ドナルド・ドュフ・ウィーズリー

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9/18/2023, 8:42:31 AM

「冒頭とか無しに、質問を君に投げかけようか。


なぜ、カナリアは走ってると思うかい?


では、手始めにカナリアは誰か。僕が先に答えてあげよう。カナリアは酒屋でバイトしている小娘だ。
語り手は誰かって、君は僕のことを聞かなくていい。

カナリアは走っていた。
踏めば歪む黒土。その黒土から、月に向かって真っ直ぐ伸びている謎の植物をかき分けて。
されども前に進んだ気はしなかった。
何度も植物を左右にかき分けたが、目の前は緑一色に染まっている。謎の植物は一向に消える気は無い。
そして足は黒土にどんどん嵌っていく。
進めば進むほど、まるで底なし沼のように足が嵌っていく。
ついには足の感覚は無くなる。

まるで……じゃなくて、本当に底なし沼だったんだ。
ああ、可哀想だね。カナリアは。

虚ろな目で絶望したように泣き叫ぶカナリア。


では、ここでカナリアの第2の情報を与えよう。

カナリアは残虐な大量殺人鬼だった。
何百人もの子供を可愛がっては弄び、殺した。
鉄パイプで気絶をさせてから、爪を一枚一枚剥ぎ、第1関節からハンマーで粉砕し、幼い子供の泣く声を聞きながら絶頂する。


さて、ここまで長話でした。君はカナリアに同情するかい?」

7/13/2023, 11:31:53 AM

教室、窓際の後ろから2番目の特等席。壁の約半分を覆う窓には青が見え、陽の光に透けた白いカーテンがちらつく。

と、ボーッと窓の外を見ている僕に眼鏡を光らせた先生は、教壇近くから席の合間を縫ってつかつかと歩み寄ってくる。

その足音に一瞬にして現実に戻された。


「時に優越感とは劣等感に変わることがあります」

先生の言葉だ。
先生の『なに外見てんじゃボケェ』の鬼婆のような顔が語る。


僕は立たせていた教科書を握りしめた。

完全に気づかれている。
この裏に僕の早弁が隠されていることに。

先生。
早弁して気づかない先生に優越感を感じてて、ごめんなさい。

僕は唇を噛み締めた。

4/29/2023, 1:33:54 AM

ウゥン___ウゥゥゥン___。

一畳にも満たない個室に取り付けられた手水の座椅子が唸る。

私はその座椅子に座り込んでいる。
あまつさえ、今現在、手袋を被せられた両手でスマートフォンを滑らかに扱って、この小説を書いている。

ちなみに手袋をして手水に居る理由は、
鶏皮の唐揚げを作ろうと思った刹那に、自身の下腹部が尋常ではないほどの振動と悲鳴をあげたからであった。


私はゆっくりと右を向いた。トールサイズの煙草箱三つ分の備え付け機器がある。それにはボタンが沢山あり、よく分からないものまであった。


暫し眺めたあと、気になるボタンを一つ見つけた。

『おしり』と記載されたボタンを、目を細くして眺めた。


アルファベットのダブリューの角を削って丸くしたような絵文字に、噴水を象った点々がある。




これは、なんだろう?

おしり……お知り?

もしや、私に問いかけてきているのか?



私は一度トイレを立ってから、そのボタンを恐る恐る押してみた。

すると、ゥゥゥン___ウゥゥゥン。

今度は怒ったような音を鳴らす座椅子。
穴をひょっこりと覗いてみると、何やら細い棒が私に向けて動き出しているではないか。

その細い棒には小さな穴がぽつんとある。

刹那____何が起こったのか。



それは、ここまで読んでいる賢者ならば気づいたのではなかろうか?

4/6/2023, 12:26:20 PM

「君の目を見つめると」
「見つめると?」
「吐き気が」
「吐き気が?」

そこまで言い始めた先輩が急に言葉を止める。
んぐぐ、と喉から言葉をなんとか出そうとしていた。私は先輩の前に向かい合って立っているので、誤飲してしまった子供の背中を叩くように宥めることは出来ない。
それより、そもそも先輩なので出来ない。

先輩は眉間にシワをぐぐっと寄せて、真っ直ぐと私を見て言う。

「来ない。吐き気が来ない」
「なんでですか」

先輩いわく、「俺は人間と話すと吐き気が出る。唾でも吐きかけたくなるほど」とのこと。
何様ですか貴方。
と言ったところ、「神」との返答が帰ってきた。

「先輩。聞いてて頭が痛いですよ、それ……」
「そうか。俺の神力が効いてしまったようで悪かった」
「違います」

痛い。先輩痛い。アイタタタ。両腕をさすって痛いフリをしたら、先輩に額にデコピンを貰った。

「先輩。それ、他の人に言わない方がいいですよ」

私が気の悪い顔をして言うと、先輩はギョッとした顔をした。そして急にそっぽを向いたかと思えば、照れくさそうに頬を掻く姿が見えた。その耳はほんのりと赤い。

「それはつまり……お前以外の女には言うなという嫉妬……じゃないな。おい。無言でアルカイックスマイルになるな」
「なんでそこで神じゃなくて仏の用語出すんですか」
「仏サマは俺たちと共存してるからな。呼んだら来るぞ〜?」
「は……?」

私が嘘だろうという顔をしたら、先輩は優しく微笑んだ。
なぜだか、先輩が今の一瞬だけ。

____人間じゃない気がした。

3/31/2023, 12:18:48 PM

幸せに出来なかったと。

悔やんでる貴方の横顔を見てる俺。

ブラウン管から流れる機械的な音声は「先日山から落ちた子供が発見された」と言い、映像では黄色いテープの向こう側に規則的に動く警官たち。

家の外では、なにも知らない大人たちが「どうして子供をずっと見ていなかったのですか」と、見世物小屋の観客のように騒ぎ立てる。


家の中では、大黒柱だったはずの俺。

だけど今だけは。
山崩しゲームのように、ただただ立っている棒だった。

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