:24:16 PM

『とある天文学者の見解』

とある天文学者は星座をこう説明した。

「誰かの人生であり、誰かの宝物であるもの。それが星座だ。」

夏の大三角や、魚座乙女座蠍座
アンドロメダ座とかは有名処。少し面白いテーブル山座はあんまり知られてないかも。

今、僕がベランダから見ているのはヘルクルス座。
全天で五番目に大きな星なのに、構成する星はいずれも三等星以下の暗めな星ばかり。
英雄ヘラクレスの姿を星座にうつしたものにしてはいささか寂しい。

英雄ヘラクレスは何を思って戦ったのだろう。

からからした風が、星座を見つめる僕の瞳を柔らかくつんざく。
ひとしきり静まり返った夜。月夜の梟の声は、少し寂しいものと思える。
懐かしい東京の黒い空は明日の曇天を知らせていたのだろうか。


_東京に上京して早半年。辛い時はいつも夜空を眺めていた。
涙ながらに天にすがって、「明日は大丈夫」と乾ききった風に頬を撫でてもらう。
小さい頃から勉強して、天文学者になった僕は都会の灯りに嫌気が指していた。
キラキラした雰囲気にも午前二時を回っても消えぬ灯りにも、心は疲れきっていたんだ

そんな時こそ星に助けてもらおうと思っても、星は人工の灯りで見えないし。
じゃあ室内でプロジェクションマッピングの星空を見て寝ようと思っても、外の声が煩くて眠れない。

_結局疲れて故郷に帰ってきた。
故郷は暖かく、心の隙間が埋められていった。

東京では聞こえなかった梟の声も、見えなかった星空も、会いたかった人々も、
全部全部、ここに在った。

故郷に帰ってきてからはもくもくと研究に取り組んだ。
新しい星を見つけよう!と奮闘して何年も調べ続けた。
その結果、ある星座の近くに星を見つけた。
少し青く、消えてしまいそうなほど暗いけれど確かに存在している星が。
僕は声を震わせた。やっとの思いで見つけた星だった。
しかし、その星は近くにあった他の星の超新星爆発により亡くなってしまった。

愛していた星を初めて嫌いになった瞬間だった。

まぁ、その数時間後にはまた大好きに戻っていたんだけれどね。

_星はやっぱり面白い。
冷めかけのコーヒーを啜りながら何回目か分からない思想を繰り返す。

とある本のページを捲りながら、また星に想いを馳せる。
ああ、星座のエピソードは全てまとめたら何ページになるのだろう。

悲しいものからおちゃらけたものまで様々だ。
まさに生命を象徴するものの一つだと思う。

本でなくとも物語を得られるとは何とも芸術的だ。
星はもしかして昔からあった大図書館だったのだろうか。
そうだとしたら面白い。自分もその時代に生まれてみたいものだ。

後味が悪くなりつつあるコーヒーを飲み干し、彼は寝室へと帰る。
彼がその晩見た夢はヘラクレスと会う夢だったとかなんとか。


お題『星座』

織川より
お久しぶりです。織川です。めちゃくちゃ時間おいての登場です。不定期になりすぎですね。待ってくれていたお方々すみませんと同時に有り難うございます。ですが、実はまだまだ不定期になりそうです。理由はまぁ…勉強ですね。はい。お勉強してきます。
というか最近またスランプ気味です。話の持ってきかたが不自然すぎますね…読みにくい作品になってしまっていると思います。すみません…






9/27/2023, 3:32:24 PM


不安定な人の天気図に多いとされる短時間に降る雨。
傘さえ有れば濡れずに済むが、傘が無いと嵐も同然。
傘一本でその後のストーリーが180度回転する。

9/23/2023, 1:22:35 PM

『枠登り九十年』

知らぬ誰かの恋物語。

幼き日の誰かと誰か。
水色のジャングルジムに彼女の髪は見え隠れする。
彼の赤らめた頬は水色によく映える。

花吹雪に彼女は笑い。
そんな彼女に彼は微笑み。

青き日の誰かと誰か。
太陽光に当たりじんじんする真夏のジャングルジム。
彼女がコンビニで買ったアイスバーは下にいる彼の額にポトッと落ちて、たらりと流れる
彼は少し頬を膨らまし、飲みきったラムネの中をカランと鳴らす。

海の青さに彼女は感激し。
そんな彼女に彼は失笑。

成る日の誰かと誰か。
成人式が終わり、慣れ親しんだジャングルジムの下。
少し早い時期に成人になる彼女の髪は紅葉に美しく彩られ、
彼女はイチョウ並木の木漏れ日に惚れる。
彼はジャングルジムの隙間から、晴れ着姿の彼女を見てはまた頬を染め。

プレゼントのかんざしに彼女は嬉し泣き。
そんな彼女に、彼は顔から湯気を出すほどに胸が高鳴り。

終わり近い日の誰かと誰か。
少し多い雪もましになり、粉雪だけが舞った日のジャングルジム。
肌の白さが雪と同等になるほどになった彼女はベンチに座り、あの日のかんざしに触れる。
何かを思い出すように彼は遠くを見て、彼女の美しさに何度めましての挨拶をする。

二人一緒に懐かしのジャングルジムに触れ、二人だけの物語を紡ぐ。
何度も何度も恋を繰り返した彼らの物語は、まだ色の残るジャングルジムに残っている。

どれだけ時間がたとうとも、ジャングルジムが色褪せようとも、

彼らの恋は色褪せない。


お題『ジャングルジム』
※枠登り(わくのぼり)=ジャングルジムの日本語訳。しかし、あまり使われる場面はない。

織川より。
テスト期間に入ったので少々投稿が不定期気味になるかと思われますが、ご了承下さいませ。にしてもお題のジャングルジム、幼年期を思い出します。よく滑って転げ落ちたものです。遊具との思い出は誰の中でも色褪せないものですね。

+α最近の織川の悩み※お題とはガチ関係ないです
お気に入り登録した方々が全員投稿しなくなってく…もはや呪いか?呪いなのか?何十人中二人しか今投稿してくださっているお方がおらぬ……仕方ないことだとは分かっていても、少しばかり悲しい近頃です。

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