────こんなゆめを見た。
世界が自分を必要としていないゆめ。
自分がいつも通りにおはようって元気に教室を入ると、何故か全員が困惑したような視線を僕に向けて、こう言った。
「この人誰?」「転校生?」
おいおい冗談だろって、友達に話しかけても他人行儀で誰?って。
本当に僕を知らないんだと思った瞬間、僕は別のクラスへ走って僕を知ってる人を探した。
みんな口を揃えて言った。
貴方は誰ですか?と。
仲の良かった友人からも、親友も、恋人も学校の先生も親だって、みんなから言われた。
誰?って。
いつもこの制服を着て登校して、いつも笑い合って授業受けていたのにって、知らない人を見る視線を浴びながら頭から今までの思い出が駆け巡った。
放心状態の僕は、そうだお母さんは、お母さんならって、急いで踵を返して家で聞いても、またもや知らないと。
その制服は北高校だよね、どこの子供?なんでいるの?って。
すごく恐ろしくて、…飛び上がって起きた。
心臓がうるさい。
呼吸も荒い。
『転校生、?』
『…えっと、ごめんなさい。知らない、です』
『────お前誰だよ。』
『…なんでいるのかしら、?』
妙に生々しかった、現実味があった。
だけど、家を飛び出した時にお母さんに鉢合わせない、お母さんは僕を知らない筈なのに僕は自分の家で寝ていた、この矛盾は正しくゆめだからだ。
それでも本当にゆめだったのかって、そう思ってしまう。
頬を突っぱねた。
ヒリヒリと僕の頬は痛んだ。
現実だ。
でもそれでも、頭は混乱していて、もし現実があのゆめだったら、
そう考えると居ても立っても居られなくて、朝ごはんとか考える隙もなく家を飛び出した。
「っはぁ、はぁ…!!」
全力疾走で息苦しいなんてどうでも良い。
あんなのは違くてあくむだって、現実は僕の考えていることと同じでいつも通りで、友達も家族もみんなみんな僕を知ってて、いつも通りに接して、おはようって笑顔で言って、────、!
ガタン!!
ドアが壊れるんじゃないかってぐらい大きな音を立てながら教室に入る。
当然急な騒音にみんなが驚いて視線は僕に寄ってくる。
集まってくる視線。
その情景は、どうにもあのゆめに似ていて、。
頼むからいつも通りであってくれと願った。
「…誰、?」
「え、転校生かな」
「男かよー、…」
「つーかどうしたんだろ、顔色悪いな」
「ぇ………?」
な、なんで、これは現実じゃ…
お、お母さん、お母さんは、?
「ぁ…」
なに、言ってるんだ僕は。
僕に両親なんて……、
居なかったんだ。
「────っっはぁ、っはぁ、、、!」
「ゆ、夢……?」
僕は飛び上がりながら体を起こした。
あの時と同じく心臓が痛いくらいうるさく鼓動を鳴らしながら、静かに肩で荒く呼吸する。
冷や汗がだらだらと止まらずに考えた。
これは本当に夢なのか、?
今度こそ本当にいつも通りなのか……?
『こんな夢を見た』
「あ〜…」
動きたくない。
というか動けないというか。
現在午後四時。
いつもならお風呂に入ってる時間である。
だがパジャマも下着も用意せずベッドの上でぼーっとしているのである。
めんどくさい。
ずっと動画を見ていたいしスマホをいじっていたい。
お風呂なんてずっと入りたくないし勉強だって。
でももうお股がかぶれるあの感じを味わいたくない。
友達と遊ぶのにかぶれてて痒くて止まらなくて、鬼ごっこ走るのもなにか痒くなるんじゃないかと混ざれない。
嫌だ嫌だ嫌だ。
でも入りたくないものは入りたくないじゃないか。
でもでも。
この前まで一週間に一回しか入れてなかったのに、今やっと入れてきて、一週間毎日入れているのに。
嫌ではあるが勉強も毎日必ず五分はやり始め、継続をして行っている。
今僕は最低限のラインを必ず超えるように、全てを立て直そうと不登校なりに頑張っているのだ。
ストレッチを毎日継続して一ヶ月か二ヶ月で女の子の日がきつくて一日ぐらい休んでもいいかと休んだらめんどくさくなって挫折してしまった僕の経験談から、一日やらない日ができると絶対にいつかやらなくなって挫折してしまう。
だから入らない日は絶対に作ってはいけないのだ。
大きな目標を達成するには、スモールステップをするのが良いと言われている。
最終的な到達点を明確に決め、そのために小さい小さい目標をたくさん立てて、その目標を達成させていくというものだ。
でもお風呂に入るという目標はどうやってスモールステップへと小さな目標に区切るのだろうか。
一週間に入れたらご褒美でもあげるか?
