ストック1

Open App
8/21/2025, 11:38:54 AM

我慢の限界が来て、私たちを酷使する組織を壊滅させてしまったので、私は君と飛び立つことにした
そう、高飛びだ
組織は反社会的だが、それでも構成員だって一人の人間
これまでは組織の力で守られていたが、後ろ盾がない今、内部抗争とはいえさすがに人死が出てしまえば、警察は私と君を捕まえるだろう
そして死刑になるという最悪の末路をたどるのだ
しかし私は死ぬ気はないし、君も同じ気持ちのはず
それでも心配はいらない
この国から逃げる方法はすでに確保している
状況は悪くない
順調と言っていいくらいだ
私たちを追って来られるものはいない
楽に逃げられるよう、私が手を回したからな
私と君で新天地を目指し、面白おかしく派手なことをしようじゃないか
もうすぐ目的地につく
さあ、ここから国外へ飛ぶんだ
……ん?
け、警察!?
なぜここに!?
まさか、君か?
君なのか?
そういえば、君はあの時一人も殺していなかった……
いや、ほとんど戦わなかったと言ってもいい
最初から私を売るつもりだったのか
警察とつながり、自分の罪を軽くするために私を罠にはめたのか
……フゥ、しかたがない
私も数え切れないほどの罪を犯してきた人間だ
君のように選択肢がなかったのではなく、自分の意思でやってきた
組織に入ったのだって、欲望のため
そういえば、君は今まで誰かの命を奪う仕事はやって来なかったな
しないで済むよう、うまく立ち回ったのだろうが
殺人を犯していないなら、私と逃げても得はない、か
まあ、君の手で人生に止めを刺されるのなら悪くはない
せめて君は、人生をやり直して幸せになってくれ

8/20/2025, 10:49:04 AM

まず始めに言っておく
私は姉だ
姉なのだ
なぜなら妹より何年か早くこの世に誕生しているから
にもかかわらずだ
必ず私が妹だと思われ、妹が姉だと思われる
原因はわかりきっている
妹の身長が高く、大人っぽい顔つきと大人っぽい落ち着いた雰囲気をまとっているからだ
そして私の身長が低く、童顔で、なんというか、騒がしい部分があるのがこの勘違いに拍車をかけている
いや、原因はそれだけではない
妹は私を……
姉である私をまるで妹のように可愛がってくるのだ
意味がわからない
可愛がるのは私の役目ではないのか
まあ、私も妹に甘えてる部分があるのは確かなので、あまり強くは言えないけど
そんなある日、妹が私にこんなことを言い出した

