美夜

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1/10/2023, 10:45:57 AM

 『20歳』


 20歳といえば、私は彼氏に振られて、新しい彼氏も出来なくて、落ち込んでた。
 友達とお酒飲むのは楽しかったけど、でも泣いてばかりいたなぁ……。

 そんなことを、家でお酒を飲みながら、今の彼氏と話す。今じゃ笑い話だけど、当時はすごく落ち込んでたなぁって思い出す。
 話を聴いてくれてた彼がポツリと溢す。
 「俺にとっては、よかったな。」
 微笑みながら、グラスに口をつける。
 「え、なんで?」
 ちょっと酔いが回って、ふわふわした気持ちで彼の表情を見つめる。優しい眼差しで私へ視線を送った。
 「だって、その時別れてくれたから、今があるんだろ?俺は嬉しいよ。」
 「……」
 あの時は本当に辛かったけど、私は今、報われてるんだ。
 ぼうっと、彼の瞳を見つめる。
 「君に会えてよかった。」
 彼は笑って、グラスをカチンとぶつけた。
 私はそのグラスを見つめて微笑んで、頬杖をついた。
 「私も、会えてよかったよ。」
 20歳の時のつらさの分だけ、今しあわせになってるのかな。
 お酒の味が妙に染みて、大人になったんだなと、今更ながら実感していたりする。

1/9/2023, 1:06:07 PM

 『三日月』


 「すごい。あの三日月、燃えてるみたい。」
 見上げた空に沈みゆく三日月が、オレンジ色に暗く染まっている。
 「大気圏突入してるみたいだな。」
 昔見たSFアニメを思い出し、ちょっと高揚感を覚える。
 「月っていろんな顔があるから、毎日一緒に生きてる気がする。」
 月の満ち欠けに、生きてることを重ねる彼女の眼差しは、生き生きと輝いている。
 「女性の心変わりと一緒かな。」
 なんとなく口をついた言葉に、彼女は途端にムッとする。
 「私は心変わりしないもん!」
 子供っぽい拗ね方が可愛い。クスッと笑いを溢して、彼女の頭を撫でた。
 「コロコロ変わる表情は可愛い。」
 「もー!馬鹿にしてるでしょ!」
 クスクス笑って、そんなことないよと取り繕う。
 「光が当たる角度によって、いろんな表情が見れるのは楽しいよ。」
 まだへの字口をしながら、ちょっとだけ納得したように押し黙って、
 「……でも、私の気持ちは変わらないんだからね!」
 俺に向き直って、じっと俺の目を見つめる。真面目なところは変わらないな。
 「うん。ずっと、そうだといいな。」
 あの月がたとえ燃え尽きてしまったとしても、ずっと、地球の傍に在って欲しい。
 「君の満ち欠けをずっと見守っていたいよ。」
 彼女はやっと満足したように、フフッと笑って、笑顔を綻ばせた。
 三日月のような目をして。

1/8/2023, 12:29:48 PM

 『色とりどり』


 「私って地味かなぁ。」
 セール品目当てで寄ったショップで服を選んでいて、ふと口をつく。
 ピンクもブルーもグリーンも可愛いけど、私はいつももっと落ち着いた色柄を選んでしまう。ブラウンにグレーに白と黒。主張の強い色より、控え目でくすんだ色の方が私に似合う気がしている。
 結局、今日もいつもと似たような色を選んでしまった。


 「決まった?」
 他のお店で買い物を終えた彼が合流する。
 「うん……」
 決めた服を抱えて、彼に冴えない顔を向ける。
 「どしたの?」
 「……ピンクとか似合うと思う?」
 おずおずと言う私に、彼が不思議そうな顔で答える。
 「ピンクもいいと思うけど、自分の好きなの選んだらいいんじゃない?」
 「うん……」
 「何、迷ってるの?」
 彼がきょとんとした顔を向ける。
 「このピンク、服としては可愛いけど、私には似合わないと思うの。」
 彼が服を手に取って、私に当てがった。
 「試しに試着してみたら?」


