ストック1

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8/16/2025, 11:13:33 AM

私には不思議と憎めない敵たちがいる
その敵は毎回悪さをしては私にぶっ飛ばされるわけだけど、私は攻撃の威力調整が下手くそな人間で、強くやりすぎてしまう
いつまでたっても上達しない
だから、敵も必要以上にぶっ飛ばしてしまう
打ち上げて、遥か遠くの空へ飛んでいく
そしてキラーンと光って見えなくなるのだ
最初にやってしまった時は、死んでしまったのではないかと思って気が気じゃなかった
数日後、何事もなかったかのように現れて悪さをし始めたので、安心したのは言うまでもない
まあ、相手は悪さをしてるから安心してる場合じゃないけど
その後も何度も調整ミスして遠くの空へ消えていく敵たち
何度もやられても懲りずに悪さをする
その諦めの悪さは見習うべきところがあると思う
悪ささえしなければ、人の役に立てる奴らなんじゃないかな
それはともかく
気になるんだけど、ぶっ飛ばされたあと、彼らはどうやって助かるのだろう?
あの高さから落下したら、普通死ぬはず
運良く木の枝がクッションに、みたいな奇跡は毎回起こらないだろうし
前に聞いてみたことはあったけど、はぐらかされた
でも、はぐらかされるほど気になるのが人というもの
私は隙を見てリアルタイムに映像を送る超小型カメラをこっそり相手に付けることにした
これはかなり距離が開いても、通信可能な逸品
そして、敵は今日も悪さをしていたので、いつも通りぶっ飛ばすついでにうまいことカメラを装着
私はすぐに端末から映像を確認した
おお、すごくいい景色
ぶっ飛ばされてなければこの景色を楽しめるだろうな
そんなことを考えていたら、突如、映像が真っ白に光った
キラーンと
あれって本当に光ってたんだ
ただ、その直後に映像は途切れてしまった
と思ったら、そう時間を置かずに映像が戻った
ここは、敵のアジトか何かかな?
一瞬でここに移ってきた?
これはもう、テレポートしたとしか考えられない
そんな能力持ってたの?
ちょっと待った
アジトの部屋のモニターに私のスケジュールが映ってない?
これ、間違いなく私の一週間のスケジュールだ
え、なんでそんなことを知って……
そういえば、あいつらが悪さをする時、なんで私は毎度居合わせているのだろう?
私がいないところで悪さをしてる形跡は確かにない
え、あれ?
私にやられるために、わざと私の前で悪さをしてる?
これもしかして、私は見てはいけないものを見てしまったんじゃ……
というか、私はなんでいつもこいつらと戦ってるんだっけ?
そもそもこいつらって、普段何してるの?
何者?
なんか、頭がこんがらがってきた
この敵たちと、私はいったい……?

8/15/2025, 11:08:31 AM

この気持ちをどう表そう?
!マークじゃ足りない感情
!マークなんかじゃ伝わらないこの思い
どんな表現をすれば、僕の感情をわかってもらえるだろう
どんなに力強い言葉を飾っても、それはきっと嘘になる
そんなのは、虚飾という二文字が相応しい
必要なのはそんなものじゃない
だからといって、違う方法で伝えたくても、なかなか考えがまとまらない
だからこそ、僕は悩んでいるんだ
ただ、この悩みは苦しいものじゃない
君に自分の感情を伝えるのが楽しみだから
うまく伝えられたら、君はどんな顔をするのかな?
さあ、どう言えばいい?
!マークをいくら付けても伝わらない感情
難しく考えるほどに、わからなくなる
だったら必要最低限の言葉で、この感情を素直に言おう
大丈夫
きっと、僕の感情は伝わる
さあ、思いを携え、君のもとへ行こう

