山田君と僕(しもべ)の魔物は仲が良い
高名な家柄の中には、自分の子供に僕となる魔物を与え、手足のように使わせるところもある
正直、まともな思考をしていたらそんなことはしないと思うけど、なぜか合法なので、そういう家もあるのだ
同級生の山田君も、そんな家柄の子だけど、山田君は両親の高慢なところを嫌っていて、魔物にも僕としてではなく、友達として接しているいいやつだ
魔物の名前はマロン
山田君が名付けたのだ
二人は本当に仲がよく、いつも楽しそうに遊んでいる
見ているこっちも笑顔になるほどに
そんなある日、マロンがいなくなったと、慌てながら山田君が青ざめた顔で告げた
とても心配だ
すぐに魔法で痕跡を見つけ、山田君と一緒にマロンを探す
痕跡を辿っていくと、マロンが何人かに暴行を受けている場面に遭遇した
あいつらは、家柄はいいが性格は最悪のやつと、その取り巻きか
そういえば、魔物を友達扱いする山田君に突っかかったり、馬鹿にするような発言をしてたな
すぐさま二人で相手へ攻撃魔法を撃ち、先制した
向こうはいきなりの攻撃に対処できず、転がった後、蜘蛛の子を散らすように逃げていった
山田君がマロンに駆け寄る
怪我はしているが、幸い大事には至ってない
山田君はマロンを抱えながら、涙目で何度も感謝の言葉を言ってきた
でも、助けるのは当たり前だよ
だってマロンは、君と僕(ぼく)の大切な友達なのだから
俺たちは起きながら明晰夢を見ている
眠ることなく夢へ!
俺たちは起きている間、ずっと明晰夢が消えないのだ
眠る時は明晰夢ではない普通の夢を見るが、起きればいつもの明晰夢が始まる
その明晰夢は、みんな同じ内容だ
楽しく夢を見て、みんなでその夢の話で盛り上がる
同じ明晰夢だから、みんなで楽しめる
この先も俺たちは、この明晰夢を見続けるのだろう
だが、いつかこの明晰夢が俺たちの頭から消え去る日が来る
そして、明晰夢が消え去る理由が、その夢が叶ったから、であるように、俺たちはみんなで頑張り続ける
いずれにしろ、消え去った後は、また新たな明晰夢を見ることになるだろう
けど今は、今見ている明晰夢を楽しもう
お目覚めのようだな、アンダーソン君
気分はどうだ?
元気かな?
「貴様、こんなことをして許されるとでも思っているのか」
こちらの質問に答えたまえ
元気かな?
「なにを言っている
目的はなんだ?」
フゥ、いい加減にしたまえアンダーソン君
もう一度言うぞ
元気かな?
「おい、いい加減にしてほしいのはこちらだ
なんのつもりで俺を拘束している?」
アンダーソン君
本当にわかっていないのか?
周りの状況からわかるのではないか?
「検討もつかん!
拘束を解け」
本当はわかっているのだろう?
君はただ、それを認めたくないのだよ
何度でも聞こう
アンダーソン君、元気かな?
「拘束しておいて元気か、だと?
最悪の気分だよ」
体調に問題はあるか?
「……腹痛がする」
嘘だな、アンダーソン君
いま、少し考えた後、私から目を逸らして答えただろう
ともあれ、なんの問題も無さそうだな
「俺は腹痛だと言っている!」
仮病は通じないぞ
本当に腹痛なら一旦中止するが、仮病では中止にならない
さて、これより血液検査を始めとした、健康診断を行う
「血液検査、だと?
よせ、やめろ!
ふざけるな!
拘束を解け!
解いてくれぇっ!
ぐああああ!」
終わったぞ、アンダーソン君
痛くはなかっただろう?
君が思っているほど、怖くはないのだ
「け、健康診断はあとどれくらい続くんだ?」
情けないぞアンダーソン君
まだ始まったばかりだ
しかし安心したまえ
苦痛を伴うものはほんの少しだ
「そのほんの少しが耐え難いのだろうが!
俺をここから解放しろーっ!」
君のためなのだ、アンダーソン君
君には悪魔の所業に見えても、それは君自身の命を救うことにつながる
それをわかってもらいたい
さあ、次だ
「よせ、よせ!
来るなぁーーー!
あああああ!」
昔、幼馴染とした遠い約束
俺はそれを果たすため、この場所に来た
彼女がピンチになったら必ず助ける
そう、約束したのだ
今はお互い、別のパーティに所属しているが、関係ない
絶対に間に合わせる!
