『悲娘星(ひこぼし)』
今日は唯一僕が神様になれる日なんだ。
「また、会いに来てね」
そう、君から聞こえた。
ぼそっとだったけれど、僕の耳には、はっきり届いた。
君の笑顔はどこか悲しげだった。
千年前の記憶、僕は確か川に落ちたんだ。
そうして溺れた僕を、君は必死に助けようとしてくれた。
薄れる意識の中で君の美しい声が響いた。
「お願いします。神様……どうかこの人を」
目が覚めたら、君はいなかった。
走って走って、走って走って。
竹中をひょいと越えて、
走って走って、走って走って。
君が居たんだ。
「こちらに来ないで」って君は言った。
「そちらに行くよ」と僕は言った。
だからだったのだろうか。死のうとしても死ねなかった。
神様は許してくれなかったんだ。
だから、君と僕を彼岸と此岸に分けたんだ。
僕が溺れた川、そう天の川で遮って、君の声だけが僕の耳に残り続けた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
そう謝り続ける日々に、神様も、もう飽きたんだろうか。
「一年に一回ね」
やっと会える。そう、この日だ。
薄い懐かしの羽衣を羽織って、君に会いに行くよ。声だけを便りに。
大丈夫。君たちの声もしっかり聞こえてるよ。
なんてったって今日は唯一僕が、神様になれる日だから。
「また、会いに来たよ」
お題『七夕』
※彼岸(ひがん)=生死の海をさまよって到達する、悟りの世界。
※此岸(しがん)=私たちがいる世界。
『思い出のハンカチ』
ーーー2023年7月6日
今日、親友が死んだ。
原因は不明。急な体調不良で倒れたと聞いている。
「チーン」
いつもは好きな線香の香りが、きつくピリッと鼻先にまとわりついた。
線香の匂いを嗅がないようにと、鼻にハンカチを当てる。
「……あ」
このハンカチ、昔親友がくれた物だ。
ーーーー2013年8月8日
「ねぇ、ちょっと待ってよ~」
「お前足おっせーなぁ」
その日は、八月にふさわしい真夏日だった。
夏休みということもあり、僕たちは公園へ遊びに出掛けていた。
「そーだ。これ、やるよ」
「え?…ハンカチ?なんで?」
「お前怪我よくするだろ?血とかそれで拭けねぇかなって」
ーーそう言って彼は僕に黒色のハンカチをくれた。
……なに言ってるんだよ。勝手なこと!!
俺は体調不良なんかで倒れてない!お前が殺したんだろ!
死ぬ前に見たよ、お前がそのハンカチで血に濡れた手を拭くのを!
線香の香りがきつかったのだって、まだハンカチについていた血の匂いだろ!!
「……黒色をチョイスしてくれた君はさすが僕の親友だなぁ」
そりゃそう思うだろうな!!黒色だと血が付着したこと分かんないもんな!!
クソ……お前を親友だと思った俺がバカだったよ!!
「……また、お通夜で会おうね」
僕にとっては、思い出のハンカチ
君にとっても、思い出のハンカチ
思い出…記憶の中の出来事や体験を思い浮かべること
お題『友だちの思い出』
『世知夜(せちや)』
昼夜逆転。久遠と輝く夜空。
心なしか、周りから聞こえてくる虫の声は
誰かの声のように聞こえる
蛍がふわんと光り飛び、幻想的な空間が生まれる。
それはまるで安心できるか否かの弱々しい光に変わってゆく。
やがて蛍の光りも消え、ただ君の声だけがこだました。
何を話していたのだろう。
疲れきって眠ってしまったのだろうか。
少し触れただけで薄くなっていくような肌に、淡く染みる涙。
白く細い腕は「もう離れないで」というように僕の手を掴んで離さない。
「疲れただろう。ゆっくりお休み」
そう言い、毛布をかけてあげるとふわりと微笑み、
「もう、大丈夫だ」というようにそっと手が離れた。
できることなら、僕もずっと握ってあげていたい。
でも、できない。僕には、絶対に。
この億とある世界の、たった僕一人だけでは救うことが出来ない。
「シャラン」
流れ星が流れた。
昔は流れ星が流れる度に必死に心の中で願い事を言っていたなぁ。
それが合図となったのか次々と流れ星が流れていく。
「シャラン、シャラン、シャラララン」