8/14/2025, 10:52:23 AM

君が見た景色を、私も見たい
君がキレイだと言った、あの景色を
送られてきた写真や映像で見た景色
とても美しかったけど、本物を自分の目で見たら、もっと感動できるんだろうな
だけど、私は本物を見に行くことはできない
なぜなら私は、囚われの身
君に直接会いたいのに、会えない
君と一緒に、あの景色を見に行きたいのに、ここから出ることはできない
画面越しじゃなく、君と話をして、君に触れて、君と同じ景色を見て、君と笑いたい
どんなに望んでも、それは叶わない夢
なのに、願わずにはいられない
この場所はなんでもある
なんにでもなれる
どんなことだってできる
だから、叶わないことなんて無いと思ってた
それなのに、君はこの世界にはいない
私はこの世界から出て行けない
君も、君が私の世界へ行けるなら行きたいと言った
私が君の世界へ行けるなら、来てほしいと言った
それでも、どんなに求めても、その夢が本当になることはない
君は現実に生きているから
私は仮想空間に生きているから
私は、仮想空間へその意識を移した人たちの子孫
もう、完全にコンピュータの中の数値で存在している生き物になってしまった
君は肉体を持って、現実世界を生きる存在
君と私が会えるのは、現実のコンピュータを、仮想空間に繋いだ時だけ
それだけで満足できたら、幸せだったのかもしれない
つらい夢を見ずに済んだのかもしれない
諦められれば、楽になる
でも、私は諦めることができなかった
苦しくても、まだ夢を捨てていない
捨てられない
だからいつか、外の世界へ行くための方法を、私は見つけ出したい
私は君に会いたいから
君と、君が見た景色を見たいから

8/13/2025, 11:33:27 AM

そいつは超常の存在であるが、無害で、なおかつなんの利益も与えない
ただ、存在しているだけで、何もしないのだ
だが、そいつの特徴はそれではない
そんなのはいくらでもいる
珍しくはないのだ
ではどんな特徴か
そいつは通称、「言葉にならないもの」と呼ばれている
実は通称だけで、明確な名前は付けられていない
通称だって、そいつを見たことのない人間が、仮の名前として呼んでいる状態だ
正式な名前は、実際に見て、どのような特性を持つのかを見極めなければ付けられない
だが、「言葉にならないもの」だけはそうはいかない
その理由がそいつの特徴であるらしい
俺は見たことがないから、らしいとしか言えない
一度でも「言葉にならないもの」を見た人間は、そいつを表す言葉を表現できなくなる
なので、名前は付けられない
通称も言えなくなる
例のやつとか、あいつとか、そういった言葉ですら表現できなくなるようだ
文字も、蛇がのたうち回ったような意味のないものになり、キーボードやスマホなどは、そもそも入力する指が止まる
手話や点字も不可能
暗号や信号、その他諸々
ありとあらゆる言葉による表現が阻まれるのだ
それには外見的特徴も含まれる
なので、見た人間が「言葉にならないもの」について話す際、例えば「あいつを見たことがある」と言いたい時、「見たことがある」としか言えない
聞く方はなかなか大変だ
まあ、存在しているだけの無害なそいつを、わざわざ話題に出す機会はなかなか無いわけだけれども
そして、面倒なことに、写真や動画、似ている上手い絵などでも表現できない
撮ろうとするとカメラは一時的に機能停止し、絵を描く場合、どんなに上手い人でも、幼い子どもが描いたようなただのグルグルになる
つまり、外見は直接見た人間以外知りようがないわけだ
しかし、研究もわりと進んでいるようだから、そのうち見た人も「言葉にならないもの」を表現する言葉を言える日も来るかもしれない
とはいえ、表現不可能という特徴があったところで誰が困るわけでもないから、今のままでもいい気はするな
無害であることは、疑う余地のない事実のようだし

8/12/2025, 11:37:49 AM

これは、俺が今まで活動してきた中で一番困惑した、真夏の記憶である

気がつくと俺は、展示会の会場として使われそうなだだっ広い空間にいた
周りを見ると、様々な人が俺と同じように、あたりを見回していた
だが、彼らに困惑は無い様子
どちらかというと警戒のほうが強い
俺は普通の人間ではないため、警戒感がすぐにわかった
困惑ではなく警戒とは、彼らも一般人ではなさそうだ
それにしても、壁の前に置いてあるでかいモニターが気になる
あまり詳しいわけじゃないが、デスゲームでも始まるんじゃないだろうな
そんな雰囲気が漂ってるぞ
なんて思っていたら、モニターが点き、趣味の悪いニヤケ面の白いマスクをかぶった奴が現れた

