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「な、奈那ちゃんどうしよう!?」
けたたましい心臓の音、それは口から飛び出てしまいそうな程だ。
緊張、不安、嬉しさと、私の心はぐちゃぐちゃだ。
「…いや、どう考えてもそれ告白じゃない?」
慌てて相談したと言うのに、なんと冷静だろうか。
"告白"。それはたーまに友達などから聞くぐらいで、こんな地味な私には縁がないような言葉だ。
それをいつも恋の相談をしていた親友から淡々と言われてしまっては、思考停止してしまいそうな頭をさらに追い込んでしまうものだ。
「え、ええ!?で、でも…」
「靴箱の中に手紙入ってたんでしょ?しかも送り主海なんでしょ?」
「このタイミングでそれは告白しかないでしょ。」
「う、うぅ…でも、違うかもだし」
「はぁ…じゃあ、告白じゃないほうがいいの?」
「いや、それは…」
私、奈那ちゃんみたいに可愛くないし地味だし…
海くんなんてすごくかっこいいから私とは不釣り合いって言うか…
「あのねー彩音。普通に彩音は地味なんかじゃないし全然可愛いんだよ?」
「こ、心読まれた…」
「彩音は肌綺麗だし、髪の毛もサラサラでつやつやなんだから可愛いんだよ。羨ましいくらい。」
「だからそろそろ自信持ちなって、過度な謙遜は嫌がらせにしか見えないんだよ?」
「でもぉ〜…」
「まぁとりあえず四時十分頃体育館集合なんでしょ?行って来なよ」
「う、うん…」


体育館のドアをガチャリと音を立ててドアノブをひねる。
体育館の真ん中あたりに、私の好きな人が居る。
「おう、来たか。」
「あ、う、うん。」
「…話したいことがあるんだ。」
珍しく神妙面持ちで語りかけられる。
「……うん」
「…俺────、」
ごくりと生唾を飲み込む。
夏の蝉たちが元気すぎる鳴く声が、体育館に広がる。
でも今回ばかりは私の鼓動の音も蝉たちに負けて居ないぐらいバクバクと、バクバクと。
「俺、彩音のことが…好きなんだ」
「…ぁ」
刹那、ふわりと何かが心から溢れ出て来た。
あんなにバクバクと音をならせて居た心臓も少し落ち着いていて。
ふと、ほろりと涙が零れ落ちる。
「俺と付き合ってくれませんか、ってえ?な、泣い…そ、そんなに嫌だったか、?」
「ちが、違うの、…嬉しくて」
「こんなわたしでよければぜひおねがいします、」
ひっくひっくと、なんとか肯定の意志を伝える。
飽和した感情に流され、どうやっても嗚咽が止まらない。
「….そっか、言うの遅くてごめんな」
そう言って微笑みながら海くんは優しくわたしを抱きしめる。
あぁ、。
────────夢じゃ、ないんだ。



私は体育館の外のドアから体育座りをしてやりとりを聞く。
「…結ばれちゃったかぁ」
結ばれてしまった。
いや、ずっと彩音をサポートしてたのだから結ばれるようにと方向転換していったのは私なんだけど。
でも、でも。
いざ結ばれるときついものがある。
胸がズキズキと痛む。
同時に、目尻から熱い物がぼろぼろと溢れて服にシミをたくさん作っていく。
あぁ、これが失恋なんだ。
暑苦しい外、蝉の鳴く声が聞こえてくる。
なんだかその声が今の私を嘲笑っているようだ。
「…あぁ、、」
────夢で、あってほしかった。

『夢じゃない』

8/9/2025, 2:57:36 PM