星とは不思議なものだ。悩みなんて消える程に美しい。
全てが許されるような。誰よりも誰かの側に居続けた夜空。
「シャルラン、シャルシャルシャルラン」
玲瓏な夜空は今日も優しく誰かに微笑みかけている。
お題『星空』
※久遠(くおん)=永遠
※玲瓏(れいろう)=透き通るように美しいさま
『御告げの鈴(おつげのすず)』
雨潸々とと降り注ぐ午後、梅雨明けの神社。
もうそろそろ七月も中旬に差し掛かるというのに、
一向に蝉時雨の準備は聴こえず。
ただ、目の前の注連縄だけがゆらりゆらりと風にゆられ、
鳥居に滴る暖かな水滴も、こちらに流れてはくれない。
梅雨前線の音は聴こえず、かといって風鈴の音も聴こえず。
ただ、ぽっかりな空間。
そう感じさせるような、少し暗い参道。
丁寧に作られたであろうその道は、神様だけが通ることを許されているような。
そんな神秘的なものである。
「チャリン」
ふと、頭上からそう聞こえ頭を軽く上げてみる。
「 」
驚くことに神社の鈴が、上から落ちてきた。
ただ、大きくはなく手のひらサイズの可愛らしいものだ。
その小さな鈴を覗きこむと、金色に輝いた狛犬がうっすらと見えた。
この神社でお留守番しているであろうその狛犬は、
少し寂しい表情を浮かべ、今日も今日とて牙を剥き出しに、
この牙は誰かを守るために生まれたものか、
傷つけるために生まれたものか、
なんだか少し人間と似ている。
誰かを守るために生まれた私か、誰かを傷つけるために生まれた私か。
守るための笑顔か、傷つけるための笑顔か。
守るための努力か、傷つけるための努力か。
守るための人生か、傷つけるための人生か。
不思議と鈴がもう一度鳴る。
「チャリン」
狛犬の表情は安らかなものに変わっていた。
この世の全て、私の正体は。
お題『神様だけが知っている』
※雨潸々(あめさんさん)=雨が降るさま。涙をさめざめと流すさま。
※注連縄(しめなわ)=神聖、清浄であることを示すために張り巡らし、また渡し掛ける特 別な縄。
※蝉時雨(せみしぐれ)=雨のように蝉の声が降り注ぎ聞こえる様子。
織川より
皆様。お久しぶりです。織川ゑトウです。やっとテストが終わり、一区切れついたので戻ってまいりました。最近は梅雨も明け、夏の足音が近づいてきましたね。
ただ、全国的に真夏日が続いているようなので、水分補給をしっかりと行ってくださいね。
そろそろ夏休みに入ります。受験生ということもあって投稿頻度が休日あたりが多くなると思われますが、ご了承くださいませ。では皆様、体調にお気をつけて元気にお過ごし下さい。
『多様性理論』
あれが好き。これが嫌い。
人間性が出るよね。
人形が好き。サッカーが嫌い。
魚が好き。肉が嫌い。
あの子が好き。あの子が嫌い。
私が好き。私が嫌い。
好き嫌いは人によって全く違うけれど、色んなものがあっていい。
女の子だからってカッコいいものが好きでもいいし、
男の子だからって可愛いものが好きでもいい。
でも、それを公表するのは怖いよね。
皆に引かれたり、嫌われるんじゃないかって怖い。
LGBTだけではない、パラフィリアとかもそうだよね。
異常な物って好かれにくい。
人はなんで周りと一緒がいいんだろうね。
好きなものがあって嫌いなものがちゃんとある。
それってとてもいいことなんじゃないかな。
好き嫌いが激しい人っているけれど、
ようはそれって、自分をよく知っているっていうことだよね。
自分をよく知っている人は、自分をよく活かすことができる。
自分として、生きることができる。
好きに、嫌いに、正直に、なれる日をいつか願ってます。
お題『好き嫌い』
※パラフィリア=異常性癖ともいう。異常な物に性的興奮を覚える人をさす。
例「オキュロフィリア」=人の目に興奮する。
「メノフィリア」=女性の生理、または生理の血に興奮する。
「ペドフィリア」=死体に興奮する。
そろそろテスト期間に入りますので、7月上旬まで投稿いたしません。
最近は蒸し暑いですので、水分を十分に取り、元気にお過ごし下さいませ。