一発屋。
それは風のように話題が去っていくお笑い芸人ではなく、大舞台で一時的に活躍を見せた監督でもなく。
我々の業界では、一発で死なせてくれる職人のことを指す。
見た目は「笑うせー○すまん」のように、白い歯をチラつかせる黒スーツに黒帽子らしい。
前置きはさておき、場所は繁華街の路地裏にて、ネオンだけが照らす夜の世界となる。そのネオンの光でぼんやりと顔が見えた一発屋は、後ろずさりする女性に拳銃を向けていた。
「貴方の心臓を頂こうか」
そう唱える一発屋に、女性は悲鳴をあげた。
女性は叫ぶ。「私をどうするつもりよ!」と。
「いやだから心臓を……」
「私の心を奪い去りたいですって!?」
「それは、ちが」
「はあ!? アンタもっと意見ちゃんとしてから告白しなさいよ!?」
悲鳴は悲鳴でも、黄色い悲鳴だった。
一発屋は初めてのことに混乱した。しかし死人に口なし。
ええい。さっさと殺してしまえ。
そう思い、一発屋。自慢の拳銃を一発撃ち放つ。
だがしかし躱された。一発屋は混乱した。こいつ、人間じゃねえ。
「私と付き合いたいの!? どっち!?」
「えっと……そうですね……どちらかといえb」
「そうなのね!?分かった!」
違う違う、そうじゃない。頭の中で流れる鈴木の曲。
一発屋は腕に自信があるあまり、拳銃に銃弾は一つしか装填していなかった。
_____のちに二人が結婚し、一発屋は殺しから足を洗って、殺し偽装屋として夫婦ともに活躍するとは。まだ誰も予想はしていまい。
お題:my heart
駅のコンビニ前で子供が泣いていた。
片腕の取れたぬいぐるみを抱きしめながら泣いていた。
子供の手を引く母親も辛そうに眉を顰め、泣きそうになっている。
「あともう少しだから」
母親が言うが、子供は母親に着いていくのが嫌だと言って近くのコンビニに入りたがる。そんな子供の小さな腕を母親が無理やり引っ張るが、子も同様に、意地でも動かないとばかりに地に足を縫いつけたままだった。
そんな様子を、俺は見ていた。
周囲は母子たちを面倒くさそうに遠目に見るか、母親を憐憫の目で見た。
子供は泣きわめき、ついにはヌイグルミを”落とす。”
そこでやっと俺は動くことが出来た。
「すみません。ちょっとお話いいですか?」
___一体、どれだけの人間が本当の母子だと思ったことだろう。
海外では、物を落とす行為がとある事件を指し示す。
俺は子供に向き直った。
「怖かったね、大丈夫?」
「……お兄さんも、大丈夫?」
え?
刹那、ガツンと後頭部に衝撃が来る。目の前がチカチカと光った。
そこから俺の記憶は無い。
どうして『父親役』は居ないと思ったのか。
田中パラレルワールドシリーズ1
快晴。コバルトブルーの絵の具を空に直接塗りつけたような青空が広がる中。……とは言うものの、これといって突飛なことが起きる前兆ではない。
あるとすれば田中。田中のみ。
地上では、田中は自室に引きこもってメイクに初挑戦していた。
ボロアパート2階の左から数えて2番目の部屋。
部屋の狭さは目に余るが、棚にきっちりと揃えられたペンライトや限定ブロマイドに推しの海口百恵の壁紙ポスターがまだ安心を誘う。
メイクをするのは、初めてオタク友達と出会うからだった。
さて、ここまで来て田中は女だと思ったことだろう。
希望を打ち砕くようで申し訳ないが、田中は男である。
気弱だけどオタ活と仕事だけはシャウトが出来る男である。
ちなみにメイク道具一式は会う予定のオタク友達に教えて貰ったものだ。すべて高かった。財布と田中がワンと泣いた。
話は戻り、メイク初挑戦に至る。
(まずは……眉毛、か?)
眉は四方八方に伸びすぎているところをスクリューブラシで整え、少しずつ切っていく。
「あ」
しかし失敗した模様。
眉尻を切り過ぎた。これではコウメ太夫になってしまう。
改めて、今度は眉頭の方を切る。
「お……おおおおお」
今度はちゃんと切れたようで、ハゲマルドンを観た並みに感動した田中。
その調子で左右どちらも整えたあと、産毛も髭も剃った。若干毛を剃った所に青さが残ったが、そこは後でファンデーションでカバーするとしよう。
膝に手を付き、よっこらせと立ち上がる。
顔についた眉毛を落としに洗面所で洗顔をした。
……が、田中は気づいてしまった。
洗面所の鏡に恐る恐る手を伸ばして、そっと映っている自分に触れた。
「右眉と……左眉の高さが……違う」
空は晴れているが、ところにより雨でしょう。
特に田中の心は。