紗夢(シャム)

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6/6/2023, 2:37:03 PM

【モンシロチョウ】【子供のままで】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

4/22 PM 2:00

「わ、すご~い、咲き乱れてるって
 感じだね!」

 河川敷を埋め尽くす勢いで咲いている
 シロツメクサやハルジオンを見て、
 暁が感嘆の声を上げる。

「あ、見て、ちょうちょも
 飛んでるよ。春だねぇ」

 ハルジオンの側をひらひら舞う
 モンシロチョウを指差している、
 暁の白いワンピースも
 優しく風に揺られていて。
 暁自身がまるで蝶々のようだった。

「もうこれはアレだね。
 花冠を作るしかないね!」
「作るしかないね、って、
 作り方知ってるの?」
「宵ちゃん。ここにスマホっていう
 文明の利器があります」
「つまりこれから調べるのね。
 いいけど、ここで作るの?
 座ったりしたら服が汚れるわよ」
「それなら大丈夫」

 暁の服を心配して言うと、
 アタシの懸念を払拭するように
 真夜(よる)がリュックから
 レジャーシートを取り出した。

「なんでそれがこんなこともあろうかと
 みたいなノリで出てくるのよ……」
「河川敷は公園と違って、休憩する為の
 ベンチとかないだろうと思ったから」
「さすが真夜くん、抜かりない。
 よーし、じゃあ早速お花摘もう~!」

 言うやいなや、暁はワンピースの裾を
 膝上までたくし上げて結びだす。

「……暁、その格好はどうかと」
「アンタは少し恥じらいってものを
 持ちなさいよ……」
「えっ、なんか急にダメ出しされた!?」

 花を摘むのに裾が邪魔だから
 結んじゃおう、という単純な
 思考だったんだろうけれど――行動が
 子供じみているというか、高校生に
 なっても感覚が子供のままというか。

「そんな風にしたら、せっかくの
 ガーリー系ファッションが
 台無しでしょ。全くもう……」
「花はオレが摘んでくるよ。
 宵と暁は、レジャーシートに座って
 花冠の作り方調べながら待ってて」
「ええ~?」
「いいからほら」

 何がダメなのか分からなそうな顔を
 している暁のワンピースの裾を元に
 戻して、座るように促す。

 (無邪気過ぎるのも考えものね……)

====================

 世間は早6月で、数日前に【梅雨】って
 お題があった気がしますが、
 宵たちはまだ4月を生きてます。
 ……どうしよう。

5/28/2023, 8:30:28 AM

【優しくしないで】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

4/12 PM 5:15

「千颯(ちはや)、覚悟はいいか?」
「……分かってるよ、先生。
 優しくしないで、一思いにやってくれ」

 俺の目を真剣に見つめて言う先生に、
 俺も見つめ返してそう答えた。

「すぐ終わる。少しだけ我慢な」
「――ッ! ……っ、いっ、……てぇ……!」

 先生の手が俺の手に触れた途端、
 激痛が襲ってきて、声を漏らさずには
 いられなかった。

「うっ……、っく……!」
「――――良し、整復完了。お疲れ。
 後は固定するからな」
「……アー……超痛かった……」
「大の大人でも、痛すぎて
 もっと叫ぶことがあるからなぁ。
 良く辛抱した方だよ、千颯。偉い偉い」

 強烈な痛みが引いて、一気に脱力する。
 脱臼でずれた俺の関節の骨を
 元の位置に戻した先生は、
 固定材料を指が動かないようにあてて、
 手際良く包帯を巻いていく。

「日向(ひなた)せんせー、
 千颯の手、治った?」

 付き添いで来て、後ろで治療の様子を
 見ていた翼(つばさ)が声をかけてくる。

「今は骨を正常な位置に戻しただけ。
 痛みが完全になくなって、
 普通に動かせるようになるまでには、
 数週間はかかるだろうな」
「そっかー」
「千颯、大丈夫か?」

 能天気にそっかー、と答えただけの
 翼とは対照的に、天明(てんめい)は
 本気で心配してるのが明らかな
 トーンで聞いてくる。
 相変わらず、イケメンな上にイイ奴だ。

「まぁ、利き手じゃねーし、
 骨折よりはマシ。さっきの骨の位置
 戻すのは、超絶痛かったけどな」
「でも、千颯的に、痛いのは
 ご褒美みたいなものじゃないの?」
「待て。人のことドM扱いすんなよ、
 淳(じゅん)」
「優しくしないでとか言ってたくせに」
「そうそう。痛いって言いながら
 なんか嬉しそうなんだよなー」
「痛すぎてちょっとゾクゾクしただけで
 嬉しかねーよ」
「それもう喜んでるだろー?」

