「君の目を見つめると」
「見つめると?」
「吐き気が」
「吐き気が?」
そこまで言い始めた先輩が急に言葉を止める。
んぐぐ、と喉から言葉をなんとか出そうとしていた。私は先輩の前に向かい合って立っているので、誤飲してしまった子供の背中を叩くように宥めることは出来ない。
それより、そもそも先輩なので出来ない。
先輩は眉間にシワをぐぐっと寄せて、真っ直ぐと私を見て言う。
「来ない。吐き気が来ない」
「なんでですか」
先輩いわく、「俺は人間と話すと吐き気が出る。唾でも吐きかけたくなるほど」とのこと。
何様ですか貴方。
と言ったところ、「神」との返答が帰ってきた。
「先輩。聞いてて頭が痛いですよ、それ……」
「そうか。俺の神力が効いてしまったようで悪かった」
「違います」
痛い。先輩痛い。アイタタタ。両腕をさすって痛いフリをしたら、先輩に額にデコピンを貰った。
「先輩。それ、他の人に言わない方がいいですよ」
私が気の悪い顔をして言うと、先輩はギョッとした顔をした。そして急にそっぽを向いたかと思えば、照れくさそうに頬を掻く姿が見えた。その耳はほんのりと赤い。
「それはつまり……お前以外の女には言うなという嫉妬……じゃないな。おい。無言でアルカイックスマイルになるな」
「なんでそこで神じゃなくて仏の用語出すんですか」
「仏サマは俺たちと共存してるからな。呼んだら来るぞ〜?」
「は……?」
私が嘘だろうという顔をしたら、先輩は優しく微笑んだ。
なぜだか、先輩が今の一瞬だけ。
____人間じゃない気がした。
4/6/2023, 12:26:20 PM