廃病院で肝試しをしていた俺たち
幽霊がいるなんて本気で考えてなかったし、ちょっとしたアトラクション気分だったんだ
この廃病院の中をどれくらい探索できるか、みたいなのをやってみたかっただけ
本当に軽い気持ちだった
だから一緒に来た友達二人が、いったん別れると言いつつイタズラで、先に廃病院を出て外からスマホで「もうとっくに出てるぜ、ひとりで早く戻ってこいよ!」とか笑いながら言われても、俺も「なんだよー」とか半笑いで返せた
そしてさっさとここを出て友達と一緒に帰ろうと思ってたんだ
ちょうど飽きてきてたし
おぞましい気配を感じるまでは……
それは本能だったのかもしれない
急に寒気がしたんだ
俺は自分でも理由がわからないけど、物陰に隠れた
直後に感じた気配に戦慄した俺は、咄嗟にスマホで友達に連絡しようとするも、電波は圏外
自分が焦っていくのがわかる
おかしい
さっきまで普通に繋がったのに
ヤバいヤバいヤバい
回らない頭でどうすべきか考える
すると、突然足音が聞こえた
コツン、コツンと
幽霊だ
ついに幽霊が近くまで来たのだ
俺は体の震えが止まらなくなった
コツン、コツン
足音が近づいてくる
もうすぐここまでたどり着く
しかし、急に足音が消えた
いなくなったのか?
そう思い、移動しようと後ろを振り返る
青白い顔の女が立って、こちらをじっと見つめていた
広く血のついた、入院患者が着るような服を着て
俺はその女を前にして……
「幽霊が足生やしてんじゃねえ!!!」
怒りをぶちまけた
幽霊は足があってはいけないのだ
下半身はなんかうねうねした感じで、少し浮いてなければならない
地に足つけた幽霊なんて偽物だ
幽霊になりきれなかった落ちこぼれだ
足音を聞いた時から、怒りで震えが止まらなかった
中途半端な気持ちで幽霊になりやがって
しかし幽霊は俺が怒鳴ると、意外な反応を返してきた
「あなた、話がわかりますね!
わたしも足をうねうねしたやつにしたかったんですよ!!」
どうやら、彼女と俺は似た考えの持ち主だったらしい
幽霊になった時、どうせなら幽霊を楽しもうと思ったが、足が普通に生えていてショックだったそうだ
幽霊といえば下半身がうねうねした姿
彼女もそれが鉄則だと考えていた
そこに幽霊のロマンを感じると
「でも、人を呪って力をつけて格を上げないと足はなくならないらしくて……」
なるほど
好きで足を生やしていたわけじゃなかったのか
怒鳴ったりして、悪いことをしてしまったな
「なら、怒鳴ったお詫びに俺を呪ってみないか?」
それが一番いいと思う
そうすれば、彼女は理想の幽霊になれるだろう
「え!?
いいんですか?
あの、けっこうつらくなるかもしれませんけど」
問題はない
俺は呪われてもいいと思えるほど、彼女の向上心とこだわりに感動したのだ
「遠慮はいらない
さあ来い!」
「じゃ、じゃあ、呪います!」
おおお、体重っ
風邪ひいたみたいな感覚!
寒気もするし、頭痛い
「大丈夫ですか?」
「全っ然大丈夫じゃない!
けど平気、本望!」
俺は呪われたまま友達のもとへ向かい、顔色が悪いとか、しんどそうだとか言われたものの、大丈夫だと言って帰った
手加減してくれたのか、俺の呪いはその程度で、死の気配も感じず、いつの間にか治っていた
「お久しぶりです
おかげさまでこの姿になりました!」
それからしばらく日が経って、深夜に幽霊が挨拶に来た
下半身がうねうねしている
「いやいや、お役に立ててよかったよ
わざわざお礼なんて言いに来なくてもよかったのに」
「いえいえ、お世話になりましたから」
幽霊は青白い顔を少し赤く染めている
「それと、あの
嫌なら断っていただきたいんですけど、取り憑いてもいいですか?
呪いとか悪いものではなく、ええと、お付き合いしたいなと」
えらく急な告白だな
俺としてはかまわないというか、めちゃくちゃ嬉しいけど、いいんだろうか?
恩だけで恋に落ちてしまって
「呪いを通してあなたの生活を見て人となりがわかったので
素敵な人だと思いました」
なるほど、そんなこともできるのか
なんか恥ずかしいな
「わかった
こちらこそよろしくお願いします」
こうして俺は、幽霊の彼氏となった
これからの生活が楽しみだ
彼女が俺をまた呪ってやろうなんて絶対思わないくらい、幸せにしたいね
8/18/2025, 11:08:10 AM