【お題】凍える朝
気付けば、廃教会の地下に来ていて、座り込んでいた。
何故そんな事をしたのかはわからない。
でも、もう動きたくなかった。
何故こうなったのか、
何故、何故、何故
・・・・・しかし、考えても何もわからなかった。
そして、理解も出来なかった(所詮、人の心を理解も共感も他人並にできない私なのだから当たり前かもしれない)。
と、そこに
「姉上」
と、優しい声が聞こえて、隣にホンノリと温かさを感じた。
「!・・・・・どう」
「多分、此処に居るんじゃないかなって。良かったです、直ぐに見つけられて」
と、頭も勘も良い、一回り以上年の離れた従弟が、私を抱きしめながら言う。
もう、私は随分冷たくなってると言うのに・・・・・
直ぐに、心配かけさせてしまった事を詫びようと口を開く前に、従弟はこんな事を私に囁く様に聞いてきた。
「姉上は、【死にたい】ですか?」
「・・・・・え」
「死にたいなら、俺も一緒に死にます。なんなら、死に方も一緒に考えますよ」
と、酷く優しい声で言う。
普通なら「何故」と言うべきだろう。
本当なら、直ぐに拒否すべき事だ。
・・・・・ましてや、この子が『揶揄う』と言う理由で言う事でもない。
「・・・・・私は・・・・・」
けれども、今の私にとっては酷く魅力的だった。
生き方が分からなくなった私には、とても、良い提案に思ってしまった。
「凍死にしましょうか?それともお互いに贈る毒物を決めて、紅茶に混ぜて飲みます?あ、それか今の時期なら車の中での一酸化炭素中毒とかどうです?遺体が綺麗なままだそうですよ・・・・・あ、それとも、樹海散策でもします?」
と、彼は次々に提案してくれる。
頭のイイ彼の事だ。どれも可能だろうし、私が望めば、やろうと思えばやってくれる。
・・・・・でも、何故か『今決める』と言う選択肢も、私には無かった。
「・・・・・少し、このままで居て・・・・・」
今出せる答えは、これしか無かった。
「!・・・・・わかりました、姉上」
一瞬、驚いた素振りを見せた後、直ぐに優しい声音で言った。
今思えば、彼の【凍える朝】は、あの時既に6年経っていたと言うのに。
【愛していた人を亡くした】者同士として、【生き方が分からなくなった】者同士として、彼はこの《凍える朝》を、私を独りにしないで居てくれた。
・・・・・それが、あの子の一番の優しさだったと気付くのは、様々な事が一段落した後の話。
By 絶望していたある刑事の、冬の朝の回想。
11/2/2025, 10:28:22 AM