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7/29/2025, 4:34:14 PM

「はぁ、はぁ、、」
全力で風邪を切って、切って、切って。
そんな事を十分も続けていたら流石に運動バカの私でも体は疲れ、肺から酸素を吐きつくし、肩で呼吸を繰り返すことになってしまう。
でも、目の前には大親友が居るから。
「愛菜ごめーん!寝坊しちゃった!」
疲れているどころか、満面の笑みでにんまりと笑い、ぱっと見冷淡そうな彼女に明るく声をかける。
「紬遅すぎ。30分も遅れてるんだけど。」
ぱっと見冷淡そうな彼女は外見の通りに怪訝そうな顔をして不満を私にぶつけた。
「ごめんごめん。寝るのは早かったんだけど寝坊しちゃった!」
「はぁ…まぁもう治るとも思ってないしいいけどさ。」
「えぇ?ひどいなー、私だってちゃんと約束守る時は守るでしょ?」
「大体が私の誕生日か紬の誕生日の時だけでしょ。」
私の反論に愛菜はその鋭い目で淡々と言い返す。
「でもでも!ほんとにたまーに約束通りくるでしょ!?」
「自分でもほんとたまーにって言ってるじゃん。紬が約束通りに来るのは奇跡なんだよ。」
「…でも!愛菜ならやれやれって許してくれるでしょ?」
「…まぁ。そうだけどさ。」
「えへへ、いつもありがとうね」
「…別に。」
「お、ツンデレだ」
「うるさいな!!!」
珍しく彼女が叫ぶ。
愛菜はんもう…と言って頬を赤く染めてそっぽを向いてしまった。
私の親友は普段の真面目でしっかり者な彼女も愛らしく可愛らしいが、たまに見せるツンデレ気質なところがまた愛らしく、可愛らしい。
「…そ、それより!!服見に行くんでしょ!早く行こ。」
「そうだった!あ!信号青じゃん!早く行こ行こ!!」
「わっ、ちょ…引っ張らないでってば」
強引に愛菜の腕を引っ張って私は駆け出していく。
「ちょ、離してってば」
「えへへごめんごめん、それより早く渡らなきゃ!!」
その言葉を合図に二人ともまた駆け出した。
「、!」
「ちょっまっっ!!!!」

────刹那。

「危ない!!!!」
私は何故か背中を両手で強く押され前に押し出される。
瞬間、激しい車のブレーキ音と共にバン!!!と音が鳴って、何かが吹っ飛ばされた様な音も聞こえてきた。
私は急いで振り返った。
私の背後には何も居なかった。
けど。
私の後ろの左側には、痛みに悶える親友がいて。
私は思うがままに愛菜の横に駆け寄った。
親友は、何故か微笑んで────
「んも…信号チカチカしてたのに駆け出して行っちゃうんだから……」
アスファルトに血を広げ滲ませながら…彼女はそう言った。
「ご…ごめん、え、ぁ、えっと……きゅ、救急車、救急車呼ぶから…!待ってて…!!」
必死に言葉を紡げ、スマホを取り出した私の腕をを愛菜はゆっくり力無く掴んで、
「だいじょうぶ。…なんかね、わかるんだ…もう、無理だってさ……」
愛菜の言葉は酷く弱々しく、さっきまで普通に会話してた愛菜の言葉とはあまりにも違くって。
「な、なに言って…!!」
「救急車呼ぶなんて時間の無駄だよ……最後に、お話しよ…?」
「っ…ぅん……」
「ありがとう、…私、紬といろんなことをして……楽しかったよ。小さい頃は泥団子作って…走って遊んで…紬が転んで大泣きしてさ…大変だったんだよ?」
「…ご、ごめんね」
「小学生でも紬の天真爛漫さは変わらずで…クラスが違ったとしても仲良くずっと遊んでくれて…」
「…」
「中学生も、今も…。ずっと私を引っ張ってくれて、遊んでくれて…紬はなんにも変わってない」
「私は結構変わったのに…変わっても、紬は変わらずに親友でいてくれた。」
「…それは、愛菜の本質が変わらずにいてくれたからだよ」
「…そっか」
「…最後、私と…私と、親友でいてくれてありがとう」
「違う…大親友だよ」
「、…そっか」
一瞬驚いた様な顔をし、今までに見せたことがない、柔らかな笑みをして、弱々しく、優しい声で答えられた。
「…そろそろかな。」
「、!」
心臓がどくりと音を立てる。
さっきまで何もなかった心臓がこれでもかってぐらい鼓動を打ち始める。

命が失われてしまう。

大親友の、命がなくなってしまう。

「まって、まってよ…」
「…ごめんね。」
どうあがいても変わらないこの現実に、勝手に涙がボロボロと溢れ落ちる。
当然止まるわけもなく、嗚咽を上げても止まらずに私は喋り続ける。
「いやだ、いやだ…いかないで……愛菜、まなぁ…」
「紬ったら、そんなに私が好き?」
「好きだよ、大好きだよ…決まってるじゃんか…」
「ふふ…私も、私も好きだよ…紬、」
動悸が止まらない。
頭の脈も、首も、手首も。
脈がどくどくと鳴らし続けて、心臓が鼓動もバクバクと鼓動を打ち続けて、どこもかしこもどくどく、バクバクって。
おかしくなってしまいそうなくらい。
「…最後の最後、わがまま、聞いてくれるかな。」
「…なに…?」
「最後は…笑顔でいきたいな。」
「っ…うん、」
「本当に、今までありがとう、紬。本当に、楽しかったよ。」
「うん…!私も、私も…楽しかった、今までありがとう…」
今までにない笑顔を作って、そう告げた。
「私…幸せ、だった、よ……」
そう、そう言って、ゆっくりと、ゆっくりと、涙を流しながら、本当に幸せそうに瞼を落としていった。
私の鳴っている脈の場所を、軽く触ろうとした。
「あ…」
脈がなっているか、腕を持った瞬間にわかってしまった。

────もう、生きて居ないって。

死んでしまったんだって。

そう自覚した瞬間、急に視界がブラックアウトしていった。

起きた時には、病院にいた。
すぐさまナースコールを押して、状況説明をしてもらった。
期待したかった。
あれは夢で、愛菜はまだ生きていると。
嘘だって、そう信じていたかった。
だけど現実は冷酷で残酷で。
看護師から、絶望の事実をひしひしと教えられて。
教えてもらった私が一番最初に思ったこと。
絶望もそうだが…
一番は後悔だった。
あの時、ちゃんと信号を見ていれば。
いや、あの時遅刻しなければ。
いや、もっと遡ってあの日に約束しなければ。
そうすれば、あの悲劇は起こらなかった。
全てのタイミングを誤って、あんな過ちを犯してしまったのだ。
これから、私はどうしたら良い。
誰でも良い。
神でも天使でも悪魔でも教えて欲しい。
私はこれから、何をすれば良い。