【I LOVE...】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/29 PM 3:30
宵ちゃんとわたしのお気に入りの、
ケーキの美味しいカフェ。
祝勝会といえばここが定番で。
宵ちゃんと真夜(よる)くんはオペラ、
わたしはショートケーキ、
天明(てんめい)くんはチーズケーキを
注文した。
「残り時間2分切った所での逆転劇、
すごかったね~。惚れ直しちゃう」
「……逆転のシュートを決めたのは
アタシじゃなくてSGの
美羽(みわ)なんだけど」
「もー、謙遜しなくてもいいのに。
その直後の宵ちゃんの3Pシュートが
止め刺したようなものでしょ?」
「言い方……」
「いや、でも実際あれが決定打だったと
俺も思う。いいシュートだったし、
いい試合だったよ。勝てて良かったな、宵」
「…っ…」
天明くんに言われて、宵ちゃんが一瞬
言葉に詰まる。
思わず視線を逸らして「ありがとう」と
呟く頬がほんの少し紅い。
(照れてる照れてる。かわいいなぁ)
宵ちゃんの可愛さが、天明くんにもっと
伝わればいいなと思いながら眺めていると、
お店のBGM代わりの有線放送から
知っている歌が聴こえてきた。
「あ、この歌好き。
特に、イレ~ギュラ~♪ の部分が
気持ち良くて」
甘いケーキと甘いラヴソング。
なんだかとても贅沢で幸せな気分になる。
「タイトルが『I LOVE...』で
寸止め感あるからかなぁ。
だから余計に《イレギュラー》の
解放感がとんでもないっていうか。
そこだけ何回もリピートしたく
なっちゃうんだよね」
「変な聞き方」
「え~、そう? だって、それまでの
自分の世界が変わっちゃうほど、
特別で大切な人が現れたことを
《イレギュラー》って言葉で表現するの
ステキって思うけど」
「ロマンチストね」
「そこは女子力って言ってよ、宵ちゃん」
わたしにツッコミを入れている内に
宵ちゃんが平静さを取り戻す。
チョコレートにコーヒー風味の
ほろ苦い大人びたケーキが好きな
宵ちゃんだけど、最近はわたしより
よっぽど宵ちゃんの方が乙女だと思う。
それはきっと、天明くんが宵ちゃんに
とっての《イレギュラー》な人だから。
今はまだ、戸惑っているだけ。でも。
その内、恋やLOVEになるかもしれない。
【街へ】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/29 PM 1:35
ハーフタイムになり、ベンチに戻った
選手たちが、休憩を取りながら
顧問の話を聞いている。
後半戦へ向けての作戦会議だろう。
「12点差か。追い付くのがどの位
大変な差なのかピンと来ないな」
バスケは体育の授業でやったことが
あるだけで、ほとんど知識がない。
観戦していて感じたのは、授業レベルとは
選手のスピードがまるで違うということ。
「あと2Qあるから、逆転出来なくはないよ。
宵の強みは、バテてくる後半になっても
シュートの精度が落ちないことだから」
宵のポジションはスモールフォワードと
いうらしい。
古結(こゆい)が《流川くんのポジション》と
分かりやすそうな漫画で例えてくれた
ようだが、残念ながら俺が知っているのは
『あきらめたらそこで試合終了』という
名言だけだった。
あの名言に関しては、全てのスポーツに
通ずると思っている。
真夜(よる)の説明はもう少し具体的で、
3Pシュートで得点を稼ぐことが多いけど、
リバウンドやスティールで守備もこなすし、
サッカーならミッドフィールダーに
近いんじゃない、と言われて合点がいった。
「でも、これ二試合目なんだよな?
