#そっと
触れた瞬間ほろほろと
コーヒーに溶けた恋心
甘く切ない角砂糖
優しい夢を見せてくれ
せっかちな古時計は
小瓶の中にさようなら
「日常」の鳥籠
閉じ込められたことり達
まだ空を見つめてる
現実から目を背けるのは
決して罪ではないからさ
たまには肩の力抜いて
そっと腰を下ろそうよ
#まだ見ぬ景色
海風が頬をつついた
火花が出そうなほど
熱く激しく駆けていく
ブレーキは必要ない
もう誰も止められないから
朝露が光りだす前に
痛みはどこかに置いてって
僕はひたすらに走るのだ
こいつと共に走るのだ
誰かのためでもなく
自分のために
#君と一緒に
二人で作った泥団子
君の手を握って見せに行った
大人は皆、『手を洗いなさい』って言ってたけれど、
砂のジャリジャリした感触が夏の空には心地よかった
降り積もる雪に残された二つの足跡
少し大人びたマフラーをした君は
赤くなった手を隠すように、ハンドクリームを塗った
しっとりとした白い肌に、少し乾燥した手を重ねた
ふわふわと空を舞う花びらたち
お互いにしわしわになった手を繋ぐ
昔はあれほど軽かった体が、時に鉛のように重いのだ
呼び合っていた名前も思い出せず、
気づけば、“じいさん”“ばあさん”と呼び合っている
それでもこの光景を、もう一度二人で見たかった
「来年の桜が見れるか分からんからのう。」
「…きっと見れますよ。」
暖かな春の空気が二人の間を通り抜けていった
#冬晴れ
寒空に咲いた雪の花
珍しいものを見るように
君は呟いた
「綺麗だね」
その横顔を見ることはできなかった
陽の光のように眩しかった
私の隣に、君はもういない
咲いた霜が溶けていくように
冬の空気と共に
どこかにいってしまった
もうすぐ春がくるのだろうか
もしもそうであるならば、
私だけ冬に取り残されますように
#新年
『あけおめ』
照れ隠しのメール文
結局これしか送れなかった
最初にお前に会うのは俺がいいなんて
そんなこと、言えるわけないじゃん
音を立てては消えていく
そんな文字を眺めながら深い息を一つ
枕に顔をうずめる
俺は何を悩んでるんだろう
恋路は時に状況に左右される
プライドという汚い壁が邪魔をして、
捨ててしまいたいような劣等感は這い上がって来る
それでもお前が好きだって
胸を張って言えたなら、どんなに楽だろう
薄暗い沈黙に、体ごと委ねてしまいたい
二度寝という名の世界に入りかけた時、
スマホが小さな音を立てた
『明けましておめでとう。お正月空いてる?』
男は単純なもんだ
好きな奴の言葉に一喜一憂しちゃって
今まで悩んでたことなんて、
すぐにどこかに消えてしまうのだから
淡く染まった胸の内
一体いつまで隠しておけるだろう?
だって今この瞬間さえも
鏡の中の顔は、ニヤついているのだから