織川ゑトウ

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『御告げの鈴(おつげのすず)』

雨潸々とと降り注ぐ午後、梅雨明けの神社。
もうそろそろ七月も中旬に差し掛かるというのに、
一向に蝉時雨の準備は聴こえず。
ただ、目の前の注連縄だけがゆらりゆらりと風にゆられ、
鳥居に滴る暖かな水滴も、こちらに流れてはくれない。
梅雨前線の音は聴こえず、かといって風鈴の音も聴こえず。

ただ、ぽっかりな空間。

そう感じさせるような、少し暗い参道。
丁寧に作られたであろうその道は、神様だけが通ることを許されているような。
そんな神秘的なものである。

「チャリン」

ふと、頭上からそう聞こえ頭を軽く上げてみる。

「 」

驚くことに神社の鈴が、上から落ちてきた。
ただ、大きくはなく手のひらサイズの可愛らしいものだ。
その小さな鈴を覗きこむと、金色に輝いた狛犬がうっすらと見えた。
この神社でお留守番しているであろうその狛犬は、
少し寂しい表情を浮かべ、今日も今日とて牙を剥き出しに、
この牙は誰かを守るために生まれたものか、
傷つけるために生まれたものか、

なんだか少し人間と似ている。
誰かを守るために生まれた私か、誰かを傷つけるために生まれた私か。

守るための笑顔か、傷つけるための笑顔か。
守るための努力か、傷つけるための努力か。
守るための人生か、傷つけるための人生か。

不思議と鈴がもう一度鳴る。

「チャリン」

狛犬の表情は安らかなものに変わっていた。
この世の全て、私の正体は。


お題『神様だけが知っている』

※雨潸々(あめさんさん)=雨が降るさま。涙をさめざめと流すさま。
※注連縄(しめなわ)=神聖、清浄であることを示すために張り巡らし、また渡し掛ける特         別な縄。
※蝉時雨(せみしぐれ)=雨のように蝉の声が降り注ぎ聞こえる様子。

織川より
皆様。お久しぶりです。織川ゑトウです。やっとテストが終わり、一区切れついたので戻ってまいりました。最近は梅雨も明け、夏の足音が近づいてきましたね。
ただ、全国的に真夏日が続いているようなので、水分補給をしっかりと行ってくださいね。
そろそろ夏休みに入ります。受験生ということもあって投稿頻度が休日あたりが多くなると思われますが、ご了承くださいませ。では皆様、体調にお気をつけて元気にお過ごし下さい。


7/4/2023, 1:06:51 PM