美夜

Open App

 『色とりどり』


 「私って地味かなぁ。」
 セール品目当てで寄ったショップで服を選んでいて、ふと口をつく。
 ピンクもブルーもグリーンも可愛いけど、私はいつももっと落ち着いた色柄を選んでしまう。ブラウンにグレーに白と黒。主張の強い色より、控え目でくすんだ色の方が私に似合う気がしている。
 結局、今日もいつもと似たような色を選んでしまった。


 「決まった?」
 他のお店で買い物を終えた彼が合流する。
 「うん……」
 決めた服を抱えて、彼に冴えない顔を向ける。
 「どしたの?」
 「……ピンクとか似合うと思う?」
 おずおずと言う私に、彼が不思議そうな顔で答える。
 「ピンクもいいと思うけど、自分の好きなの選んだらいいんじゃない?」
 「うん……」
 「何、迷ってるの?」
 彼がきょとんとした顔を向ける。
 「このピンク、服としては可愛いけど、私には似合わないと思うの。」
 彼が服を手に取って、私に当てがった。
 「試しに試着してみたら?」


 試着室に入って、さっきのピンクの服を試着してみる。
 カーテンを開けて、彼に見せてみた。
 「おお。いいじゃない。」
 そう言われて、私は必死に否定する。
 「やっぱダメだよ。こんな派手なの私には似合わない。」
 「そうかな。恥ずかしいの?」
 「うん……」
 自信なく私は俯く。
 「じゃあさ、俺の前でだけ着て見せてよ。そういう可愛い君も見てみたい。」
 「え……」
 (可愛い……)
 そんな言葉、久しぶりに言われた気がする。
 「今度のデートで着てみて。それで嫌だったらやめよう。」
 「……」
 私にとってはとても突飛な色だけど、彼が気に入ってくれるならイメチェンするのも有りかなと思った。
 「ホントに似合うと思う?」
 胸を張って彼に見せた。
 「うん、似合う。可愛いよ。」
 ついじんわりと顔が綻ぶ。
 そんな私を見て、彼も目を細めて笑ってくれた。
 彼が褒めてくれるなら、そんな冒険もしてもいいかなと思った。

1/8/2023, 12:29:48 PM