『冬晴れ』
「今日もいい天気だね~」
彼女が空を仰いで嬉しそうに笑う。
「そだね。」
今日から仕事始め。久しぶりに出勤し、姿勢を正して恭しく年始の挨拶などをして回る。
後輩である彼女にも形式的に挨拶して、お互いにクスッと笑った。正直、周りにはもうバレているが、そこはもう皆大人なので、温かく見守ってくれている。
ランチに二人で外へ出て、冬のシンと冷えた空気を深呼吸する。彼女の嬉しそうな笑顔の輝きは、冬晴れにも負けていない。
「少し散歩してから戻ろうか。」
「うん!」
こうしてただ肩を並べて歩くだけで、自然と気持ちが安らいでいく。年始早々の急務の束の間に、ひと息つけるだけでも楽になる。
はぁぁ、と吐き出した白い息に手を擦り合わせ、そっと彼女の手を握った。
目を合わせて微笑む彼女に微笑み返す。
ひとときの冬の散歩道に、あたたかな癒しを貰った気分だった。
今の私には無い。
無くなってしまった。
どんなに求めても、求めても、手に入らない。
あの時あった幸せは、今思えば奇跡のようなものだった。
もっと努力するべきだった。
彼のためにもっと沢山、気持ちを伝えておけば良かった。
どんなに悔やんでも、もう元には戻らない。
失いたくなかった……
幸せとは、賞味期限のあるものなんだろう。
その時しか味わえない。
永遠に続かないから、大切にするんだ。
『幸せとは』
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ネガティブなことは、タイトルを下に書くことにします。
ハートを送ってくれた方、読んで下さった皆様、ありがとうございます。
とても励みになっています。
いつもはイチャラブしてるだけですが、たまに切ないものも書けたらなと思っています。
『日の出』
「初日の出って見たことある?」
ネットで見た、初日の出を待つ人々の写真に感化される。
『あるよ。学生の時、地元で一番見晴らしのいいとこ行って、仲間内で見たなぁ。』
電話口で彼の懐かしそうな声が耳元に届く。
「えー、いいなぁ。私も見てみたい。」
私もそんな思い出のひとつになりたい。
『うん。来年どっか見に行こうか。』
他愛もない話の中で出てくる来年の約束。
紡がれていく日々。
二人の思い出。
来年も、当たり前に一緒に居られるといいな。
そう願いを込めて、その愛しい人の声を聴く。
『今年の抱負』
実家に帰っている私の元へ、彼からLINEが来た。
『今年の抱負を書きました。』
写真が添付されていて、そこには筆ペンで書いたであろう大雑把な文字。
『仕事を頑張る』
私は彼へ返信する。
「力強い字だね!でも、仕事だけ?」
ちょっと寂しそうな絵文字を付けて送ると、彼から。
『今が頑張り時だからね!将来、君を養っていくことを考えたら、稼がなきゃ!』
にこりと笑顔の絵文字が付いてきた。
(養う……)
そんな風に先のことを考えてくれてるなんてと、つい感動してしまう。
『もちろん、君との時間も大切にするよ。』
普段、そんなストレートすぎる言葉を口にすることはないけれど、時々、文字で伝えてくれるこんな言葉にドキッとする。
私もお返しに抱負を考えた。
「私の抱負は、あなたの好きなご飯を美味しく作れるようになること。」
送って、見えない彼に微笑んだ。
(私の気持ちも伝わるといいな。)
考えてくれたんだろう、少しして返信が来る。
『ありがとう。』
添えられた笑顔の絵文字が、とびきり嬉しそうに見えた。
『新年』
「明けちゃったね。」
「明けたね。」
ベッドで二人微睡みながら時計を見る。
「明けましておめでとう!」
私が彼に微笑み掛けると、
「あけおめことよろ。」
短い単語で彼は済ます。
「簡単すぎ~」
私は笑いながら不満を漏らす。
「気持ちはもう年末から充分伝えてる。」
ふふっと笑って、キスをした。
「そうだね。」
新年っていう実感は、陽が昇って初詣にでも行かないと湧いてこない。
「今年もよろしくね。」
ちゅっとキスを返した。
「よろしく……」
彼のぬくもりに包まれて、今年一年の幸福を願う。
「明日は、寝正月だな。」
しあわせで、平穏で、豊かな一年になるといいな。