極解の魔法使い

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11/26/2025, 10:12:53 AM

『落ち葉の道』で思い付かなかった為、11月10日のお題でやります。
※日付的にこっちが先だったと言うのもある。

【お題】心の境界線

つくづく、コイツの踏み込んで良いラインと、ダメなラインの差がわからない。
十数年と付き合いがあれば、大体わかりそうな物だと思うが、目の前のコイツに限ってはその通りとは言わない。
『心を許してる』と思ってたら、実はそうじゃなかったり。
なら『許してないのか』と他人に聞かれてみると、それはそれで違う。
現に・・・・・件のコイツは自分と2人っきりになった途端に自分に寄りかかって寝始めた。
まあ、先程の相手はコイツ的にかなり神経削って気を張りつめてたのはわかっていたが。自分以外の知り合いの前だと、
「大丈夫ですよ」
と、いつもの通りにヘラヘラ笑って受け答える。
明らかに大丈夫じゃないとバレバレでもそう言うのだから、この状態は心を許してると言う事ではあるのだと思う。
しかし肝心な時に頼らないとなると、やはり許してないんじゃないかと不安になる。
「・・・・・お前の、《心の境界線》とやらは何処にあるんだか・・・・・」
と呟きながらコイツの頭を優しく撫でる。
今だけは確かに、コイツの《心の境界線》の内に居るのだと噛み締めながら。

By 疲れきった腐れ縁の相棒を労うある刑事の独白より

11/25/2025, 9:40:05 AM

※『君が隠した鍵』で思いつかなかった為、11月15日のお題で行きます。

お題:ささやかな約束

「んじゃ、事件が終わったら、いつもの場所で飯会しようぜ」
検挙予定のカルト集団が作った、血と轟音で彩られし混沌とした現場の渦中だと言うのに、コイツは何時もの世間話の様にそう言った。
「今この現状で言う事か?それ」
「だってその方が俄然、やる気出るだろ?」
と、相変わらず不敵にそう笑って見せて言う。
「俺はとっとと終わらせたいだけだが」
「そう味気ない事言うなよ」
と1度、間を取って
「下手したら、俺ら揃って【お陀仏】になりかねないんだしよ?」
と言いながら、自分の背後を発砲した。
時差で断末魔の様な物が聞こえて来たが、今は気にしていられない。
「・・・・・それなら、お前が一番危なっかしいんだが」
「・・・・・それはそうかも」
と、珍しく、至極真っ当な返答をしてくる。
全く、もう20年程の付き合いになると言うのに、コイツの考えてる事はあまり分からない。
「だが、お前の言う通り・・・・・理由があった方がお前は帰ってきやすいか」
と、コイツの言う様な・・・・・《ささやかな約束》になる様な物は無いかと少し考える。
「え、俺はいつも、ちゃんと帰るつもりだが?」
「よく瀕死になりかけるバカが言うか」
と、すかさずツッコミを入れた後
「んじゃ、お前が頑張ったら『夕飯奢る』」
と、思いついた約束を言った後、コイツの背後から襲いかかってくる輩を1歩踏み込んだ勢いそのまま、警棒で殴り倒す。
「!イイねぇ・・・・・やる気出てきた。約束破んなよ?」
「ハッ、お前こそ約束破るなよ?」
と言って自分達はそのまま、混沌とした現状を止めるべく、儀式の中心部へ走り出した。

By ある捜査一課長と特別捜査官の、突撃5分前の会話

11/8/2025, 11:12:18 AM

【お題】灯火を囲んで

「いやはや、洞窟があって助かったな。濡れ鼠で一晩過ごすところだったし、そんなことをしたら風邪ひいちまう」
と、出会った男はそう言った。
「・・・・・?神でも、風邪を引くのか?」
と首を傾げつつ問う。『神だ』と言うこの男の話を全て信じた訳では無いし、自分自身、【神】と言う存在を信じた事は無い。
「あー、まあ、俺は特殊でね・・・・・『元は人間だから』って言う意味もあるかな」
と苦笑いしながら言った後
「とりま、最初は飯も食いたいから火を囲うか・・・・・」
と言って、洞窟内にある枯葉やら小枝を囲んだ後、マッチを取り出して火を付けた。
何とも妙に、人間臭い神である。
それから夕飯の間、この世界の事についてや、私自身の事を根掘り葉掘り聞いてきて・・・・・気付けば、寝る前に焚き火からランタンの灯火に変えた後も、そのまま話を続けた。



「・・・・・と言う事もあったな」
と、今やその男の右腕として動く事になっているとは、これもまた奇妙な話である。
「?何の話だ?」
「アンタと出会った頃の事を思い出してな」
「あぁ、随分と前の事を思い出すなぁ・・・・・って、そんな思い出す様な事あったか?」
「私にはあったさ」
と言いつつ、焚き火を作る。
そして今回もまた、《灯火を囲んで》話を始める。
今回は、何の話になるのだろうか?