でも僕は物欲がないのだ。
なにも欲しいものがない。
ご褒美となるものがないのだ。
ならばどうするというのか。
…強行突破。
興味があるものを勉強して突き詰めて、それを趣味にしようか。
興味のあるもの…。
そう言えば、絵を勉強してみたかったのだ。
習い事とかは先生や人に会いたくないので習い事はせずに本などで勉強してみよう。
よーしやる気が出てきた。
今日は一旦風呂に入ろう。
もう一歩ぐらい踏み出してみよう。
まぁ諦めるかもしれないけど。
『もう一歩だけ、』
「な、奈那ちゃんどうしよう!?」
けたたましい心臓の音、それは口から飛び出てしまいそうな程だ。
緊張、不安、嬉しさと、私の心はぐちゃぐちゃだ。
「…いや、どう考えてもそれ告白じゃない?」
慌てて相談したと言うのに、なんと冷静だろうか。
"告白"。それはたーまに友達などから聞くぐらいで、こんな地味な私には縁がないような言葉だ。
それをいつも恋の相談をしていた親友から淡々と言われてしまっては、思考停止してしまいそうな頭をさらに追い込んでしまうものだ。
「え、ええ!?で、でも…」
「靴箱の中に手紙入ってたんでしょ?しかも送り主海なんでしょ?」
「このタイミングでそれは告白しかないでしょ。」
「う、うぅ…でも、違うかもだし」
「はぁ…じゃあ、告白じゃないほうがいいの?」
「いや、それは…」
私、奈那ちゃんみたいに可愛くないし地味だし…
海くんなんてすごくかっこいいから私とは不釣り合いって言うか…
「あのねー彩音。普通に彩音は地味なんかじゃないし全然可愛いんだよ?」
「こ、心読まれた…」
「彩音は肌綺麗だし、髪の毛もサラサラでつやつやなんだから可愛いんだよ。羨ましいくらい。」
「だからそろそろ自信持ちなって、過度な謙遜は嫌がらせにしか見えないんだよ?」
「でもぉ〜…」
「まぁとりあえず四時十分頃体育館集合なんでしょ?行って来なよ」
「う、うん…」
体育館のドアをガチャリと音を立ててドアノブをひねる。
体育館の真ん中あたりに、私の好きな人が居る。
「おう、来たか。」
「あ、う、うん。」
「…話したいことがあるんだ。」
珍しく神妙面持ちで語りかけられる。
「……うん」
「…俺────、」
ごくりと生唾を飲み込む。
夏の蝉たちが元気すぎる鳴く声が、体育館に広がる。
でも今回ばかりは私の鼓動の音も蝉たちに負けて居ないぐらいバクバクと、バクバクと。
「俺、彩音のことが…好きなんだ」
「…ぁ」
刹那、ふわりと何かが心から溢れ出て来た。
あんなにバクバクと音をならせて居た心臓も少し落ち着いていて。
ふと、ほろりと涙が零れ落ちる。
「俺と付き合ってくれませんか、ってえ?な、泣い…そ、そんなに嫌だったか、?」
「ちが、違うの、…嬉しくて」
「こんなわたしでよければぜひおねがいします、」
ひっくひっくと、なんとか肯定の意志を伝える。
飽和した感情に流され、どうやっても嗚咽が止まらない。
「….そっか、言うの遅くてごめんな」
そう言って微笑みながら海くんは優しくわたしを抱きしめる。
あぁ、。
────────夢じゃ、ないんだ。
私は体育館の外のドアから体育座りをしてやりとりを聞く。
「…結ばれちゃったかぁ」
結ばれてしまった。
いや、ずっと彩音をサポートしてたのだから結ばれるようにと方向転換していったのは私なんだけど。
でも、でも。
いざ結ばれるときついものがある。
胸がズキズキと痛む。
同時に、目尻から熱い物がぼろぼろと溢れて服にシミをたくさん作っていく。
あぁ、これが失恋なんだ。
暑苦しい外、蝉の鳴く声が聞こえてくる。
なんだかその声が今の私を嘲笑っているようだ。
「…あぁ、、」
────夢で、あってほしかった。
『夢じゃない』
「ふぅー…」
出来ることは全てやった。
落ちていたとしても、悔いはない。
「…いざ」
私はカーソルを操作して合否発表のボタンを押した。
次の瞬間、デカデカと発表される。
────合格してると。
その時、心から感動で心が溢れた。
これまで何も成し遂げず、学校にも不登校としていかなかった。
そんな私でも、漢検ニ級に合格出来たんだ。
私は何も理由もなく学校に行きたくないと不登校になってしまった。
何か何故か、莫大な不安の塊が胸にどっしりとあって、その塊に押し潰されそうで。
なんで学校来れないの?なんて私が知りたかった。
そんなのをずっとずっと繰り返していたら、もう大学生になる年で。
不安よりも焦燥感で、いつでも胸の奥を中心に体全体が焦りで掻き乱されて、何処にも居場所がない…というか居場所を自分から無くして追い込んで。
────でも。
お母さんは、お母さんは、こんな私を優しく包み込んで抱きしめてこの特大級の焦りや不安を癒して解消してくれた。
休んでも良いと、ゆっくりで良いと、安心できる憩いの場を与えてくれた。
それを思いっきり利用して、新たな世界へ飛び込んだ。
それでこの結果なのなら、飛び込んでみて良かったと、心の底からそう思える。
私は普通ではなかった。
でも、今こうやって漢検二級に合格できたのなら、少しばかり普通になれたと思う。
みんなは炭酸の泡のようで、下から上へと、すぐに上がって来れる。
でも私は泡にもなれずに上にも上がれない。
それでも、私もみんなと同じように泡になって、いつかは下から上に…なんて。
それでもぼんやりと、そしてゆっくりではあるが自分の夢をはっきりとさせて行きたい。
『泡になりたい』
肌を焼きつけるような暑くて眩しい太陽。
蝉の音が世界中で響き渡る。
もう8月だ。
「…」
あの日、君は私を置いていってしまった。
全く、彼女を置いていくなんて最低な彼氏だ。
君の綺麗な顔も、その縦長の磨かれた石では何も見えなく、殺風景で寂しく名前しか書かれて居ない。
そんな眠ってしまった君のそばに華やかな花を添える。
君は華やかな花とかは好きじゃなかったけど、嫌がらせに置いてやる。
こうしてやれば、君が反応して一回だけでも戻ってきてくれるかもしれないし。
大体は立ち直ったつもり。
だけど。
あのとき、私は動揺でなにも言葉が出なかった。
そのせいで感謝も何も、悲しみだって伝えられなかった。
数分でもいいから君に会いたい、なんて。
8月、君と会いたい