あの子がいなくなって、もう5年になる。
カレンダーをぼんやり眺めながら、
私はまた迫ってくる悲しみに備えた。
つい昨日の出来事のように感じるのに、
時間は正確に流れてく。
流れなくていい。
いっそ、あの別れの日のまま、
時間が止まってくれればいいとさえ思う。
あの子のふわふわとした毛並みの感触や、ほっとする
体温、ひだまりのような匂い。
日々の中でのあの子の仕草。
そんなことがどんどんおぼろげになっていくくらいなら、あの時のまま、空虚な時間の中にいたい。
無色の世界に…
「…会いたいな…
会いたいよ…」
どうしたって叶わない願いは、私からは消えない。
「いい。お前は、そのままでいい」
なんでそんなこと、今頃になって言うんだよ。
ベッドに横たわる親父にそう心で毒つきながら、俺は泣きそうになるのをこらえた。
俺は昔から、兄と比べられてきた。
兄は小さい時からなんでもそつなくこなす奴だった。
勉強にしろスポーツにしろ、人間関係にしろ、なんでも上手くやっていた。
成績優秀、容姿端麗。
そんな言葉がぴったりな兄は親戚や両親、特に母親の自慢だった。
⚠途中
「あぁ〜、もう5時30分かぁ」
読んでいた本から目を離し、壁にかけられた時計を確認して、私は残念、とため息をついた。
休みはどうしてこんなに時間が経つのが早いのか。
「永遠のテーマだよねぇ、ロン」
床で気持ちよさそうに寝ているハチワレに声をかける。
眠そうな顔をこちらに向けてきて、数秒見つめ合ったけれど、またコテンと寝てしまった。
可愛くて自然と口元が緩む。
日課の手帳を書くために机に向かう。
ご飯は書いてから食べよう。
お気に入りの手帳を眺めて、ゆっくりと開く。
もう8月も今日でおしまい。
「来月はどうしようかなぁ〜」
そう呟いて、ハタとこの前のことを思い出した。
仕事もプライベートも上手くいかず、友人に「もーっ全部どーでもいい!」と愚痴っていたのだ。
それなのに今…。
「…なんだかんだ、期待してんだ」
自分にも、未来にも。
小さく笑い、引き出しからかわいい便箋を出し、万年筆を走らせる。
今月も、楽しく過ごしてください。
締めくくりはいつもこれだ。
来月の自分へ向けた、エールの手紙。
END
動物を飼うのは初めてではなかった。
「リオ…」
遠慮がちに声を掛けた。
人に対してもそうだが、私は動物にも人見知りをする。
辺りをソロソロと伺いながら、1匹のグレーの猫が出てくる。
その姿を見て、胸にじんわりと暖かいものか込み上げてきた。
「今日から一緒に暮らすんだよー。よろしくね」
私の言葉を聞いているのかいないのか、リオは辺りをキョロキョロと落ち着かない。
それはそうか。
おばあちゃん家とは違うんだから。
じっと一点を見つめるリオの横顔をみて、目がガラスみたいだな、と思った。
「猫の目ってこうなんだ…」
感動と新しい発見をした気持ちでしらばく見つめる。
撫でてもいいだろうか。
いやいや…しばらくそっとしておいた方がいいでしよう。
私は腰を上げた。
すると、柔らかく、ほっとするぬくもりがふくらはぎ辺りから伝わってくる。
「ナーン」
私の目をまっすぐ見て、リオはキラキラと光る瞳を向けてくる。
…かわいいな。
「…リオ」
「ナーン」
「リオ 」
「ナーン」
…なんだか泣きそう。
返事を返してくれることが、
こんなにも心にくるとは知らなかった。
これから何年、一緒にいれるだろう。
それでも、この新しい生活の始まりの日のことは、ずっと忘れない。
END
星明かりを受けた瞳が、ガラスのようにキラキラしていた。
「ははっ。
リオ〜、どーしたのそんなところでじっとして」
私は窓辺にちょこんと座って大人しくしている愛猫に声をかけた。
リオはかれこれ10分くらいは同じ場所にじっと外を見ている。
とくにお気に入りの場所というわけでもないのたが。
リオはくるりと顔を私に顔を向けたが、またすぐに
窓の外に目を向ける。
構ってもらえないので、私から近寄る。
「なーに見てるの」
⚠途中