By 神になったもう一人の青年の回想。焚き火の回

11/3/2025, 11:29:10 AM

【お題】消えた星図
※秘密の標本では思い付かなかった為、10月16日の『消えた星図』でお送り致します。

気付けば。
身体が弱く、権謀術数しか取り柄の無い自分だけが、戦時、戦後、生き残っていた。
《王》と仰いだ親友は酷い目に合いながらも終戦に奔走し、それを恨まれて殺され、
終戦後にようやく結ばれた二人の親友も、子供達を遺して脅威と見なした継続派に殺され、
犬猿の仲だったアレも、戦時中の境遇の所為もあって、歳を重ねるにつれて身体を壊し・・・・・とうとう、この前息を引き取った。
・・・・・一番最初に、直ぐに死にそうな人間だと思っていた僕自身が、まさか、全員を見送る立場になるなんて、誰が予想していただろうか?
僕自身が見たかった景色は、
僕が描いてた未来の星図は、
一つ、一つ・・・・・星が消えていく度に、随分と変わってしまった。
【星が《消えた星図》】を前に、僕は何を思えば良いのでしょう?
何の為に、僕は【星が《消えた星図》】になったとしても、
こうして、現代(いま)を守る為に頭を働かせて居るのでしょうか?
例え子孫が残ったとしても、彼らに会えるわけでは無いと言うのに・・・・・
この【星が《消えた星図》】に何の意味があるのか。
わからなくても、まだ、この《消えた星図》を手放さずに守るのは何故なのか
僕はわからないまま、今日も《消えた星図》を胸に戦い、守っている。

By ある世界線にて、《伏龍》と畏れられた男の独白

11/2/2025, 10:28:22 AM

【お題】凍える朝

気付けば、廃教会の地下に来ていて、座り込んでいた。
何故そんな事をしたのかはわからない。
でも、もう動きたくなかった。
何故こうなったのか、
何故、何故、何故
・・・・・しかし、考えても何もわからなかった。
そして、理解も出来なかった(所詮、人の心を理解も共感も他人並にできない私なのだから当たり前かもしれない)。
と、そこに
「姉上」
と、優しい声が聞こえて、隣にホンノリと温かさを感じた。
「!・・・・・どう」
「多分、此処に居るんじゃないかなって。良かったです、直ぐに見つけられて」
と、頭も勘も良い、一回り以上年の離れた従弟が、私を抱きしめながら言う。
もう、私は随分冷たくなってると言うのに・・・・・
直ぐに、心配かけさせてしまった事を詫びようと口を開く前に、従弟はこんな事を私に囁く様に聞いてきた。
「姉上は、【死にたい】ですか?」
「・・・・・え」
「死にたいなら、俺も一緒に死にます。なんなら、死に方も一緒に考えますよ」
と、酷く優しい声で言う。
普通なら「何故」と言うべきだろう。
本当なら、直ぐに拒否すべき事だ。
・・・・・ましてや、この子が『揶揄う』と言う理由で言う事でもない。
「・・・・・私は・・・・・」
けれども、今の私にとっては酷く魅力的だった。
生き方が分からなくなった私には、とても、良い提案に思ってしまった。
「凍死にしましょうか?それともお互いに贈る毒物を決めて、紅茶に混ぜて飲みます?あ、それか今の時期なら車の中での一酸化炭素中毒とかどうです?遺体が綺麗なままだそうですよ・・・・・あ、それとも、樹海散策でもします?」
と、彼は次々に提案してくれる。
頭のイイ彼の事だ。どれも可能だろうし、私が望めば、やろうと思えばやってくれる。
・・・・・でも、何故か『今決める』と言う選択肢も、私には無かった。
「・・・・・少し、このままで居て・・・・・」
今出せる答えは、これしか無かった。
「!・・・・・わかりました、姉上」
一瞬、驚いた素振りを見せた後、直ぐに優しい声音で言った。




今思えば、彼の【凍える朝】は、あの時既に6年経っていたと言うのに。
【愛していた人を亡くした】者同士として、【生き方が分からなくなった】者同士として、彼はこの《凍える朝》を、私を独りにしないで居てくれた。
・・・・・それが、あの子の一番の優しさだったと気付くのは、様々な事が一段落した後の話。


By 絶望していたある刑事の、冬の朝の回想。

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