彼岸花

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9/9/2023, 1:19:48 PM

世界に一つだけ

『世界に一つだけ』といえばあなたは何を
思い浮かべますか?

難しいと思っても、実はとても身近にあるのものです。

例えば、『命』や『心』
目には見えないけれど、きっとみんな違う形を
しているでしょう。

ギザギザしていたり、ふわふわしていたり。

『人生』もその一つです。

誰かとまるっきり同じ人生を歩んできた人なんて
いないでしょう。

どんなに味気なくても、どんなに辛くても
みんな自分の道を切り開いて
困難という茨をかき分けてここまで進んで来たのです。

もちろん辛くなれば休んでもいいのです。

そしてその休憩時間は人それぞれ長さが違います。

だから、あの人と違うからといって焦る必要は
ありません。

…逃げ出したくなったら逃げてもいい。
…泣きたくなったら思いきり泣けばいい。

世界に一つだけの自分を守れるのは
世界にたった一人しかいない自分自身なのですから。

9/8/2023, 2:34:50 PM

胸の鼓動

今日はいよいよ運命の日。

…真っ白なベッドの上で色々と考えを巡らす。

あの人に会うために今まで食生活も生活習慣も
整えてきたんだ。

…大丈夫。私ならできる。

時計の針が進むにつれて私の胸の鼓動が速くなっていく

私の中に今残っている感情は
『幸せ』だけだった。

…そしていよいよ
その時がやってきた。

「…こんにちは。」

と相手が小さな声で言った。

「こんにちは。体調は大丈夫?」

「…はい。良好です。……今更なんですけど、
本当にいいのですか?」

相手は上目遣いで聞いてきた。

「…あなたは気にしなくていいって言ったでしょ。
私はこれを望んでたんだから。」

「……やっと、夢が叶ったの。」


私の夢は【ドナー】になることだった。
昔からずっと自分のことより相手のことを
優先していた。

もちろんこんなことを両親に言ったことはないが。
命がけで産んでくれたのに
自ら命を手放すなんて言えば、一番の親不孝に
なると思ったからだ。

でも、今は違う。

父と母は二人とも癌で亡くなってしまった。
そしてその癌は私にも遺伝している。

…あなたはもう長くないでしょう。

医師から告げられた言葉を聞いたとき、
一番に心臓は無事かと聞いた。

「心臓は正常に動いております。」

「じゃあこの心臓を誰かにあげたいです…!」
そう言って私はこの人のドナーになった。

…どうせ一人で、寂しく死ぬくらいなら
誰かの役に立てる死に方をしたい。

「そろそろお時間です。」
看護師さんがそう言った。

「……本当に…ありがとうございます…」
彼女は泣きながら言った。
体は小刻みに震えていた。

「大丈夫だよ。私の分まで生きてね」
そう言って私は彼女を抱きしめた。

「…はいっ!」

もう私の胸の鼓動は
ゆっくりになっていた。

9/7/2023, 1:39:29 PM

踊るように

夜中、目が覚めてふと窓の外を見ると
雪が降っていた。

今年は例年よりも気温が高く、冬になっても降雪は
ないだろうと思っていたけど…

…コートを着てベランダに出てみた。
やはり肌寒いが、地面に積もった雪を見ていると
どこか暖かさを感じ落ちる

雪たちは真っ直ぐ下に落ちるのではなく、
しばらくふわふわと漂った後、右に左に落ちるのだ。
手のひらを広げるとその中に落ちる雪もあった。

…まるで自分の意志があるかのように。

俺は今まで雪が羨ましいと思っていた。
すぐに落ちて、すぐに溶けてなくなるからだ。

……俺なんか
落ちてばっかりだ。

志望していたダンサーのオーディションにも落ち、
最後の希望だったバックダンサーのオーディションにも
落ちてしまった。

こんな俺なんか誰の目にも留まらず
溶けてなくなってしまいたい。

…でも、雪ってなんで溶けるってわかってるのに
降ってくるんだろう?

単なる気象だということは分かる。
でも、だったらなんで一つ一つ形が違うのか?

…こいつらもまた、俺みたいにあがいてるのかな…

落ちる直前まで必死に踊って舞って、
華やかな姿を見せて…

………よし。

…部屋の中に入り、思いっきりコートを脱いだ。
そして勢いよくパソコンを開く。

雪ごときに負けてられない…!!
そうして俺は次のダンスオーディションを探した。

…どんなダンスでも構わない

俺は落ちても落ちてもあがき続ける!

『いつか笑って踊れる日を迎えるために』

9/6/2023, 1:59:16 PM

時を告げる

…そろそろ時間だ。
先月受験した高校の合格発表が始まる。

目の前に広がる大きな紙
そして今私の手の中で小刻みに震えている小さな紙

…でも、すぐに見ることなんてできなかった。
自分の番号がそこにあると思わなかったからだ。

この高校を受けた人はみんな私より何倍も賢そうに
見えた。
中には同じ中学校で、学年トップだった人もいた。

…私はこんなハイレベルな高校になんて入りたく
なかった。

もっとのほほんとしていて青春を謳歌できるような
ところがよかった。

…でも、それでも私はここを選んだ。
だって…

小学生のときからずっと想い続けている人がいるからだ

…彼は

明るくて
誰にでも優しくて…

そんなところに私は惹かれたのだ。

…今日は彼と結果を見ようと思っていた。
だけど、そこに彼の姿はなかった。

……あれ?
なぜが涙が出てきた。

……。

その時誰かに肩を叩かれた。
「何泣いてんのさ」

それは優しい彼の声だった。

「よく見てみろよ。ちゃんとあるじゃん!」

彼が指を指した先に目を向けると
ちゃんと「2525」の数字があった。

「…数字…ちゃんとある。」
「…やった…!!」

「おめでと!! あ、もちろんちゃんと俺も受かったし」

まだ、彼と一緒にいられるんだ…

「ほら、とりあえず涙拭けって 2525 ニコニコだよ!」

「…なにそれ笑」

お互いに笑い合いながら、まだ雪の残る道を歩いた。

高校の近くにある古い時計台が
気づけば正午を告げていた。

9/5/2023, 12:53:26 PM

貝殻

煙草の吸殻に、米のもみ殻
何もないことを表す もぬけの殻

殻といえば少し地味なイメージがする。

でも、『貝殻』はどうだろう?
白や少しの桃色を帯びた貝殻もあれば、
波に削られ、丸っこくなった貝殻もある。

また、それらは持って帰りアクセサリーに
生まれ変わらせることだってできるのだ。

時にはヤドカリが綺麗で住みやすい貝殻を求めて
探しにくることもある。

貝殻は『貝』という動物の死骸でありもちろん
動くこともできない。

それでも、砂浜で、海底で、自分をアピールし
ヤドカリや人間のように自分を必要としている者
に拾って貰おうと必死なのだ。

同じように考えると、『せみのぬけ殻』も
似たようなものだ。

せみのぬけ殻は好き嫌いが別れる。
なので集めるのは少数だけだ。
その中には、ぬけ殻はせみが残してくれた宝物だと思う人もいるのかもしれない。

ぬけ殻も自分の意志はないはずなのに、木や塀に必死に捕まって、目立とうとしているのだ。

私はこんな光景を見るたびに思うことがある。

それは、人はやはり自然の美しさには勝てない
ということだ。

人間の最期は実に虚しいものだ。
今まで培ってきた肉体も残さず焼かれ、
残るのは白骨だけだ。

自然界の生き物たちは死後も尚、アピールを続けている

意志の有無とは関係なく輝こうとする
生き物たちの姿勢には

本当に頭が下がる。

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