こまめに選手交代してるとはいえ、
スタミナかなりキツそうだな」
「そうだね~。それでも、負けないと思うな。
だからね、天明(てんめい)くん。
勝ったらわたしたちと一緒に
街へ繰り出して、宵ちゃんの勝利を
お祝いしてくれる?」
「勿論」
真夜も古結も、宵のいるチームが
勝つことを疑っていない。
だから、俺もただ信じることにした。
【優しさ】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/29 PM 0:00
昼休憩の時間になり、他校の生徒も
合わせて、たくさんのバスケ部員が
学食にやって来た。
日曜日で学食自体は稼働していないので、
それぞれ自分で持って来たお弁当などを
テーブルに出している。
……ピクニックのように、重箱が何段も
テーブル上に並べられているのは、
当然アタシたちの前だけ。
「あらあら。相変わらず宵ちゃんは
愛されてるわねぇ」
「あ、暦(こよみ)さん。こんにちは~」
「……お疲れ様です」
「こんにちは、暁ちゃん、真夜(よる)くん。
宵ちゃんの応援に来てくれたのね」
他校のバスケ部員からは奇異の視線を
感じたものの、うちのマネージャーの
暦先輩はもう慣れたものだった。
どれだけ不可思議に見える行動も、
真夜と暁がやっていれば、
それはアタシのためだという方程式が
出来あがっている。
「これ、良かったらバスケ部の皆さんで」
お重の内の1段を真夜が先輩に差し出す。
仕切った片方に唐揚げ、もう片方に
いなり寿司を詰め込んである。
「あら、いいの?」
「真夜くんのチューリップ唐揚げと
おいなりさんは絶品なので! ぜひぜひ」
「ふふふ、ありがとう。
かわいい形の唐揚げも、おいなりさんも、
本当にとても美味しそう」
真夜はアタシと暁のことしか考慮しない
から、1段は差し入れ用にしよう、と
提案したのは暁に決まっている。
それが優しさなのか、真夜の料理の
美味しさを広めたいだけなのかは、
かなり微妙なところだと思うけれど。
「じゃあ食べよっか」
先輩が席を離れると、暁がそう言って
3人で『いただきます』と手を合わせる。
「……作り過ぎじゃないの? この量は」
いなり寿司の他にゆかりやおかかの
お握りが入っている段、
玉子やコンビーフのサンドイッチと
サーモンのロールサンドが入っている段、
チューリップ唐揚げをはじめ、
色々なおかずの入ったお重が2段。
3人で食べるにしても、多過ぎる。
「大丈夫だいじょーぶ。
もうすぐ天明(てんめい)くんも
合流してくれるから」
「は?」
「天明くんも今日部活で、
でも午後は他の部が校庭使うから、
午前で終わりなんだって。
という訳で、お昼に誘ってみました」
「噂をすれば、ほら」
真夜が学食の出入口を見て、
合図を送るように手を挙げる。
それに応えるように、槇(まき)くんも
手を挙げるのが見えた。
【ミッドナイト】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/29 AM 10:30
「第一試合始まるっぽいね~」
体育館2Fの細い通路で、暁と一緒に
合同練習の様子を見物していると、
両高のスタメンがベンチでジャージを脱ぎ、
ユニフォームでコートの中へ入っていった。
「宵ちゃんのユニフォーム姿は
いつ見ても凛としててカッコいいねぇ。
真冬にあの格好はすごく寒そうだけど」
自分の二の腕をさすりながら暁が言う。
初めて宵のユニフォーム姿を見た時、
暁は「真夜(よる)くんの色だね」と
表現していた。
濃紺よりももっと暗くて、黒に近い青。
ミッドナイトブルー。
宵にとても良く似合う色だ。
「(……頑張れ、宵)」
主審の手から、ボールが空中へ
トスアップされる。
――試合が始まった。
【安心と不安】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/29 AM 7:00
「あ、おはよー、宵ちゃん」
「おはよう、宵」
「……おはよう。日曜日なのに、こんなに
朝早くからキッチンで何してるのよ」
「見たまんまだよ? 真夜(よる)くんと
一緒に、お弁当作ってるの」
「お弁当」
「うん、お弁当」
「真夜だけで作ってくれるなら安心だけど、
暁も関わってると一気に不安が増すわね」
「え~、ひどいよ~、宵ちゃん。
わたしだって、
はんぺん切って中にチーズ詰めたり、
アスパラをベーコンで巻いたり、
サンドイッチ用にパンに具材乗せたり、
おにぎり握るくらいは出来るんだよ?
……まぁ、おにぎりは型にごはん詰めて
ぽんっと取り出すだけだけど」
「全然握ってないじゃない」
「まぁまぁ。わたしはあくまでも
お手伝い要員ってことで」
「だいたい、なんで作ってるのよ?」
「もちろん、宵ちゃんのためだよ。
今日、他校との練習試合なんでしょ?
応援に行くから、お昼休憩の時に
みんなでお弁当食べよーって話」
「貴重な休みの日に見に来るほど、
練習試合は面白くないと思うけど」
「わたしは宵ちゃんがシュート打つ姿
見てるだけで楽しいよ」
「宵、暁。ひとまず朝ごはんにしよう。
トースト焼けたよ」
「そしてこの短時間にハムエッグまで
作ってくれてるし……さすが真夜くん」