「私、昔から妹が欲しくてさ」

でしょうね
相手が子供っぽいのをいいことに、実の姉を妹扱いみたいにしているもんね
子供っぽいとか、自分で言って悲しくなってきたな

「だからお姉ちゃんを可愛がって甘えさせてるわけだけど」

やたら甘えてる私もどうなのって話だけどね

「だけど、お姉ちゃんは私をお姉ちゃんとは呼んでくれないわけじゃない?」

言うわけねーだろ
どこの世界に妹をお姉ちゃんと呼ぶ姉がいるのか

「だから一度、私のことをお姉ちゃんって呼んでみてさ、私をお姉さん気分にさせてほしいんだけど……どう?」

「妹からの頼みなんてレアだから叶えてあげたいけど絶対ヤダ
あまりに屈辱的だから絶対にやらない
たぶん呼んだら吐く」

吐くどころか爆発してしまうかもしれない
いくら日頃お世話になってるからといって、それは姉として超えてはならない一線だ
許されざる行為だ

「お姉ちゃん、ゲーミングPCあと二万円ほど余裕があれば買えるのにって、言ってたよね?」

「うっ!」

二万円をチラつかせてきた!
こ、こんな手に乗るものか!
私には姉としての最後の誇りがあるんだ!
ゲーミングPCに釣られたなどと、一生の恥!
恥、はじじじじ……

「一回だけだからねっ!」

欲の前には無力
私の誇りはホコリの如く吹き飛んでいった

「このセリフ!
このセリフ言って!」

珍しく興奮気味な妹に渡されたメモに書いてあったのは……
え、これ言うの?
気持ち悪っ
じゃ、じゃあさっさとやろう
さっさと言って終わらせよう

「お、お姉ちゃん、大好きっ!」

「……!!!」

妹が姉からお姉ちゃんと言われて悶えてる
私は顔面がめちゃくちゃ熱い
吐き気を催しそうになったけど、必死で堪えた
ただ、恥ずかしさや気色悪さはあるけど、もはや屈辱は感じない
妹から二万円貰うことを決めた時点で、私の魂は悪魔に売り渡されているのだ
私はもう姉でも何でもない
妹の妹になった、かつて姉だったものだ
妹、というか、実質上の私の姉は、なぜか三万渡してきた

「とってもよかったし、頑張ってくれたからボーナスね」

さっきまで妹だった姉は、機嫌よく自分の部屋へ向かった
取り残された私の目からは、自分でもどんな感情なのかわからないけれど、涙が流れていた
私はこの日のことをきっと忘れない
あ、ゲーミングPCは無事買えて、快適なゲーマーライフを楽しんでます

8/19/2025, 11:20:46 AM

なぜ泣くの?と聞かれたから、泣いてないと答えた
そしたら、泣いてたじゃない、と返された
いや、泣いてないんだけどな
机に伏せていただけで
向こうはそれでもしつこく、泣いていたよ、などと言う
だから泣いてないんだって
何が目的だ?
僕が泣いてるとなにか得があるのかな?
とはいえ、僕としてはそもそも泣いていないので、そう主張することしかできない
この不毛極まりないやり取りをいつまで続けるつもりだろう?
今も、悩みがあるなら話してみなよとか、見当外れなことを言っている
向こうの思う僕の悩みが何なのかはわからないけど、正直なところ、苦しむほどの悩みは幸運なことに現在のところ、何もない
向こうの考えでは僕が悩みを隠していて、それを暴くつもりなんだろうけど
以前から、なんか踏み込んできたがる人だと思ってたけど、なんなのか
うーん、どついうつもりかわかればいいんだけど
まあ、でもそういう人くらいいるか
もしかしたら、深い意味はないのかもしれない
ただ、興味本位で踏み込みたい人なのかな
あまり褒められたことじゃないけど、僕がその対象になってる限り、他の人に向かうことはないからいいか
僕自身は我慢強いから、大丈夫だし

8/18/2025, 11:08:10 AM

廃病院で肝試しをしていた俺たち
幽霊がいるなんて本気で考えてなかったし、ちょっとしたアトラクション気分だったんだ
この廃病院の中をどれくらい探索できるか、みたいなのをやってみたかっただけ
本当に軽い気持ちだった
だから一緒に来た友達二人が、いったん別れると言いつつイタズラで、先に廃病院を出て外からスマホで「もうとっくに出てるぜ、ひとりで早く戻ってこいよ!」とか笑いながら言われても、俺も「なんだよー」とか半笑いで返せた
そしてさっさとここを出て友達と一緒に帰ろうと思ってたんだ
ちょうど飽きてきてたし
おぞましい気配を感じるまでは……
それは本能だったのかもしれない
急に寒気がしたんだ
俺は自分でも理由がわからないけど、物陰に隠れた
直後に感じた気配に戦慄した俺は、咄嗟にスマホで友達に連絡しようとするも、電波は圏外
自分が焦っていくのがわかる
おかしい
さっきまで普通に繋がったのに
ヤバいヤバいヤバい
回らない頭でどうすべきか考える
すると、突然足音が聞こえた
コツン、コツンと
幽霊だ
ついに幽霊が近くまで来たのだ
俺は体の震えが止まらなくなった
コツン、コツン
足音が近づいてくる
もうすぐここまでたどり着く
しかし、急に足音が消えた
いなくなったのか?
そう思い、移動しようと後ろを振り返る
青白い顔の女が立って、こちらをじっと見つめていた
広く血のついた、入院患者が着るような服を着て
俺はその女を前にして……

