『三日月』
「すごい。あの三日月、燃えてるみたい。」
見上げた空に沈みゆく三日月が、オレンジ色に暗く染まっている。
「大気圏突入してるみたいだな。」
昔見たSFアニメを思い出し、ちょっと高揚感を覚える。
「月っていろんな顔があるから、毎日一緒に生きてる気がする。」
月の満ち欠けに、生きてることを重ねる彼女の眼差しは、生き生きと輝いている。
「女性の心変わりと一緒かな。」
なんとなく口をついた言葉に、彼女は途端にムッとする。
「私は心変わりしないもん!」
子供っぽい拗ね方が可愛い。クスッと笑いを溢して、彼女の頭を撫でた。
「コロコロ変わる表情は可愛い。」
「もー!馬鹿にしてるでしょ!」
クスクス笑って、そんなことないよと取り繕う。
「光が当たる角度によって、いろんな表情が見れるのは楽しいよ。」
まだへの字口をしながら、ちょっとだけ納得したように押し黙って、
「……でも、私の気持ちは変わらないんだからね!」
俺に向き直って、じっと俺の目を見つめる。真面目なところは変わらないな。
「うん。ずっと、そうだといいな。」
あの月がたとえ燃え尽きてしまったとしても、ずっと、地球の傍に在って欲しい。
「君の満ち欠けをずっと見守っていたいよ。」
彼女はやっと満足したように、フフッと笑って、笑顔を綻ばせた。
三日月のような目をして。
1/9/2023, 1:06:07 PM