ようやくたどり着くと、幼馴染が傷だらけで片膝をついていた
敵である怪物はまだ戦意をみなぎらせているが、幸い俺には気づいていない
彼女を助けなければ!
俺は思い切り跳躍すると、怪物の弱点である首筋に剣を突き立てた
怪物は苦悶の表情を浮かべると、背中から倒れ、動かなくなった
なんとか、助けることができたか
「あ、ありがとう
でも、どうしてあなたがここに?」
「お前が逃がした仲間が、近くにいた俺に助けを求めてきたんだ」
「そうだったんだ
でもよかった、危ないところだったから
本当に、ありがとうね」
座り込む彼女に手を差し伸べる
「礼はいいよ
昔、約束したからな
お前がピンチになったら、助けに行くって」
ちょっとカッコつけながら言うと、彼女は伸ばしたてを止めた
ん?どうした?
「そんな約束、してないけど?」
「え?
七年くらい前、村の樹の下で約束しただろ?
忘れちゃったのか?」
「いやいや、してないしてない
私、そういうピンチになる前提のくだらない約束するの嫌いだもん」
なんか、嫌な汗が背中から吹き出してきた
ヤバい、約束の相手を勘違いしてたっぽい
なんでこんな勘違いしたんだ俺
「別に私はいいんだけど、誰と約束したか、思い出したほうがいいよ?
というか、相手を忘れるってヤバくない?」
「だよな、ヤバいよな
ええーと、誰だっけ……」
ここから、うっかり失われた記憶を思い出す問答が始まった
「村長の孫?」
「あんまり話したことない」
「あなたが話しかけられるたび照れまくってたアリア?」
「そんな約束、照れてできないよ」
「うーん、薬屋の家のジェシカ?」
「俺、あの子苦手だった」
「あとは、お嬢様のメアリー?」
「んー、ピンとこないぞ」
「ええ?
他は……あのさ、まさかとは思うけど、姉さんじゃない?
私の、さ」
その瞬間、俺の記憶の扉が開け放たれた
そうだ、彼女のお姉さんに、当時俺は憧れていて、そんな約束をしたのだった
なんか、それが妹の方に記憶がすり替えられていた
再び……いや、嫌な汗がさっきより多く背中から吹き出してきた
「あのね、あれだね
お姉さんだね、思い出したよ」
幼馴染が「こいつマジか」みたいな目を向けてくる
視線が痛い、すごく痛い
「うわぁ、最低だなぁ
姉妹を間違えるとかさぁ
想像以上の結末だったよ……」
「ごっ、ごめんなさい……」
これはもう、誠心誠意謝罪し続けるしかないな
本当に、申し訳ない
外国で花火を見た
日本でも花火は見るけど、外国で見る花火はまた違った印象を受ける
しかし、大量に次々と打ち上がっては、派手にひらいて消えていくなぁ
すごく綺麗だ
それにしても、相方はテンション高いな
周りの人たちもテンション高いけど、君、日本では風流だとか知った風なこと言って、静かに見てるよね?
「郷に入っては郷に従えだ!
この国のみんながハイテンションで楽しむなら、俺も同じように楽しむぜフゥー!」
なるほど、君は人より周りの雰囲気に流されやすいタイプの人間なんだね
ま、楽しんでるならいいけど
「ビューティフォー!
フラワーファイア!
ビューティフォー、イェー!」
なんかわけのわからないこと言いだした
日本語の花火をそのまま英語に変えたよ
周りの人が数人、訝しげな顔を一瞬浮かべてたよ?
「こういうのは雰囲気だぜ!
フラワーファイア、クール!」
花火は熱いよ、ホットだよ
あと、花火って確かfireworksとかだった気がするよ?
それに雰囲気って言ってるけど、現地の人が変なものを見る目を向けてるから
雰囲気に染まってないよ
むしろだいぶ浮いてるよ
「ソウルで伝わればいいんだ!
フラワーファイア、セレスティアル!」
絶対に聞いたことある単語を適当に言ってるだけだよね?
「ツッコんでないで、ビューティフォーなフラワーファイアをエンジョイしようぜ!」
もう無茶苦茶だよ
まぁ、言ってることは正しい
ツッコんでる暇があるなら、花火を眺めてたほうがいいよね
「フラワーファイア、フォーーー!!!」
……いい加減ちょっと黙って……
「あ……はい、すいません」