「幽霊が足生やしてんじゃねえ!!!」

怒りをぶちまけた
幽霊は足があってはいけないのだ
下半身はなんかうねうねした感じで、少し浮いてなければならない
地に足つけた幽霊なんて偽物だ
幽霊になりきれなかった落ちこぼれだ
足音を聞いた時から、怒りで震えが止まらなかった
中途半端な気持ちで幽霊になりやがって
しかし幽霊は俺が怒鳴ると、意外な反応を返してきた

「あなた、話がわかりますね!
わたしも足をうねうねしたやつにしたかったんですよ!!」

どうやら、彼女と俺は似た考えの持ち主だったらしい
幽霊になった時、どうせなら幽霊を楽しもうと思ったが、足が普通に生えていてショックだったそうだ
幽霊といえば下半身がうねうねした姿
彼女もそれが鉄則だと考えていた
そこに幽霊のロマンを感じると

「でも、人を呪って力をつけて格を上げないと足はなくならないらしくて……」

なるほど
好きで足を生やしていたわけじゃなかったのか
怒鳴ったりして、悪いことをしてしまったな

「なら、怒鳴ったお詫びに俺を呪ってみないか?」

それが一番いいと思う
そうすれば、彼女は理想の幽霊になれるだろう

「え!?
いいんですか?
あの、けっこうつらくなるかもしれませんけど」

問題はない
俺は呪われてもいいと思えるほど、彼女の向上心とこだわりに感動したのだ

「遠慮はいらない
さあ来い!」

「じゃ、じゃあ、呪います!」

おおお、体重っ
風邪ひいたみたいな感覚!
寒気もするし、頭痛い

「大丈夫ですか?」

「全っ然大丈夫じゃない!
けど平気、本望!」

俺は呪われたまま友達のもとへ向かい、顔色が悪いとか、しんどそうだとか言われたものの、大丈夫だと言って帰った
手加減してくれたのか、俺の呪いはその程度で、死の気配も感じず、いつの間にか治っていた

「お久しぶりです
おかげさまでこの姿になりました!」

それからしばらく日が経って、深夜に幽霊が挨拶に来た
下半身がうねうねしている

「いやいや、お役に立ててよかったよ
わざわざお礼なんて言いに来なくてもよかったのに」

「いえいえ、お世話になりましたから」

幽霊は青白い顔を少し赤く染めている

「それと、あの
嫌なら断っていただきたいんですけど、取り憑いてもいいですか?
呪いとか悪いものではなく、ええと、お付き合いしたいなと」

えらく急な告白だな
俺としてはかまわないというか、めちゃくちゃ嬉しいけど、いいんだろうか?
恩だけで恋に落ちてしまって

「呪いを通してあなたの生活を見て人となりがわかったので
素敵な人だと思いました」

なるほど、そんなこともできるのか
なんか恥ずかしいな

「わかった
こちらこそよろしくお願いします」

こうして俺は、幽霊の彼氏となった
これからの生活が楽しみだ
彼女が俺をまた呪ってやろうなんて絶対思わないくらい、幸せにしたいね

8/17/2025, 11:51:02 AM

「あっついなもう!」

隣で先輩が叫ぶ
気持ちはわかるけど、怒ると余計に熱くなるのでは?

「そんなことはわかってるよ!
でも自分の怒りってコントロールできないじゃん!」

「まあ、自分の心を操るのが一番難しいですもんね」

私も一向に終わらない夏を憎々しく思っているところなので、やり場のない怒りが無いわけではない
だから、先輩の怒りをなんとかしてあげたい
こんな時には、むしろこの夏を楽しめるようなことを考えよう

「先輩、こうなったら夏の暑さなんて気にならないくらい楽しんでしまいましょう」

「なにかプランがあるのかな?
頼れる後輩」

「任せてください
私がこの夏、一週間ほど先輩を楽しく忙殺します」

私は数日で先輩忙殺計画を立てた

まずは大型プール施設サマーキングダム
数人の友達も誘って、ウォータースライダーや、巨大バケツがひっくり返って水が降ってくるのを楽しんだり、実はそんなに美味しくない食べ物を買って、ハイテンション補正で美味しくいただく
一日目はそんな感じ

