【1000年先も】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/7 PM 4:45
「ツンデレって、ふへんてきだよねぇ」
「……?」
放課後の教室。
明日の古典の授業の予習をしながら、
宵の部活が終わるのを待っていると、
暁が不意にそんな風に切り出した。
「普遍的? それとも不変的?」
「ん~、どっちも、かな」
ノートに漢字を書いて聞いてみると、
暁は楽しそうにそう答える。
「和歌とか、源氏物語とか。
1000年以上も前のものなのに、
こんなに昔の人たちにも
ツンデレの概念があるんだ!
って思うの」
確かに、本当に表したい事とは
反対の事を述べるような修辞技法は
大昔からあるとは思う。
素直に出せない気持ちを敢えて
皮肉で表現したり――恐らく、暁は
そういう遠回しな感情の書かれ方を
ツンデレと言っているんだろう。
「葵の上ちゃんは正妻なのに
ずっとツンツンしてるよね。
やきもち妬いてても、プライド高くて
それを伝えれなかったりするのが
可愛いんだけどね~」
「可愛い? ……車争いのシーンとかも?」
「あれは悪役令嬢みたいだよね!
まぁ、やらかしてるのは彼女の
部下たちだと思うけど」
オレは『源氏物語』の登場人物を
《可愛い》という視点で見たことがない。
とはいえ、最古の恋愛小説と称されている
ぐらいだから、暁の少女漫画を読むような
感覚の方が、正しいのかもしれない。
「結局日本人って、ずーっと昔から
ツンデレが大好きなんだね~。
きっと1000年先でも流行ってると思う」
多くの人に受け入れられていて、
時代が変わっても変化しない。
普遍的で不変的。
なるほど、どっちもだ。
「ちなみに真夜(よる)くんは
ヒロインの中で誰推し?」
「ごめん、考えたことない」
「そっか~、それは残念」
【勿忘草(わすれなぐさ)】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/6 PM 0:50
「そういえば、古結(こゆい)たちは
その青色が好きなのか?」
学食で昼飯を食べ終わって、
教室へ戻る道すがら、ふと聞いてみた。
古結の着ているスクールカーディガンの色。
柔らかで明るい青ではあるけれど、
冬に身に纏うには寒そうにも見える。
思い出してみると、宵の着けていた
スヌードと、真夜(よる)のマフラーも
こんな青色だった気がする。
「あ、この色? これはねぇ、勿忘草色に
近いのを選んだんだ~」
「勿忘草?」
「うん」
確か、英語では『forget-me-not』。
『私を忘れないで』という意味を持つ花。
「勿忘草の花言葉は、『私を忘れないで』
だけじゃなく、『真実の友情』って
いうのもあるんだよ」
すかさず真夜が解説する。
それを聞いて、花言葉の意味も含めて、
この色でお揃いなことが、3人にとって
重要なのだと分かった。
【ブランコ】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/4 AM 11:00
「お母さーん。ピザが食べたいです!」
「あるわよね。
ピザって、無性に食べたくなる時」
「お昼、ピザ注文してもいい?
それで、宵ちゃんと真夜(よる)くんも
呼んでピザパしていい?」
「好きにしなさい」
「やったぁ。……天明(てんめい)くんは
今日部活かなぁ。聞いてみよっと」
「……知らない子が出てきたわね」
2/4 PM 0:00
「こんにちは」
「お邪魔します」
「いらっしゃい、真夜くん、宵ちゃん。
いつもうちの暁の面倒をみてもらって
申し訳ないわね」
「面倒と思ったことはないです」
「……ありがとう。本当に2人には
感謝してるわ」
「宵ちゃーん、真夜くーん、おはよー。
ピザもついさっき届いた所なの。
熱い内に食べよ~」
「はいはい、今行くわ」
「……旭(あさひ)さん。
これ、うちの母から渡してって
頼まれたものです」
「『ブランコ』ね。
さすが夕月(ゆづき)、いいセンス」
「何もらったの? お母さん」
「ピザに合うスパークリングワインよ」
「へぇ~。じゃあ、お母さんも一緒に
乾杯しよ? わたしたちはコーラで!」
「(確かに親子でしゅわっとした飲み物が
好きだけど……。なんていうか
真夜くんたちの面倒見の良さは、
やっぱり夕月からの遺伝なのかしら)」
【旅路の果てに】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/31 PM 7:30
「ただいまー、暁」
「あれ? お帰りなさい、お母さん。
お仕事、一段落ついたの?」
「まぁなんとか目処は立ったわ」
「お疲れ様~。ご飯食べる?
