いす

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12/20/2023, 9:45:55 AM

「手らしい」
「何が?」
「寂の又の部分」
「へえ、左側は?」
「忘れた」
うかんむりの下で手が何かを触っているのだろう、という当たりをつけることになる。その者は1人なのだろう。又の字は1人分にしか見えないので。左側を忘れた男が寂の字に「さびしいか?」と問いかけている。奇怪な男だ。ならせめて思い出してやれ。今この場でこの小さな家で1人で何かに触れている者を、孤独から解けるのはお前ただ1人だ。

12/19/2023, 9:17:07 AM

ことさらこの冬がそうであるようにと祈り続けている。普段祈りなどしないので祈りの作法に準じているかは知らない。
名も知らぬ神よ、私の声は、あるいは視線はそこまで届きますか。この2人が分かたれることがありませんように。ただそれだけです。この2人が互いを抱きしめ合う日が多くありますように。ただの2人でいても孤独であると知っている2人です。ただの2人でいても互いを分かち合えないと知っている2人です。だから隣り合うと決めた2人です。愛など知らないと嘯きながら、いまこの世で一番慈しみに溢れた2人です。

12/18/2023, 9:51:25 AM

ここでとりとめもない話をしはじめてもうすぐ100日になる。大体は創作の根やアクセントに後々使われるが、その日その日書くものなので、間接的に日記という機能を兼ねており、読み返せばその日何があったかを薄っすら思い出せる。
君がいなくなった翌日の朝の空気を思い出している。日々書き換えられていく記憶が、「これはあの日の朝の空気です」といった顔をどうにか取り繕って私にその瞬間を差し出す。その不確かで曖昧な記述や行動や現象に囲われながら、君の不在という確かな事実を抱きしめている。

12/16/2023, 2:19:32 PM

愛などお前は知り得ないくせに、優しさなどお前は持ち得ないくせに、その丸々とした眼から溢れるなみだがこの身に落ちて熱を奪う。この頭の痛みが、喉の痛みが、胃の痛みが、節々の痛みが、この部屋で唯一私たちの体を受け止めるゆりかごのようなソファに揺られている。地獄である。楽園である。ただの現実である。お前の人ならざるただの人の涙が、私をただの適温にし、ただの人にする。

12/15/2023, 6:06:00 PM

雪の降らない南国に雪の降る恋のうたがある。お前を待つときに何となく思い出す。歌えやしない。その土地の言葉とその土地の節で歌われるそれはどうにも難しい。だからお前を待つときに何となく思い出している。目の前にいないお前を想像のなかに描くのはそのくらい難しい、という話だ。だから消えないでくれよ、という話でもある。うたえないうたのために何となしに宙で指揮を振る。お前を待っている。お前を。

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