「目覚めたかね諸君
私はゲームマスターのサンデーだ
君たちには今からあるゲームをやってもらう」

俺含め、全員がとりあえず何も言わず、相手の話を聞くことにした
以下、サンデーの目的である
サンデーは昔から、変身ヒーローの力がどれほどなのか、誰が一番強いのか知りたかったらしい
そして自らの特殊能力で様々な変身ヒーローを集めたのだという
まさか周りの方々が同業者だったとは
そして、この場所で俺たちにゲームをやらせて、最強のヒーローの雄姿をこの目で見ようと考えたというわけだ
ヒーロー同士で殺し合いをさせようとは、悪趣味な
だがヒーロー相手にこんな真似をしてただで済むと思っているのか?
他のヒーローたちも口々に呆れの声を上げている
しかし、サンデーは慌てた様子でヒーローたちの言葉に訂正を入れる

「待ちたまえ!
私は殺し合いなどさせるつもりはない!
これはデスゲームじゃなくて、純粋なスポーツだよ!
いくつかの競技で能力を競ってもらいたいだけだ!」

本気で言ってるのか?
罠とかではなく?

「だって知りたいじゃないか!
変身ヒーロー同士の本気のスポーツ!
夢があると思わないか!?
夢の共演系の作品とか、興奮しない!?」

こいつどうしようもないな
しかし、ここにいる全員、ここで断ってうざ絡みされたり執着されても面倒だと判断し、付き合ってやって、あとでしょっぴくことにした
組織の規模的に、俺がしょっぴくのが妥当かな
というか、特殊能力がすごいわりに、考えることや用途が幼稚だ
殺し合いさせられなくてよかったけど

「では早速変身してくれ」

全員、戦うべき敵もいないのに口上を言いながら変身するのは恥ずかしい感じだったが、とりあえず俺からやることにした
本来は仲間とやるんだけどね

「荒れ狂う炎の刃、ブレイドレッド!
エネルギー、解放!」

全身が赤い戦闘服に包まれる

「剣王戦士、ブレイドソルジャー!」

変身完了だ
よし次
中学生くらいの女の子が舞い始めた

「はじける元気!彼方へ届け!
シャインウィッチ!」

いかにも魔法を使えそうなロッドを持ち、動きやすそうなドレス姿になっていた

はい次
スタイリッシュな男性だ
俺と同い年くらいかな?

「Target Lock On!
変身!」

ベルト?が光り、動物か何かみたいなヘルメットと、装飾の多い派手なバトルスーツ姿になった

次行ってみよう
変身アイテムを掲げて、全身が輝いている
特に口上は無かった

「シャオ!」

この人、多分本来はでかい宇宙人だ
なんらかの技で人間サイズになってるけど
あと、人間の姿じゃないと日本語ダメみたいだな


彼女で最後だ
高校生くらいかな?

「暗き闇の意思にて、立ちふさがるものを駆逐する……!
ダークハンター・ブラッディナイト」

なんか全然毛色が違うの来た
赤黒い怖さを感じるドレス着てるし
こんなヒーロー見たことないんだが?
ひとりだけ何か間違えてないか?

モニターを見るとサンデーが悶ていた
感無量といった感じで
さっさとゲーム始めろよ

「ええと、なんだっけ
ああそうだ
これから諸君には、夏の風物詩である水泳、射的、金魚すくい、輪投げに挑戦してもらう
総合成績の良かったものが優勝だ」

うん……?
内容が思ってたのと違うな
水泳はまだわかるけど
なんか、夏祭りの定番の遊びが並んでいる気がするんだが?

「いや、正直もっとすごいものを作りたかったんだが、この会場とプールを貸し切るだけでほぼ資金が底をついてしまい……」

ええ?
なにそれ?
いや、こんなこと言っちゃダメだけど、ちょっとワクワクしてたんだよ
自分の力を戦い以外で発揮するシチュエーションに
期待してたのにその結果が祭りの遊び?
一気にやる気なくしたよ
周りもガッカリしてるし

「真夏だし、夏っぽいことをすればいいかなって……」

「それは安直だし、俺達をバカにし過ぎだよ
もう少しなんとかできるようにしてから、もう一回呼んでくれ
正直、本気の気持ちで挑む内容じゃない」

「そ、そんな!」

「お前だって心の底から楽しめないだろ?
こんなしょぼい夢の共演じゃあさ」

「うっ、たしかに……」

「もう一回よく考えて、お金貯めて、本格的な競技ができるようになったらまた呼んでくれよ
俺たち、また来るから
みんなもそれでいいか?」

周りの変身ヒーローも頷いている
決まりだな

「なんというか、私が不甲斐ないばかりにすまなかった
また、出直してきます」

こうして、変身してだけで何も起こらず、ゲームは終了と相成ったのである

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