紗夢(シャム)

Open App
2/8/2023, 5:19:34 PM

【スマイル】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

2/11 AM 11:10
「ん~、やっぱりバレンタインの
 特設会場っていいよね!
 チョコもキラキラしてるし、
 買いに来た人の笑顔もキラキラしてるし。
 ほらほら~、宵ちゃんも笑って!
 スマイルスマイル」
「はしゃぎ過ぎよ」
「宵ちゃんがクール過ぎなの!
 こんなに素敵なチョコがいっぱいあるのに
 どうしてテンションが上がらないかな。
 ――ねぇ、見て見て!
 このチョコ、猫の形してる。
 缶の猫のイラストもすごく可愛い」
「……確かに、可愛いわね」
「すみませーん、これください」
「え、買うの?」
「うん。これはわたしから宵ちゃんへ」
「っ…、アタシのを買ってどうするのよ。
 目的がズレてるじゃない」
「宵ちゃんもわたしにとっては好きって
 気持ちを伝えたい大切な人だからいいの!
 ……真夜(よる)くんは、
 見た目はシンプルだけど、味や食感を
 とことん追求してるような……、
 ビターテイストで、ふわとろな口どけ……
 あ、このチョコいいかも」
「……そうね、良さそう」
「宵ちゃんのお墨付きがあれば安心だね~。
 ……真夜くんも普段はあまり
 笑わないから、贈り物した時に見られる
 笑顔の威力がもうとんでもないよね。
 毎年バレンタインとか誕生日とか、
 見るたびキュン死しそうになるよ。
 ――あとは天明(てんめい)くんのだね。
 頑張って選ぼ、宵ちゃん」

2/7/2023, 3:37:57 PM

【どこにも書けないこと】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
【番外編】

2月某日

 吾輩は猫である。
 吾輩などと格好つけて言ってみたが、
 メスである。
 では何故吾輩と名乗っているかというと。

「あ、ワガハイだ~。おはよー」
「ニャー」

 やぁやぁ、あかとき嬢。
 本日も元気そうで何より。
 いつも一緒にいる双子殿も、
 相変わらず見目麗しい。

 吾輩は彼女等の通う学校の
 近所の家で飼われている。
 本来の名前は違うのだが、
 彼女等が『ワガハイ』と呼ぶので、
 学校を散歩している時は
 吾輩で良いのでは、と思っている。

「おはよう」
「おはよう、ワガハイ」
「ワガハイは今日も可愛いねぇ」
「ニャー」

 代わる代わる撫でてくる手が優しい。
 彼女等に出会ってから、
 吾輩は学校へ来るのが日課になった。
 理由はズバリ、妄想が捗るから。

 ん? と思われただろうか。
 説明しよう。
 吾輩、前世は人間だった。
 中でも、所謂ヲタクと呼ばれる
 人種であったのだ。
 そんな吾輩からすると、
 彼女等でのありとあらゆる妄想は
 大変楽しくて仕方がない。
 最近は、蹴球の得意な美男子との
 縁も出来たようだし、
 更に色々妄想の幅が広がるというものだ。
 なんと素晴らしい。
 今世は猫なので、日がな一日妄想に
 耽っていても、何も問題がない。
 ただ、猫であるがゆえに、
 この妄想をどこにも書けないこと、
 形にして残すことが出来ないのは、
 非常に残念には思うのだが。

2/6/2023, 4:06:14 PM

【時計の針】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

2/10 PM 11:00

「――あ、『メモリー』だ。
 もう23時なんだね~」

 リビングの壁かけ時計から流れた
 ミュージカルCATSのメモリー。
 宵がスマホをスピーカーモードに
 していたので、暁にも聞こえたらしい。

「明日に備えて、そろそろ寝なくちゃ」
「……本当に出かけるの? 明日」
「もちろんだよ、宵ちゃん!
 バレンタインコーナー巡りしないと!」

 楽しそうに元気良く暁が答えると、
 宵は諦めたように
 「分かったわよ、行けばいいんでしょ」
 と呟いた。
 視線が時計の針に向けられているのは、
 暁が天明(てんめい)にバレンタインの話を
 してしまう前まで、時間が戻ればいいのに
 と思っているからかもしれない。

