織川ゑトウ

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『アン・ドゥ・トロワで初めまして』

今日は寝坊をした。
いつも通り七時ぴったりにかけてあった目覚まし時計を軽く睨む。
時刻は七時五十分だ。
ドタバタドタバタと階段を降り、
フローリングの床を駆け抜けていけばお母さんの第一声。

「早くご飯食べないと遅刻するよ!」

うるさいなぁと頭の中で愚痴りつつ、昼頃には感謝するだろうほかほかの朝食に手をつける。
ものの三十秒でそれらを食いつくし、よれよれの制服に袖を通す。
まだ寝ぼけている髪に軽く櫛を通し、すっきりとした髪型に直す。
今日の分の教科書が全て入っているか定かではないカバンを持ち上げ、玄関へと向かう
使い古してかかとが低く感じるローファーに足を入れ、勢いよく扉を開ける。

瞬間、冬を証明する空っ風が目の前を突っ切った。
冬の寒さはやはり堪えるけれども、そんなの気にしちゃいられない。
風にも追い付くスピードで歩道を走り、運よく来たバスに飛び乗る。
一安心かと思いきや何故かバスに乗ってきたハトに席をとられた。
動物だからと情状酌量をして肩を落とす。
ゆらーんゆらーんと吊革に揺られ、周りの人たちに押され、足元が少し浮く。
そうやって休んでられるのも束の間、次は~というアナウンスと共に到着の合図が僕の目を覚ます。
人生で何度か経験する程の人混みをするりと通り抜け、いつものカードをピッと鳴らす。

さぁ、ここからが本番だ。

バスを飛び降り、左に走る。
道脇の塀を登って、右に走る。
塀から近くの木に飛び移り、反対側のお寺前に出る。
猫の集会を邪魔しないように、寺院の抜け道をそそくさと早歩き。
少し急な階段をホップステップジャンプで大きく下から見下ろし、スタッと着地。
そして着地点から回れ右、大きく開けた商店街を突っ走る。

これから集会に向かう猫、軽いデートのお二人さん、店の準備をする厚着のおっちゃん
キリキリと弱く鳴く虫、寒空を鋭く飛び立つ鷹、ちっこく作られた雪だるま。

まさに千変万化の冬景色だ。
僕のほっぺの赤みも冬ならではの記念品。
そんな赤みもそろそろ落ち着かせてもいい頃だろう。
足のスピードを徐々に落とし、息を整える。
よれよれの制服をきちっと直し、髪を程よくほぐす。
いつも通りのはずだけど、やっぱりスタートは大事だし緊張する。

一歩、二歩、三歩

よしっと意気込んだその時

「桂木さん!おはようございます!」
「へぁっ!?い、委員長!お、おはよう!」

折角死角に隠れていたのに、委員長の目は誤魔化せない。

「まったく…今日も遅刻寸前ですよ!早起きちゃんとしてください」
「僕はしてるつもりなんだけどなぁ…委員長厳しい」
「いつも寝坊じゃないって言ってますけど立派な寝坊ですからね!」
「はいはい。明日から気をつけますよ~」

僕としてはしてるつもりだよ、だって寝坊しないと、ねぇ?

「委員長、いつも挨拶運動来るの遅いじゃん。たまに来ない日もあるし」
「ええまぁ、他の仕事で忙しくて」
「本当に?」
「本当です」
「本当に??」
「本当です」
「本当にぃ~?」
「ほ・ん・と・う・です!!」

あ、怒ってる。いつものポニーテールがなんか凶器に見えてきた。

「第一、貴方が遅くなければ…」
「あーはいはい。もっと早く登校しろってことでしょ。わかってるって」
「わかってないです!だって、だって…」
「だって、何?」
「だ、だって…そうすれば…」
「そうすれば~?」

「貴方ともっと早く、もしかしたら一番最初に会えるかもしれないじゃないですか!」

「…へ?」

腑抜けた声が、誰もいない玄関に響く。

「そ、それってさぁ」
「えぇ、告白ですよ!貴方への!!」

委員長の大声で僕の声の響きも消えるが、鼓動の音だけは僕の中で響き続ける。

「…なんだぁ。じゃあいつも遅刻しなくてもよかったんじゃん」
「どういうことですか?わざと遅刻してたんですか?」

「まぁ、委員長と一番最初に会うために」

参ったなぁ、頬の赤みが戻ってきちゃったや。

へらっと笑った彼の目にはこれまた赤面する委員長が映りましたとさ。


お題『始まりはいつも』


織川より
お久し!ぶり!です!織川です!いや本当に久しぶりですね。最近はお題だけ見て今日もう眠いし寝よう的な感じで書いてませんでした。これからも結構不定期が続きますのでそこはもうご愛敬ということで…スランプ&受験勉強がもうキツくてですね…でも、織川頑張ります。行きたい学校も決まったので後は目標の学校に向けて突っ走ります。ではまた次回のお題で会いましょう!

10/21/2023, 9:04:37 AM