織川ゑトウ

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『世知夜(せちや)』

昼夜逆転。久遠と輝く夜空。
心なしか、周りから聞こえてくる虫の声は
誰かの声のように聞こえる
蛍がふわんと光り飛び、幻想的な空間が生まれる。
それはまるで安心できるか否かの弱々しい光に変わってゆく。

やがて蛍の光りも消え、ただ君の声だけがこだました。
何を話していたのだろう。
疲れきって眠ってしまったのだろうか。
少し触れただけで薄くなっていくような肌に、淡く染みる涙。
白く細い腕は「もう離れないで」というように僕の手を掴んで離さない。

「疲れただろう。ゆっくりお休み」

そう言い、毛布をかけてあげるとふわりと微笑み、
「もう、大丈夫だ」というようにそっと手が離れた。
できることなら、僕もずっと握ってあげていたい。
でも、できない。僕には、絶対に。

この億とある世界の、たった僕一人だけでは救うことが出来ない。

「シャラン」

流れ星が流れた。
昔は流れ星が流れる度に必死に心の中で願い事を言っていたなぁ。
それが合図となったのか次々と流れ星が流れていく。

「シャラン、シャラン、シャラララン」

星とは不思議なものだ。悩みなんて消える程に美しい。
全てが許されるような。誰よりも誰かの側に居続けた夜空。

「シャルラン、シャルシャルシャルラン」

玲瓏な夜空は今日も優しく誰かに微笑みかけている。


お題『星空』
※久遠(くおん)=永遠
※玲瓏(れいろう)=透き通るように美しいさま

7/5/2023, 10:29:05 PM