きらめき
『1人1人の個性輝く社会へ』とか
『君にはきらめく未来が待っている』とか
正直、俺は分からん。
一体誰がどんな根拠を持って言い出したんだか…
前までは流行に乗っかろうと必死だったけど、
今なんか完全に1人残されてるって感じ。
むしろあえて列車に乗らなかったって感じかな。
だって最近の曲の歌詞だってなんかキラキラしてる
というか、あんまり刺さらないんだよね。
…やっぱり俺はそんなお綺麗事は好きじゃないんだ。
だって人間生きてるだけで偉いし、
じゅうぶん輝いてるじゃん!
もっともっと輝いてって言われても困るし…
だからさ、無理にきらめきを求めなくてもいいってわけ
…だろ?
そうですね…ありがとうございます。
私は震える声でそう言った。
この男性は悩みを抱える人の心に寄り添うケアラーだ。
彼の話し方は初対面にしては少しチャラチャラしすぎていると思うけど、
でも見かけ以上に優しいんだと思う。
私は仕事もクビになり、旦那からも暴力を振るわれて
別れた。その際に言われた
「俺はもっとノリが良くて、キラキラしてて明るい人
だと思ってたのに…期待はずれだった!!」
という言葉がずっと頭に残っており、
生きる希望なんてなかった。
どうせ誰に相談しても励ましの言葉しか貰えないと
思っていた。
だけど、『無理にきらめかなくてもいい』って
言ってもらえて…
……なんだかちょっと嬉しい。
「本当にありがとうございます。」
「…もう少し生きてみようかなと思えました。」
「役に立てたならよかった」
彼はそう言うと笑った。
…私はこの日から、あなたにとっての『きらめき』に
なりたいと思ってたのよ。
…へぇ、なんか気恥ずかしいな笑
今でもたまにこのことを夫に話すと、あの頃のままの
笑顔で笑ってくれる。
些細なことでも
あなたはどんな些細な相談でも聞いてくれてたよね。
…勉強が分からない。
…友達と喧嘩した。
そのたびにあなたは、僕がいるから大丈夫だよって
私に優しい言葉をかけて
一緒にないてくれたよね。
私から伝えなくても、あなたからどうしたの?って
聞いてくれたときもたくさんあった。
…なのに、なんで私はあなたの変化には
気づけなかったんだろう…。
どうしてあなたは辛かったのに、私に伝えず
逝ってしまったの?
もしもいつもの私みたいに話してくれたら
急いで動物病院に連れて行ったのに…
誰にも気づかれないうちに犬小屋の中で……
…せめて最後は私の側にいてほしかったっ!
…どんな些細なことでも…ちゃんと…言ってほしかった
心の灯火
今日も窓の外は薄暗く、木は枯れ果て、寒そうだ。
まるで私の心がそのまま形になったみたいだった。
今日も静かな病室で一人死期を待つだけだ。
余命宣告を受けた時には死ぬことが怖いと思っていたが、それよりもずっと怖く、辛いのは今だ。
体の神経はもう働いておらず、痛みすら感じない。
痛むのは心だけだった。
…しばらくして、娘が一人で病室にやってきた。
「お父さん、今日はお仕事だから私が変わりに来たの」
そう言って、私の頭をなでてくれた。
「来てくれてありがとう……ねぇ、あなたはもしお母さんがいなくなったらどうする?」
「お母さんがいないとやっぱり悲しいよ。でも…もし
そうなっちゃったら、このくまさんと一緒に毎日お星様にお願いするの。」
そう言って娘は、私が五歳の誕生日に作ってあげた
くまのぬいぐるみを掲げた。
「ずっと持っていてくれたのね。嬉しいわ」
「うん! だってこれは私の大切な宝物だから!」
娘はそれをぎゅっと抱きしめた。
…「そういえば、お星様に何をお願いするの?」
「えっとね、 空の上のお母さんが、このくまさんの中に入って、私を守ってくれますようにってお願いするの!」
「お母さんがくまさんの中に入るの?」
「うん! そしたらずっと一緒にいられるでしょ!」
「そっかぁ…うん、そうだね」
「お母さん、天国にいってもずっとあなたを
守るからね」
私は今日初めて、娘から『死』とはなにかを教えて
もらった。
『死』は命がなくなることじゃない。
ただ体が動かなくなるだけで、心はずっと生き続けて
いる。
…娘の誕生日に作ったくまのぬいぐるみは
今もあの子の心の灯火になっている。
……私の葬儀にはくまさんの席も出さなきゃね。
娘にとっても、私にとっても、大切な家族だから。
いつからだろう。
人付き合いが面倒になったのは。
小学生の頃はよく3人の友達と遊んでいた。
正直その時が一番楽しかったと思う。
中学生になってからは3人の内2人が不登校になって
しまった。原因は分からない。
心当たりはないが、もしも私のせいだとするなら謝りたい。
残された1人の友達は毎日積極的に私に話しかけてくるようになった。話せる人がお互い他にいないからだ。
だが、その友達は気分の変わりようが激しく話しかけても無視されることも少なくなかった。
…なんでこんなふうになってしまったのか。
どこで間違えたのか。
私がおかしいのだろうか。
考えないようにしてもやはり駄目だった。
ある日友達のグループラインでこんな会話を目にした。
「今度みんなで遊ぼう!」
私はラインの通知画面上でそれを見た。
既読をつけないために。
2人は不登校でもう長い間リアルで会っていないから今更どんな顔をして会えばよいか分からなかった。
もう1人の友達にも気分によっては無視されてしまうかもしれない。
…嫌だな。
そう思った。
小学生の頃はみんなで遊ぶのがあんなに楽しかったのに
3人はお互い気まずくないのだろうか。
遊びたいという返信に対して、
「うん! いつ遊ぶ?」
「楽しそう!!」
といった返信をしていた。
そして
「〇〇は遊べる?」
と言われてしまった。
……既読をつけると、すぐに返信しないといけないと
勝手に思ってしまう。
でもはっきりさせておかないと向こうもイライラしてくるだろう。
私は意を決してこう言った。
「ごめん! その日は予定があるから遊べない」
…もちろん嘘だが
「そっかー じゃあまた今度遊ぼ!」
「うんうん!また予定が空いたら言ってね」
…「うん ごめんね」
……私は3人に『もう関わりたくない』
なんて到底言えるはずがない。
そんな勇気もないし、言ったら今の関係が
壊れてしまいそうだから。
…このまま消えてしまえば楽になるのに
考えなくていいのに
この世なんて滅びればいいのに
…毎日がこの繰り返しなら生きている意味なんてない
生きがいも感じられない
高校生になったら…少しは変わるのかな
そう思いながら私は今日も重い足を運んでいく。