「じゃあ宵ちゃん、また明日ね。
 真夜(よる)くんもそこにいるかな?
 2人とも、おやすみ~」
「おやすみ」

 通話が切れる。
 『メモリー』も流れ終わっていた。

「……宵、ホットミルクでも淹れようか」
「……ありがとう。お願い」

2/5/2023, 5:44:17 PM

【溢れる気持ち】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

2/8 PM 4:20

「星河(ほしかわ)くん、ちょっといい?」

 部活の休憩時間。
 ピアノ伴奏をしてもらっている
 星河くんに話しかけた。

「休憩が終わったら、こっちの曲を
 練習しようと思ってるの。
 お願い出来る?」
「……了解」

 渡した譜面に軽く目を通して、直ぐに頷く。
 ……まさか、今のでもう初見で伴奏を弾く
 つもりなんじゃ。
 あたしがお願いしたいのは、現段階では
 各パートの旋律の音を弾いてあげて欲しい
 というだけの事なんだけれど。

「♪キスする少し手前の
  苦しさが好きなの♪」
「――それ、誰の歌なんだ?」

 説明しようとしたら、暁の歌声と
 問いかける十詩希(としき)の声が
 聞こえてきて、星河くんの意識が
 そちらに持っていかれた。

 (……やっぱり、暁が十詩希と2人きりで
  話してるのは心配なのかしら。
  気持ちがダダ漏れだものね、十詩希)

 幼なじみ心(?)と恋心。
 星河くんは常に気持ちを抑える気がない。
 十詩希は抑えてるつもりでバレバレ。
 はっきりしているのは、どちらも
 拗らせっぷりがどうしようもないと
 いう事かもしれない。

 ===================
 合唱部員
 椎葉 寳(しいば たから) → しぃちゃん
 鹿野 十詩希(かの としき) → とっしー

2/5/2023, 6:39:34 AM

【Kiss】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

2/8 PM 4:20

「♪キスする少し手前の
  苦しさが好きなの♪」
「――それ、誰の歌なんだ?」
「あ、とっしー。
 今歌ってたのは、ジュディマリの
 『KISSの温度』だよ~」

 部活の休憩時間にも、
 暁はよくこうして口遊んでいる。
 だいたい、暁の高くて甘い声に合う
 かわいい路線の歌が多い。

 おれが暁に惹かれた最初の理由も、
 この声だった。
 どこまでも甘やかで柔らかな声に
 一瞬で耳を奪われて、その後はもう。
 声だけじゃなく、笑顔もとことん
 甘くて目が離せなくなるわ、
 天真爛漫な言動にいちいち心を鷲掴まれるわ、
 ただただ沼にハマっていくだけだった。

「♪楽しくなるほど切ない
  うたかたに眉をひそめ
  わたしを大人にした
  あなたの罪は重い♪」
「(ヤバい、暁の声でこの歌詞、
  破壊力半端ねーわ)」

 背が小さくて華奢な身体を
 抱き締めたくなる。
 実際に出来はしねーけど。

「♪キスする少し手前の
  裏切りが好きなの
  恋におちたら終わりなんて
  悲しいことを言わないで♪」

 落ちたら終わり。
 そう、恋に落ちなければ良かった。

「暁。そろそろ練習再開するって
 椎葉(しいば)が言ってる」
「はーい」

 呼ばれて振り返る暁の笑顔が輝く。
 ――どうやったら星河(ほしかわ)兄妹より
 暁の心を占める存在になれるのか。
 そんな方法、おれには分からない。
 だからずっと、好きになってしまった
 ことを、後悔し続けている。

Next