『雪』
「え、うそ。雨が雪になってる!」
少しの残業を終え、窓の外を見上げる彼女。
「傘持ってきた?」
俺が声を掛けると、彼女は笑顔で返答する。
「うん!」
「俺、折り畳みしかないや。折り畳みって後が面倒なんだよな。」
「じゃあ、傘入れてあげる。」
嬉しそうに笑う彼女は、この雪になんだか機嫌が良さそうだ。
雪といえば、明日の交通機関に影響が……とか心配してしまうが、そんなことどこ吹く風。小さな子供のようにワクワクした目をしていた。
そういう俺も、雪は嫌いじゃない。久しぶりの雪に、どことなくロマンチックな気分になる。
「もう積もってきてるね。」
「そうだなぁ。これは明日積もるぞ。これから気温下がるから、朝になったら凍ってるかもな。」
明日の心配をしてる余所で、彼女は新雪を踏んで蹴って遊んでいる。子供っぽいのはどっちだよ、と思いながら、俺も積もりゆく雪を蹴散らした。
傘からはみ出たコートの肩にも雪が乗っている。彼女の肩に腕を回して雪を払うと、彼女は俺の顔を見上げ、顔を綻ばせた。
「ありがとう。」
そう言って、俺の肩の雪も払ってくれた。
「……え?」
そんな彼女をじっと見つめる俺に問う。
「なんか、こういう雰囲気っていいよな。」
チラチラ舞う大粒の雪に視界を遮られて、まるで二人きりの世界に居るようで。
「うん、いいね。」
嬉しそうに笑う彼女を舗道の脇に誘導して、傘で隠して俺は彼女に口唇を寄せた。
目を閉じる彼女の綺麗な睫毛が印象的だった。
雪の冷たさの中で感じる温かい体温。
今感じた熱が、離れると雪のように消えてゆく。
額を寄せて微笑み合って、口唇に残る淡い微熱をほんのひととき噛み締めたのだった。
1/7/2023, 10:51:10 AM