 失礼な。どんな痛みにでも快感を
 覚えるワケじゃない。

「千颯の癖(へき)のことはひとまず
 置いといて。一週間後にまた状態
 確認するから、診せに来いよ?」

 俺の手の固定処置を済ませた
 先生が苦笑しながら言う。

「来週、了解。あざっした、先生」
「固定した方は、出来るだけ
 動かさないうにな。天明たちも
 千颯をフォローしてやってくれ」
「はい」
「……。」
「……。」
「おい、天明しか返事してねーぞ」
「いや千颯相手だし」
「いい放置プレイだったろー?」
「まーな」
「良かったのか……?」

 困惑しながらも、天明は当然のように
 俺のスクバを手に持つ。
 こういう奴だから、あの警戒心の強い
 星河(ほしかわ)兄も、宵様の側に天明が
 いることを許しているのかもしれない。

「やっぱうらやましいんだよなぁ」
「えっ、どうした? 急に」
「天明、気にしないでいいよ」
「それな。さ、帰ろーぜー」

===================

 日向 紫郎(ひなた しろう)
 学校近くの整形外科医院の若先生。
 サッカー部OB。

5/21/2023, 3:54:24 PM

【君と出逢ってから、私は…】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

4/8 PM 5:25

「じゃあ、俺はここで」
「うん。天明(てんめい)くん、
 今日は急なお誘いだったのに、
 一緒に遊んでくれてありがとう。
 楽しかったよ~!」

 この先、帰る方向の違う
 槇(まき)くんに、暁がにこやかに
 別れの挨拶をする。

「俺も楽しかったよ。
 誘ってくれてありがとな」

 そう答える槇くんも笑顔だった。
 暁の誘いは大抵急なのに、
 気にせず受け入れてくれる辺り、
 本当におおらかな人だと思う。

「お疲れ、天明。また休み明けに学校で」
「……気をつけて」
「宵たちも、気をつけて帰れよ」
「りょーかーい。またね、天明くん」

 バイバイ、と手を振る暁に、
 槇くんも軽やかに片手を振ってから、
 アタシたちとは反対の道へ歩いて行く。
 その背を見送って、アタシたちも
 歩き出した。

「いやー、まさか天明くんから
 《可愛さ無敵》の称号を
 頂いちゃうとは思わなかったねぇ」

 ガーベラを顔の近くに掲げて、
 暁が機嫌良さそうに言う。

「やっぱり、帰国子女だからなのかな?
 照れもためらいもなく女の子を
 褒められるのは。イケメンであれが
 さらっと出来るなんて、反則だよね~」
「……まぁ、実際アンタは可愛いから」
「もー、宵ちゃん。ちゃんと聞いてた?
 天明くんは《2人の可愛さ無敵》って
 言ってくれたんだよ!」
「そうだよ、宵。天明は暁だけじゃなく、
 宵のことも可愛いって思ってるんだよ」
「……っ、何でアタシにこだわるのよ……」
「だって、わたしと真夜(よる)くん以外に
 宵ちゃんの可愛さを分かってくれる人が
 いるの、嬉しいもん。ねー、真夜くん」

 暁が同意を求めると、
 真夜はさも当然のように頷いた。

「何なのよ……もう……」
「ふふふ。天明くんと出逢えて
 良かったよね、って話」

 良かった?
 ……暁と真夜は、良かったと思っている
 ということなのだろうけれど。

 (アタシは……)

 去って行った槇くんの後ろ姿を思い出す。
 キミと出逢ってから、アタシは、
 やけに戸惑うことが多くなってしまった。
 どうしてか、槇くんの視線や言葉は、
 上手く受け流すことが出来なくて。
 脈拍がいつも変に乱れている気がする。
 
 (慣れの問題なのかしらね……)

 暁はすっかり槇くんと仲良くなって
 いるし、真夜も……槇くんと話している
 時は、なんとなく楽しそうに見える。
 考えてみたら、槇くんは真夜にとって
 初めての男友達で――。

 (アタシにとっても、そう)
 
 だから、アタシはまだ順応出来て
 いないだけなのかもしれない。
 男友達という、人生で初の存在に。

 ――そのうち、アタシも槇くんがいても
 自然体でいられるようになって。
 出逢えて良かったと言えるように
 なれればいい、と思った。

====================

 もうお題消化して追い付くの無理!
 って気がしています。

5/12/2023, 3:22:35 PM

【風に乗って】【カラフル】【楽園】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

4/8 PM 5:15

「あ、宵ちゃん、見て。
 アネモネがあるよ。ガーベラも」

 屋内アミューズメント施設で
 遊んだ後の帰り道。 
 フラワーショップの前で足を止めて、
 古結(こゆい)が宵を手招きする。
 赤・ピンク・白・黄色・オレンジ・紫――
 カラフルな花々が目に鮮やかだ。