「いやあ、楽しいね
でも最初からこんなに飛ばして大丈夫かな?」

「私と先輩の遊び人レベルなら全く問題ないですね」

二日目
私が親戚に流しそうめんを依頼したので、先輩と私の親族で楽しむ
さらに、夏の風物詩スイカ割りも行う
先輩は目隠ししてスイカを割る時に

「私の足音はお前が脳天をかち割られるまでのカウントダウンだぁ!」

とか、趣味の悪いことを言っていた
楽しんでもらえたようで何より
実は今日は小休憩の日と定めて、抑えめの内容だ

三日目
休憩という名のショッピングを挟みながら話題の映画を三本見る
劇場版ヴァ滅の銀刃と、ハクアッキワールド、映画クレパスきゅうちゃん
吸血鬼と戦う話と、復元した恐竜を巡る話、それから幼稚園児によるギャグアニメだ
さすがに最後の方は二人とも眠気との戦いになった
寝なかったけど

「恐竜映画なのに鳥が目立ち過ぎじゃない!?
なにゾンビイーグルの大群って!?
もはや別ジャンルだよ!」

と先輩がハクアッキワールドに文句を言っていた
当然の文句だと思う
制作側も自覚しているようで、鳥も恐竜とされる場合があるからとか、映画のパンフレットに言い訳がましいインタビューが載っていた
少なくとも、ゾンビである必要はないよね

四日目
また小休憩的な日
この日は図書館でランダムに決めた棚でランダムに手に取った小説をひたすら読む
普段読まないジャンルだったけど、私はとても楽しめた
ファンタジー中心だったけど、ラブコメもたまにはいいな
先輩はボロ泣きしていた
親と子のすれ違いと絆の話、だったらしい
この人、こういうので泣ける人だったんだ
その後も一旦帰って食事を摂り、戻ってまた本を読みふけった

「私は新たな趣味に目覚めた!」

「それはよかったです
先輩、今まで本とか読まなかったですもんね」

五日目
いよいよ忙殺最終章
私と先輩と先輩のお母さんで旅行となった
実は、先輩のお母さんが私の計画に手を貸すことを提案してくれたのだ
正直、お金の問題もあったのでありがたかった
行き先はいろいろな作品などとコラボしたりする超大型テーマパーク
初日は移動時間の関係でテーマパークには行かれないけど
それでも近場で美味しいものを食べたり、ホテルを楽しんだりはした
意外と疲れたけど、本番は明日なので、早々に体力全快にしなくては
先輩は五秒で寝た

六日目
今日が最大イベント
テーマパークというのは、どうなってもテンションが上がるもので、私も先輩も目をキラキラさせてあっちこっち行く
アトラクションに乗り、パレードを楽しみ、食事に舌鼓を打った
先輩はゲームとコラボした区画を一番楽しみにしていたようで、子供並みにはしゃいでいた

「コイン!
コインの音がする!
私、こんな幸せでいいの?
いや、いいに決まってる!
いっつも頑張ってるから!」

先輩が何か言ってる
ところで、この人は普段からサボりグセがある気がするけど、いつも頑張ってるらしい
私は魔法の世界が最高でした
風景だけで感動した

七日目
あとは帰って休むだけ
と思いきや、地元へ帰還後はもうひとつのイベントがある
花火大会だ
混みすぎて会場には入れないけど、先輩の自宅へ上がらせてもらい、一緒にいい感じに花火を堪能した
締めくくりにはいいと思う

「はぁー、ここのところ忙しかったから、癒やされるぅ」

「そうですね
この一週間、目まぐるしかったです」

「でもおかげで、暑さなんて気にならないくらい楽しい日々を送れたよ
ありがとね」

先輩はいい笑顔でそう言った
まだもう少し終わらない夏
だけど、この思い出があれば、それくらい、余裕で乗り切れる気がする

Next