紗夢(シャム)

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【Kiss】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

2/8 PM 4:20

「♪キスする少し手前の
  苦しさが好きなの♪」
「――それ、誰の歌なんだ?」
「あ、とっしー。
 今歌ってたのは、ジュディマリの
 『KISSの温度』だよ~」

 部活の休憩時間にも、
 暁はよくこうして口遊んでいる。
 だいたい、暁の高くて甘い声に合う
 かわいい路線の歌が多い。

 おれが暁に惹かれた最初の理由も、
 この声だった。
 どこまでも甘やかで柔らかな声に
 一瞬で耳を奪われて、その後はもう。
 声だけじゃなく、笑顔もとことん
 甘くて目が離せなくなるわ、
 天真爛漫な言動にいちいち心を鷲掴まれるわ、
 ただただ沼にハマっていくだけだった。

「♪楽しくなるほど切ない
  うたかたに眉をひそめ
  わたしを大人にした
  あなたの罪は重い♪」
「(ヤバい、暁の声でこの歌詞、
  破壊力半端ねーわ)」

 背が小さくて華奢な身体を
 抱き締めたくなる。
 実際に出来はしねーけど。

「♪キスする少し手前の
  裏切りが好きなの
  恋におちたら終わりなんて
  悲しいことを言わないで♪」

 落ちたら終わり。
 そう、恋に落ちなければ良かった。

「暁。そろそろ練習再開するって
 椎葉(しいば)が言ってる」
「はーい」

 呼ばれて振り返る暁の笑顔が輝く。
 ――どうやったら星河(ほしかわ)兄妹より
 暁の心を占める存在になれるのか。
 そんな方法、おれには分からない。
 だからずっと、好きになってしまった
 ことを、後悔し続けている。

2/5/2023, 6:39:34 AM