「2人は花が好きなのか?」

 店員と話しながら花を選ぶ古結と宵を
 見守っている真夜(よる)に訊ねてみる。

「花が好きなのもあるし、少し前に
 アネモネとかガーベラとか、春の花が
 空から降り注いできたら、なんて会話を
 してたから、気になったんじゃないかな」
「花が空から降ってきたら、か。
 女の子らしい発想だな」
「アニメの受け売りだけど」
「そうなのか」

 聞いた光景を思い浮かべてみる。
 明るい空から降り注ぐ、色彩豊かな花々が
 風に乗って舞っている――それはきっと
 楽園のように美しい景観で――。

「春の花が降りしきる中に2人がいるのは、
 すごく似合いそうだし、綺麗だろうな」
「オレもそう思ったよ」

 真夜らしい、迷いのない即答だった。

「天明(てんめい)くん、真夜くん、
 急にお花屋さんに寄って、ごめんね~」
「……お待たせ」
「いや、全然。古結も宵も、
 気に入った花、あったのか?」
「うん! 買ってきたよ」
「ああ、ガーベラにしたんだな」

 真夜が2人が手にしている花を見て言う。
 古結は濃さの違うピンク色で2本。
 宵はほんのり緑がかった淡い黄色で
 色を揃えて2本持っていた。

「宵のガーベラ、珍しい色してるな」
「そうだよね! ガーベラってはっきり
 した色が多いイメージだし」
「《グリーンティ》っていう品種らしいわ」
「グリーンティ。……なるほど。
 色のニュアンスは確かにそういう
 感じがする」

 宵の持つガーベラを興味深そうに眺めて
 問いかけた真夜が、宵の答えに納得した
 ように頷いている。
 そして、宵の隣で、古結も一緒に
 うんうん、と首を縦に振っている。
 彩度の高いビビットカラーのガーベラも
 きっと似合うだろうけれど、落ち着いた
 色も宵に良く似合っているな、と思う。

「それで、暁の品種は?」
「えーとね、こっちが《カップケーキ》で、
 薄いピンクの方が《いちごみるく》」
「やたら旨そうな名前だな」
「ツッコミありがとう、天明くん」

 待ってました、とばかりに楽しそうに笑う
 古結につられて、俺も笑ってしまった。

「可愛いガーベラが買えて、
 わたしも宵ちゃんもご満悦です」
「可愛い花を持っている宵と暁は、
 花以上に可愛いよ」
「そうだな。真夜の言う通り、
 2人の可愛さは、なんかもう
 無敵な気がするよ」
「わぁ。……天明くん、真夜くんに
 感化されてきてない……?」

5/7/2023, 8:39:02 AM

【流れ星に願いを】【刹那】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

4/7 PM 11:15

「何がいい?」

 泊まっていくことになった暁に、
 真夜(よる)が寝る前に弾くピアノの曲の
 リクエストを聞いている。

「えーとね……今夜は『星に願いを』の
 気分かな」

 暁が答えると、真夜は直ぐに
 『ピノキオ』の主題歌を弾き始める。
 ゆったりしたテンポと美しいメロディー、
 真夜の指が奏でる柔らかな音色。
 眠りに就くには、良い選曲に思えた。

「ありがとう~、真夜くん。
 何度聴いても綺麗な曲だねぇ」
「そうだな。オレも好きな曲だよ」
「もうね、すごく良く眠れそう」

 弾き終わった真夜に、
 暁が囁くような声で言う。
 それは何より、と微かに笑いながら
 真夜も静かな声で答えた。

「お星様に願い事っていえば、
 流れ星が流れきるまでに3回願いを
 唱えられたら叶うっていうのは、
 やっぱり迷信なのかな?」
「また唐突な……」
「だってぇ、宵ちゃん。3回だよ?
 流れ星が流れるのなんて、シュンッ!
 ――って感じで一瞬でしょ?
 そんな刹那の間に3回もお願いするなんて
 無理ゲーじゃない?」
「……まぁ、ほぼ不可能かもね」
「難易度ベリーハードどころじゃないよね。
 カオスとかルナティックの域だよ」
「――何か叶えて欲しい願いがあるのか?」

 愚痴をこぼす暁に、真夜は穏やかに
 問いかける。

「うん。宵ちゃんと真夜くんが
 いつでも幸せでありますように」

 暁は間髪いれず、そう返答した。

「……なるほど。それは3回唱えるには
 文字数が多過ぎるな」
「その前に、するなら自分のための
 願い事にしなさいよね」

 アタシたちのために、難易度MAXな
 流れ星への願い事をする必要はない。

「宵の言う通りだよ。オレも宵も、
 暁がそうやってオレたちのことを
 思ってくれてるだけで幸せだから」
「えー……? ……じゃあ、春休みが
 終わる前に、天明(てんめい)くんも
 誘って4人で遊びたい、とか」
「更に文字数増えてるじゃない」
「それは星に願うまでもなく、天明次第で
 叶うだろうから、明日聞いてみよう」
「そうする~」

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