 試着室に入って、さっきのピンクの服を試着してみる。
 カーテンを開けて、彼に見せてみた。
 「おお。いいじゃない。」
 そう言われて、私は必死に否定する。
 「やっぱダメだよ。こんな派手なの私には似合わない。」
 「そうかな。恥ずかしいの?」
 「うん……」
 自信なく私は俯く。
 「じゃあさ、俺の前でだけ着て見せてよ。そういう可愛い君も見てみたい。」
 「え……」
 (可愛い……)
 そんな言葉、久しぶりに言われた気がする。
 「今度のデートで着てみて。それで嫌だったらやめよう。」
 「……」
 私にとってはとても突飛な色だけど、彼が気に入ってくれるならイメチェンするのも有りかなと思った。
 「ホントに似合うと思う?」
 胸を張って彼に見せた。
 「うん、似合う。可愛いよ。」
 ついじんわりと顔が綻ぶ。
 そんな私を見て、彼も目を細めて笑ってくれた。
 彼が褒めてくれるなら、そんな冒険もしてもいいかなと思った。

1/7/2023, 10:51:10 AM

 『雪』


 「え、うそ。雨が雪になってる!」
 少しの残業を終え、窓の外を見上げる彼女。
 「傘持ってきた?」
 俺が声を掛けると、彼女は笑顔で返答する。
 「うん!」
 「俺、折り畳みしかないや。折り畳みって後が面倒なんだよな。」
 「じゃあ、傘入れてあげる。」
 嬉しそうに笑う彼女は、この雪になんだか機嫌が良さそうだ。
 雪といえば、明日の交通機関に影響が……とか心配してしまうが、そんなことどこ吹く風。小さな子供のようにワクワクした目をしていた。
 そういう俺も、雪は嫌いじゃない。久しぶりの雪に、どことなくロマンチックな気分になる。


 「もう積もってきてるね。」
 「そうだなぁ。これは明日積もるぞ。これから気温下がるから、朝になったら凍ってるかもな。」
 明日の心配をしてる余所で、彼女は新雪を踏んで蹴って遊んでいる。子供っぽいのはどっちだよ、と思いながら、俺も積もりゆく雪を蹴散らした。
 傘からはみ出たコートの肩にも雪が乗っている。彼女の肩に腕を回して雪を払うと、彼女は俺の顔を見上げ、顔を綻ばせた。
 「ありがとう。」
 そう言って、俺の肩の雪も払ってくれた。
 「……え?」
 そんな彼女をじっと見つめる俺に問う。
 「なんか、こういう雰囲気っていいよな。」
 チラチラ舞う大粒の雪に視界を遮られて、まるで二人きりの世界に居るようで。
 「うん、いいね。」
 嬉しそうに笑う彼女を舗道の脇に誘導して、傘で隠して俺は彼女に口唇を寄せた。
 目を閉じる彼女の綺麗な睫毛が印象的だった。
 雪の冷たさの中で感じる温かい体温。
 今感じた熱が、離れると雪のように消えてゆく。
 額を寄せて微笑み合って、口唇に残る淡い微熱をほんのひととき噛み締めたのだった。

1/6/2023, 11:06:36 AM

 『君と一緒に』


 君に初めて声を掛けた少し前。
 君は体調を崩し、数日会社を欠勤した。
 俺は気が気じゃなくて連絡を取りたかったけど、知ってるのは会社のメアドだけで、直接の連絡先を知らなかった。
 遠回しに近しい女の子に様子を窺ってはみたけど、あまり深い情報は得られず、気になって仕事が手につかない程だった。
 一人暮らしらしい彼女は、今頃一人で苦しんでいるんじゃないのか、ちゃんとご飯は食べられているんだろうかと、数日そればかり考えていて、ふと……こんな時に傍に居られる存在になりたいと、強く自覚したのだった。
 彼女が出勤してきた日、それでも他愛もない会話しか出来ない自分に、もどかしさを感じていて。
 (何かきっかけが欲しい。)
 そう望みながらズルズルと日々は過ぎ、気付けば忘年会シーズン。
 (君と一緒に美味しいご飯が食べたい。)
 最初の一歩は、その揺るがぬ強い希望に動かされたのだった。
 (君と一緒にすべてを感じたい。)
 勇気を持てて本当によかった。


 「ねぇ、今日は何食べたい?」
 彼女の笑顔を今は当たり前に独占出来ている。
 「君の好きなものがいいな。」
 あの頃と変わらぬ気持ちで、今日も君と一緒に居られる幸せに感謝している。

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