まず始めに言っておく
私は姉だ
姉なのだ
なぜなら妹より何年か早くこの世に誕生しているから
にもかかわらずだ
必ず私が妹だと思われ、妹が姉だと思われる
原因はわかりきっている
妹の身長が高く、大人っぽい顔つきと大人っぽい落ち着いた雰囲気をまとっているからだ
そして私の身長が低く、童顔で、なんというか、騒がしい部分があるのがこの勘違いに拍車をかけている
いや、原因はそれだけではない
妹は私を……
姉である私をまるで妹のように可愛がってくるのだ
意味がわからない
可愛がるのは私の役目ではないのか
まあ、私も妹に甘えてる部分があるのは確かなので、あまり強くは言えないけど
そんなある日、妹が私にこんなことを言い出した
「私、昔から妹が欲しくてさ」
でしょうね
相手が子供っぽいのをいいことに、実の姉を妹扱いみたいにしているもんね
子供っぽいとか、自分で言って悲しくなってきたな
「だからお姉ちゃんを可愛がって甘えさせてるわけだけど」
やたら甘えてる私もどうなのって話だけどね
「だけど、お姉ちゃんは私をお姉ちゃんとは呼んでくれないわけじゃない?」
言うわけねーだろ
どこの世界に妹をお姉ちゃんと呼ぶ姉がいるのか
「だから一度、私のことをお姉ちゃんって呼んでみてさ、私をお姉さん気分にさせてほしいんだけど……どう?」
「妹からの頼みなんてレアだから叶えてあげたいけど絶対ヤダ
あまりに屈辱的だから絶対にやらない
たぶん呼んだら吐く」
吐くどころか爆発してしまうかもしれない
いくら日頃お世話になってるからといって、それは姉として超えてはならない一線だ
許されざる行為だ
「お姉ちゃん、ゲーミングPCあと二万円ほど余裕があれば買えるのにって、言ってたよね?」
「うっ!」
二万円をチラつかせてきた!
こ、こんな手に乗るものか!
私には姉としての最後の誇りがあるんだ!
ゲーミングPCに釣られたなどと、一生の恥!
恥、はじじじじ……
「一回だけだからねっ!」
欲の前には無力
私の誇りはホコリの如く吹き飛んでいった
「このセリフ!
このセリフ言って!」
珍しく興奮気味な妹に渡されたメモに書いてあったのは……
え、これ言うの?
気持ち悪っ
じゃ、じゃあさっさとやろう
さっさと言って終わらせよう
「お、お姉ちゃん、大好きっ!」
「……!!!」
妹が姉からお姉ちゃんと言われて悶えてる
私は顔面がめちゃくちゃ熱い
吐き気を催しそうになったけど、必死で堪えた
ただ、恥ずかしさや気色悪さはあるけど、もはや屈辱は感じない
妹から二万円貰うことを決めた時点で、私の魂は悪魔に売り渡されているのだ
私はもう姉でも何でもない
妹の妹になった、かつて姉だったものだ
妹、というか、実質上の私の姉は、なぜか三万渡してきた
「とってもよかったし、頑張ってくれたからボーナスね」
さっきまで妹だった姉は、機嫌よく自分の部屋へ向かった
取り残された私の目からは、自分でもどんな感情なのかわからないけれど、涙が流れていた
私はこの日のことをきっと忘れない
あ、ゲーミングPCは無事買えて、快適なゲーマーライフを楽しんでます
8/20/2025, 10:49:04 AM