それとも先にお風呂入る?」
「とりあえずビール」
「はーい、持ってくるね。
……お母さんの会社は、
いつ働き方改革実施されるの?」
「そんなものは、政治家の描く絵空事よ」
「わぁ、世知辛い」
「……あんたは相変わらずクイックセーブ&
ロードを駆使して進めるようなキャラ攻略
ゲームばかりやってるのねぇ。
たまにはRPGとかやりなさいよ。
世界中を巡る旅路の果てに辿り着く
感動ってものもあるのよ?」
「え~? でも、そういうゲームは
もう少しで終わっちゃいそう! って
思うと、最後の町で止まっちゃって、
そのままクリアしないで放置になりがち
なんだもん」
「そんな半端なとこで放置するなんて、
ゲームプログラマーの母に
ケンカ売ってるのかしら、この娘は……」
「売ってないよ~。尊敬してます。
……それで、ご飯どうするの?
何かリクエストある?」
「……オムライス」
「オムライスでいいの?」
「私の思い出のゲームの中では、
疲れて家に帰ると、パワフルで優しい
ママが、ゲーム開始前に自分が設定した
好きな食べ物を作ってくれたの」
「それがオムライス?」
「そう。いつだって私を勇気づけて、
元気をくれるママだった」
「へぇ~。ちなみにパパは?」
「パパは遠くにいて、
電話で話すしか出来なかったわね。
ぶっちゃけ、セーブポイントなんだけど。
冒険に必要なお金を振り込んでくれたり、
たまにおせっかいを焼いてきたり」
「……お父さんとほぼ一緒だね」
「……私も言っててちょっとそんな気がしたわ」
「ふふふ。じゃあ今夜は思い出のママの
代わりにわたしがオムライスを作るね!
真夜(よる)くんが作ってくれた
ハッシュドビーフもあるから、
ハッシュドビーフオムライスにしちゃおう」
【あなたに届けたい】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/31 AM 8:05
「ついこないだ新年になったと思ったら、
もう1月が終わっちゃうんだねぇ」
「そうね」
「来月はバレンタインがあるね!
真夜(よる)くんにあげるのは当然として、
今年は天明(てんめい)くんにも
チョコ渡すでしょ。どんなのがいいかな~」
「なんで決定事項になってるのよ……」
「えっ、まさかあげないつもりなの?」
「別にアタシたちがあげなくても、
槇(まき)くんは大量に貰いそうじゃない」
「あ~、確かに。机の上に大量に積まれてる
チョコの山、実際にちょっと見てみたい。
天明くんならあり得るかも」
「だから、いらなそうでしょ」
「宵ちゃん、それはそれ、これはこれって
やつだよ。せっかくのイベントなんだから
楽しまないと」
「――天明」
「ん? ――あぁ、真夜か。
宵と古結(こゆい)も。おはよう」
「おはよう」
「おはよー、天明くん」
「……おはよう」
「? なんか、宵、複雑な表情してないか?」
「あ、大丈夫。今ね、宵ちゃんと、天明くんに
どんなバレンタインお届けしようか? って
話をしてたの」
「ぶはっ。……ヤバ、ツボった……。
それ、本人に言うのか」
「あれ? ダメだった?」
「いや……、そういうことなら、
楽しみにしてる。よろしくな、2人とも」
「うん! 真夜くんも楽しみにしててね」
「わかった」
「(……ああもう……)」